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DATE 2017.03.01

金継ぎの“RE”/「モノ継ぎ」〜後編〜

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日本古来の"Re"pair技術「金継ぎ(きんつぎ)」を通して、壊れた器を修理するだけではなく、さまざまな人の想いも継いでいる、美術品・器のお直し「モノ継ぎ」。後編では、金継ぎや漆の魅力、「モノ継ぎ」ならではのこだわりに迫りたいと思います。(前編はこちら

割れた跡を“美”と捉え、金継ぎで繕ったところを“景色”と呼んで楽しむ文化は、日本独特のもの。そうした侘びさびの心や、傷ついたことをなかったことにせず修理して大切に扱おうという考え方、それが、金継ぎの魅力だと持永さんは言います。

継ぎ跡に刻まれる“いたわりの気持ち”

世の中にはさまざまな“Re”pairの技術がありますが、その中でなぜ金継ぎに着目し「モノ継ぎ」という修理屋を始めたのか、そのきっかけについて「モノ継ぎ」代表の持永さんにお話を伺いました。

持永

壊れた跡を残さず元の状態に戻すのが「修復」。博物館や美術館の所蔵品によく見られる、主に西洋で培われてきた技術です。跡かた無く「修復」してしまうと、いつしか壊れたという過去を忘れてしまうかもしれない。そして、修復した器は食器として使えなくなり飾っておく観賞用の器になります。それに対して、金継ぎのように、壊れた継ぎ目を残して使えるようにすることを「修理」と言います。傷つけたり、壊れてしまった事実をなかったことにせず、あえて継ぎ目を見せて装飾するからこそ、「捨てなくて良かったな」「また割らないように丁寧に扱わないと」「今こうして使えるようになって嬉しい」という、"モノを大切に扱う"という想いが生まれるんだと思います。これって、とても日本人らしい考え方だと思います。

金継ぎによって新たに生まれるモノの価値とは

持永

壊れたり、割れたりせずそのまま使い続けるのが本当はいちばんなんです。でも、意図せずにできた割れ目や欠けのかたちには、人の作為では決して踏み込めない、偶然ならではの美しさがあります。私は常時100個ほどのご依頼品をお預かりしていますが、どれをとっても割れ方や欠け方が違うんです。

独特の線やかたちを見て、修理しながら「キレイだな」とハッとすることもしばしば。金継ぎは文字通り、仕上げに金を使うので、それによって価値が上がるという考えの方もいらっしゃいます。でもきっと、金継ぎで上がるのは価値ではなく、魅力なんですよね。割れ方ひとつとっても同じものはなく、その曲線や継ぎ目が新たな魅力となっていくんだと思います。

「モノ継ぎ」をはじめた頃の気持ちを忘れないためにも

新たな魅力を生む、金継ぎという修理をする修理屋「モノ継ぎ」としてこだわっていることをお伺いしました。

持永

いちばんのこだわりは、日本産の漆を使うことです。実は今、日本で消費されている漆の98%は中国産の漆です。決して、中国産の漆の質が悪いということではないのですが、せっかく日本に漆の木があり漆を掻く人がいてその道具を作っている人がいる。ならば、その流れを守るためにも、日本産漆を使わせていただこうと思っています。そして、日本産漆の最大の産地は東北です。私がワレモノ修理「モノ継ぎ」を立ち上げたきっかけは東日本大震災の復興支援活動するイベント「アートレスキュー」に参加したこと。私が使う漆の量は決して多くありませんが、その気持ちを忘れないためにも、このこだわりは持ち続けていきたいですね。

“日本古来の文化”だからこそ、正しく継承していきたい

最近、器の好きな人が増えていることもあり、自分で金継ぎに挑戦する人も多くなっているそう。しかし、その一方で、漆を使わずに合成接着剤で直す金継ぎが広がっているという事実もあるようです。「漆で直すことが当たり前になるように発信していきたい」と話す持永さん。

持永

そもそも、金継ぎは日本発祥の文化です。その歴史は深く、縄文時代の出土品に土器を漆で直した跡が残っているほど。漆は「難しい」「敷居が高い」と思われがちですが、縄文人が使えるのに、現代人が使えないわけはないですよね(笑)。金継ぎの材料だって、漆の他は小麦粉や上新粉や砥の粉など、身近なものばかり。しっかりと覚えれば、自分で金継ぎをすることも可能です。しかし最近では、漆の代わりに合成接着剤を使って接着するなど、本来の金継ぎとは違う方法で直している教室もあるようです。漆なら1ヶ月かかる直しが、合成接着剤なら1日で直せる。漆かぶれの恐れもない。でも、安全基準をクリアしていない合成接着剤や塗料で直した食器を、私なら使う気にはなれません。大切な器ならなおのこと、時間をかけて漆で繕ってほしいと思います。今、「モノ継ぎ」では修理受付がメインですが、今後は私なりのやり方で、漆による金継ぎの魅力をじわじわと広げていきたいですね。「ちゃんと使えるように直すこと」そこから生まれるさまざまな「作用」を伝えていきたいと思います。

1月イベント風景(写真提供 D&DEPARTMENT TOKYO)

割れた跡をあえて残して直す金継ぎを通じて、モノそのものや、その背景に存在する大切な人との思い出や気持ちまで継いでいる「モノ継ぎ」。それが「モノ継ぎ」ならではの“RE”のかたちでした。壊れたまま捨てられずに残してある食器などがある方はぜひ、金継ぎという“Re”pair技術でモノを直すと同時に、そのモノに対する想いも一緒に継ぎませんか…?

●PROFILE:「モノ継ぎ」持永かおり

「モノとヒトを、修理という技術でおツギいたします」というメッセージのもと、日本古来より伝わる「金継ぎ」というリペア技術で、陶器やガラスの食器・置物などさまざまなワレモノの修理を手がける。2ヶ月に一度、東京都世田谷区の「D&DEPARTMENT TOKYO」にて金継ぎの公開受付も定期的に開催中。
公式サイト:https://www.monotsugi.com/