DATE 2026.08.12

YOUR LIKE, YOUR HOUSE
急がず、壊さず。自分の色を重ねる家

誰かの家に一歩足を踏み入れた瞬間、「あ、この人の世界だ」って伝わってくることがある。飾ってあるもの、選んだ色、光の入り方。それはきっと、その全部にその人の「好き」を感じられるから。

この連載では、「好き」から始まる家づくりを提案するDoliveが、自分の「好き」をまっすぐ空間に落とし込んでいるクリエイターたちの家を訪ね、彼らがなぜその選択をしたのか、どうやって「好き」をカタチにしたのか、じっくり紐解いていきます。

今回ご登場いただくのは、『STUDIO THE BLUE BOY』を主宰する正田啓介さん。山肌の別荘地に建つ一軒家を購入し、急がず、壊さず、時間をかけて自分の色を重ねました。既にある表情を受け継ぎながら、好きな青色を躊躇なく。正田さんのセカンドハウスから見えてくる、「好き」をまとう家づくりのヒントとは。

旅先で出合った光景を、暮らしの中に連れ帰る。

正田啓介さんはアートディレクター、グラフィックデザイナー、さらにはインテリアデザイナーの顔を持ち、『STUDIO THE BLUE BOY』という名のインテリアブランドを手掛けています。

現在の活動につながる大きな一歩となった場所は、ルーヴル美術館の目の前にあるかつての王宮、パレ・ロワイヤル。2019年、その一画にあるギャラリーで個展を開催したところ、日本から持参した約30点の絵がほぼ完売したといいます。

そして今、ブランドの中核を担うのはラグ。日本各地の伝統工芸や素材を現代的に再解釈したプロダクトを発信し、旅好きの正田さんは異国の地で出合った建築物やアートをインスピレーションの源に、脳裏に焼き付いた光景をデザインに落とし込んでいます。

その眼差しは自身の住まいにも注がれ、旅先で心を動かされた色や質感も、光の記憶も、仕事で培ってきた「好き」を見つける感性は、そのまま自分の家づくりにも息づいています。

家づくりアイデア①
新旧の表情入り交じる、リノベーションハウス。

お邪魔したのは、正田さんとパートナーが週末を過ごすセカンドハウス。駅から車を走らせること数十分。山肌の別荘地に建つセカンドハウスには『House of Blue Boy』という名が冠されています。

「この家を購入したのは1年ほど前。二拠点生活を強く望んでいたわけでもなく、都内とは別にもう一つくらい拠点があってもいいよね、くらいの感覚でした。そのくらい気軽にいくつかの物件を見て回っているうちに、ここに心を奪われてしまったんです。これはもう、買うしかない!って」。

正田さんを魅了したのは、住まいの窓から見える景色。天気のいい日、とりわけ空気の澄んだ秋冬には堂々たる富士山の姿がくっきりと見え、その景色をゆったりと堪能できるバルコニーまで備えた、1990年代築の2階建て物件です。

「それに造りがものすごく丁寧なんです。設計もきちんと練られているし、建材なんて、今のご時世にはあまり見掛けないくらいに上質です。私はこれを生かしたい。すべてを解体してはもったいないし、何より、この家を別人にするようなことはしたくなかった」

そのために選んだ手法は、実直にして独特。正田さんはすぐにリノベーションに取り掛かることはせず、パートナーと共にこの家が持つ表情をじっくりと探り、理解し、少しずつ自分たちの色を重ね、混ぜ合わせていったのです。しかも、1年もの時間をかけて。

家づくりアイデア②
四季を知ったからこその、フィックス窓。

「日当たりって、住まいの印象を大きく左右しますよね。日差しの強さも差し込み方も季節によって変わるし、景色の見え方も変わります。だから変に急がず、この家が四季を通じてどんな変化を見せるのか、きちんと知っておきたくて」

富士山を望むロケーションに強く惹かれた正田さんだからこその、「四季を知る」という選択。そのスタンスが色濃く表れているのが、リビングに設えられたフィックス窓です。

リノベーション前から位置は変えず、一般的な引き違い窓からはめ殺しへとアップデート。日差しを受けては光を乱反射させ、影が差せば色の濃さを増す木々を、フラットなガラスが借景のごとく切り取ります。窓の位置に合わせるように造り付けたライトブルーのソファが映えるのも、背景の緑があるからです。

家づくりアイデア③
思い切りが調和を生む、ポップなスチール階段。

ひときわ目を引く、ミントグリーンに塗装されたスチール階段。グリーンの色彩が窓から見える緑の木々とリンクしながらも、その表情は紛れもなくポップです。いさぎよいまでのポップさが、1990年代に建てられた物件に新たな息吹をもたらしています。

「リノベーションはしても、別人にはしたくない。この家がいかに丁寧に造られているか、気づいたときから決めていたことです。階段も、階段からつながるロフトもそのまま生かそう、と思いました。でも、受け継ぐべきところは受け継ぎながら、何か新しく、自分たちらしいキャラクターをプラスしたかったんです」

聞けば、リノベーション費用のうち、最もコストを要したのがスチール階段へのコンバート。それでも正田さんは出費をいとわず、「かわいい家って、何かしらのポイントがあります」。その言葉どおり、ミントグリーンの階段は、訪れた人の視線を惹きつけるアイキャッチ。

丁寧に造られた空間の佇まいと、正田さんの軽やかにしてエッジィな感性。原型を重んじながらも思い切った、その鮮やかなミントグリーンの色彩が緩衝材となり、そのまま生かした構造や建材も、新たに取り入れた家具も雑貨も、窓から見える景色も、一つの色に溶け合っています。

家づくりアイデア④
好きな色を躊躇なく、内装に取り込む。

「この家、色も好みだったんです。幼いころはピンクが好きでした。それが男の子なら青!って自分に言い聞かせているうちに、今では本当に青が好き。青ってロイヤルなイメージがある一方、働き者の色でもあるし、中性的で中立的な色。どんな場所にも自然となじみます」

正田さんのセカンドハウスは、爽やかなライトブルーの外観。 玄関には藍色のタイルが張られ、「この色がすごく気に入って、ここはこのままです」。そして、正田さんの青好きを象徴するのが、自らが制作した美濃焼のタイルが目を引くバスルーム。

「建材の制作は初めての経験でした。試行錯誤を繰り返しながら、家を取り囲む緑の景色に呼応するような、静謐な紺碧の色合いを基調にエッジをぼかして、水たまりのようなイメージ。このタイル、コースターやディスプレイピースとして使ってもかわいいんです」

家づくりアイデア⑤
和の記憶を、現代の色でアップデート。

そのままに生かされた窓の位置や階段の位置、藍色の玄関タイルのように、あちこちに残る丁寧に造られた空間の面影。けれど多くの人にとって、和室はきっと悩みのタネ。正田さんも例に漏れず、「フローリングに張り替えて、洋室にすることもできたんだけど」。

「でも、やっぱりもったいない。畳は日本の伝統文化であり、湿度調整にも優れています。この利点を生かしながら、畳に感じる古めかしさの概念を取っ払って、色すら変えてしまえばいい。バーガンディーに染色したイ草に、アイスブルーの縁取りをした畳を敷きました」

この畳もまた、正田さんが手掛けたプロダクト。固定観念にとらわれない色彩が、和室のイメージを現代に引き寄せています。押し入れの戸は取り外し、床の間さながらの面持ちに。畳と床の間という伝統を踏襲するからこそ、卍を描くようなライトの存在感が際立ちます。

この家は、コミュニケーションツール。

正田さんがセカンドハウスを手に入れたのは、2025年初夏のこと。急がず、壊さず、土地の四季を知りながら進めていったリノベーションが完了したのは、つい最近のことです。

「富士山の眺めはもちろん、今はこの家の環境すべてが好き。友人はもちろん、ご近所のマダムを招いては、一緒に食事をすることもしばしばです。いろいろな人を招いて、おしゃべりして、暮らしが豊かになることが一番! この家は、私たちのコミュニケーションツールでもあるんです」

さらに正田さんは近い将来、『House of Blue Boy』と名付けたこの場所にブランドの顧客を招き、自身が手掛けるプロダクトのショールームとしても機能させようと考えています。

「ラグを例にしても、サイズ選びってすごく大事。でも、そこをきちんと把握できたなら、ラグは住まいのアイコンになります。私がラグを起点にインテリアデザインを始めたのも、理由はそこ。いつも踏みつけられてばかりの地味な存在だけれど、ラグは偉大なんです」

受け継いだものを壊さず、そこに自分の「好き」を静かに重ね、混ぜ合わせていく。正田さんの家づくりは、既にあるものへの敬意と揺るがない美意識のあいだで生まれた、心地よい調和にあふれていました。

富士山を望むこの家は、これからも人を招き、会話を生み、少しずつ表情を変えていくのでしょう。「好き」を詰め込んだ家は、暮らしそのものを豊かにしてくれる。正田さんの『House of Blue Boy』は、そのことを軽やかに教えてくれます。

Custom your own No.00
この家で集めた「好き」を、Doliveの家にカスタム!

正田さんの『House of Blue Boy』から抽出した「好き」を、Doliveの家『No.00』でカスタムしてみたら?!

まず目を引くのは、外観をまるごと包み込む青いタイル。正田さんが「どんな場所にも自然となじむ」と語った、あのお気に入りの青をいさぎよく、一番外側にまで広げてみました。そして、正田さんが心を奪われた、住まいの窓から望む風景。その景色を存分に味わえるよう、2階にはフィックス窓を設えています。

内観は、青とは対照的に。1階にはローテーブルやキッチンカウンターに着想を得たえんじを、2階はやわらかな薄紫に。大開口の奥には、正田さんのセカンドハウスの象徴だったミントグリーンのスチール階段を思わせる差し色を効かせました。外は青、中は暖色。受け継ぎながら自分の色を重ねていく感性をカタチにしました。

今回は、正田さんの取材を通じて感じた「好き」でNo.00をカスタムしたけれど、次はあなたの番。No.00は、どんな「好き」も受け止めてくれる一軒だから。自分だけの色を重ねる家を、自由に妄想してみない?

Photo/宮前 一喜 Text/大谷 享子 Illustration/ヤマグチ カヨ Edit/中島 直樹

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