●PROFILE:「モノ継ぎ」持永かおり
「モノとヒトを、修理という技術でおツギいたします」というメッセージのもと、日本古来より伝わる「金継ぎ」というリペア技術で、陶器やガラスの食器・置物などさまざまなワレモノの修理を手がける。2ヶ月に一度、東京都世田谷区の「D&DEPARTMENT TOKYO」にて金継ぎの公開受付も定期的に開催中。
公式サイト:https://www.monotsugi.com/
みなさんは、「金継ぎ(きんつぎ)」をご存じでしょうか。割れたり、欠けてしまった陶磁器を漆で接着し、繕った部分を金粉で装飾する、日本の伝統的な“Re”pair(修理)技術です。骨董品や抹茶茶碗などの高級品を主な対象としてきた日本の伝統技術ですが、最近では身近なモノにも活用されている金継ぎ。今回の『くらしの“RE”』では、全国から金継ぎの依頼を受けている、美術品・器のお直し「モノ継ぎ」をご紹介します。
世の中にはさまざまな“Re”pairの技術がありますが、その中でなぜ金継ぎに着目し「モノ継ぎ」という修理屋を始めたのか、そのきっかけについて「モノ継ぎ」代表の持永さんにお話を伺いました。
持永かおり(以下、持永)
私は学生時代、美大でガラス工芸と陶芸を専攻していました。その頃から、モノを一度割ってからくっつける……という作業を繰り返していたんです。焼き物の作品で、とても窯に入りきらないような大きな作品がありますよね。あれは焼く前に窯に入るサイズにまで分解し、焼き上げた後に再び接着する……という工程を踏んでいるんです。卒業して陶芸の指導をはじめてからも、生徒さんの割れてしまった花器やオブジェを、合成接着剤を使って直したり……「割れたモノを直す」という行為は私にとって日常的でした。でも、友人がくれた大切な食器を割ってしまったときに自分でその食器を直せないことに気づいたんです。「飲食に使う器に、陶芸の作品を直すときに使う合成接着剤は使えない。長年、多くの陶芸作品を直してきた直しのプロなのに、自分の大事な飯碗ひとつ直すことができない……。」と気づき、唯一安全に飲食に使える接着剤である「漆」の勉強を始めました。そんな風に、最初は“自分のため”でしたが、その後、“誰かのため”に活動するきっかけになったのは、東日本大震災でした。
震災が起きた当時は、日本中の人が「自分のあり方」を見つめ直したと思います。「自分には何ができるのか」を私も模索していました。そのさなか、美術家の友人から「美術家やアーティストのアート活動を通じて支援活動をするイベント「アートレスキュー」を開催するから参加しないか」と声をかけてもらったんです。その当時は陶芸の指導をメインに行っていたので、食器を作ることはできましたが、それこそ食器を作る人は大勢いる。今この状況において、私だからできることはなんだろう?と考えた際、「割れてしまったものを直すこと」だなと。それが、ワレモノ修理プロジェクト「モノ継ぎ」としての第一歩でした。
“誰かのために”という想いを胸に「モノ継ぎ」を本格的にスタートした持永さん。最初は友人・知人からの依頼がメインでしたが、「D&DEPARTMENT TOKYO」の主催するイベントで金継ぎを受け付けるようになるなど、お客様の層も広がっていったとのこと。“金継ぎ”という修理を行うことで見えたもの、気づかされたことなどのお話を聞かせてもらいました。
持永
金継ぎと言えば、骨董品や抹茶茶碗など“高貴な食器を、高いお金をかけて直す”といった伝統工芸的なイメージがあるかもしれませんが、実際に依頼されるのは“身近なモノ”が多いんですよ。食器や置物に留まらず、ガラスのランプシェード、万年筆など、依頼されるモノも多種多様です。ノベルティのマグカップや、数百円で購入したというお盆などもあったり。すべてのモノに共通して言えることは、そのモノに対して深い思い入れがあること。
持永
“間もなく成人する娘が、まだ小さい頃に壊してしまったんですが、娘の気持ちを思いずっと捨てられずに持ち続けていた”という「湯飲み」、“30年以上前に割れてしまったまま、ずっと食器棚の奥に眠らせたままになっていて”という「ガラスのピッチャー」、“亡くなった母にとって自慢のものだったので捨てるなんて考えられなかった”という「花器」など、依頼されたモノのひとつひとつに、大切な人やモノとの思い出や、割ってしまった人を思いやる気持ちなど、特別な想いがあるんですよね。ただ、私に出来ることは大したことではなくて、その人の、モノを大切に思う気持ちに寄り添って直していく。ただそれだけなんだと思います。 無事に修理を終えてお返しすると、お礼のメールやハガキが届くことがあります。「10数年ぶりに使えるようになって嬉しい」「また、この花器と一緒に生活ができます」「直してくださって本当にありがとうございます」など、喜びの声を聞くたびに、この仕事をやっていて良かったなと、心の底から思います。
「モノを直して、人の想いも継ぐことができる “Re”pair技術」金継ぎ。後編では、金継ぎという手法でモノを直すことによって生まれる新しい価値や、金継ぎそのものの文化についても詳しくご紹介します。
「モノとヒトを、修理という技術でおツギいたします」というメッセージのもと、日本古来より伝わる「金継ぎ」というリペア技術で、陶器やガラスの食器・置物などさまざまなワレモノの修理を手がける。2ヶ月に一度、東京都世田谷区の「D&DEPARTMENT TOKYO」にて金継ぎの公開受付も定期的に開催中。
公式サイト:https://www.monotsugi.com/