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DATE 2017.04.19

日本の古家具の“RE” ~後編~

埋もれた日本の家具を自らの目で「“Re”discovery=再発見」し、「“Re”valuation=再評価」して、手仕事の町・益子から発信する仁平さん。前編では仁平さんが手がける2つのショップの誕生秘話や、日本の古家具の魅力を語っていただきました。後編では古家具を扱うプロとしてのお仕事や、実際に古家具に興味がある人に向けたアドバイスなどをご紹介します。

古家具の仕入れと目利きの基準

仁平

私たちが扱う古家具の仕入れは、全国に点在する市場に出向き、行います。市場にはそれぞれの色や個性があって、壺や掛け軸と言った骨董品が中心の市場もあれば、インテリア向きの古いものが集まってくる市場だったり……長年やっていると、だんだん自分のお店に合った市場がわかるようになってくるので、最近は決まった市場に行くことが多いですね。市場には手入れする前の状態の古い品物が山のように積んであって、魚市場と同じようにいわゆる「競り」が行われます。市場に集まる人たちは、ある程度近い価値基準を持っているので、人気のある家具の競争率は高くなります。でも、一方で、まだ人気のないジャンルやかたちに目をつけて、自分のスタイルをつくっていくような人たちもいて。その中でカリスマ的なお店が生まれ、新たな流行になって、価値や価格が変わっていくんです。

仁平

買い付ける家具を選ぶ基準は状態も大切ですが、自分たちの工房で直せる範囲がわかっているので、基本的にはその範囲で選んで買い付けます。だから、「これはすごいイイものだけど、手に負えない」というものは買いません。1回の仕入れでだいたい自社のトラック2台分の家具を仕入れて持ち帰ります。工房に戻ったら倉庫にストックしておいて、2つのショップの在庫の状況や、品物のコンディションを考えながら、修理する順番を決めていきます。工房には修理を手がける専門のスタッフがいて、その順番にあわせて仕事を進めてくれます。 お店にはお店の専門スタッフがいるので、お店から「こういうものが売れました」と言われたら、工房に「アレが売れたから次はこれを出そう」と伝える。僕は工房とお店の間をつなぐ役割を担っている感じですね。

古いものに新しい命を吹き込む仕事

アンティーク家具やヴィンテージ家具を扱うショップの個性やセンスが表れるのはやはりセレクトと品揃え。でも、もうひとつ忘れてはいけないのが修繕の技術や仕上げ方です。仁平さんのお店では、どのようなかたちで古家具に手を加えて、お客様のもとに届けているのでしょうか。

仁平

うちの修繕作業ではサイズを変えたりはしません。江戸時代の家具でも、食器棚などは傷んでいる部分を補強したり、引き出しを滑りやすくメンテナンスすれば十分使えるんですよ。需要が高いダイニングテーブルなどは、当時のものがほとんどないので、市場から古材を買ってきて、ストックしておいて、オーダーを受けてから脚をアイアンで溶接してつくるというやり方で、テーブルに代わるものを提供しています。古材でつくれば雰囲気も出ますし、値段も抑えられますしね。

江戸時代の薬屋で使用されていたと思われる棚。元々は黒く塗られていたが、pejiteで白木の状態に加工している。
和風なのにモダンな、独特の仕上がり。

仁平

『pejite』では白木の状態の家具を多く扱っていますが、これは、元々の色をはがしているんです。骨董や時代家具の世界では、オリジナルの状態……つまり黒や茶色の濃い色が好まれますが、現代の家や部屋の中ではどうしても重厚すぎてしまう。だからあえて、修理する際に白木の状態に加工しています。もちろん、元のままの方がいいものは、そのままで店に置きますが、明治、大正の西洋文化の影響も受けた日本の古家具が白木になると、どこにもなかった不思議な魅力が生まれるんです。よくお客様からは「これはどこの家具ですか?」と聞かれることも多いですね。これも僕なりの楽しみ方の提案だと考えています。

自分なりの「いい」を信じてほしい

仁平さんの独自の目利きと手仕事によって再び命を吹き込まれたさまざまな家具たち。「自分もひとつほしい!」と思った人も多いと思いますが、一方で、「これ、ウチの部屋に合うかな?」「上手くコーディネートできるだろうか?」という不安を持った方も少なくないのでは。最後に、仁平さんから、日本の古家具を楽しむコツをうかがうことにしました。

 

仁平

興味さえあれば、まずはリーズナブルなものから気軽に楽しんでもらうのがいいと思います。「こういうのいいなあ。でも、全部、このテイストで揃えなきゃいけないのかな……」と思っている方もいらっしゃいますが、そんなことは気にしなくても大丈夫。現代につくられた家の中に、古い丸椅子が置いてあるだけで心が和むような感覚ってあると思うんです。

仁平

先ほどもお話ししましたが、お店に並ぶ古家具はメーカーやブランドがない時代のもの。つまりはほとんどが職人の手にによる一点物なんです。だからこそ、お店でその家具と出会い、気に入って購入し、自分の部屋に置く、という一連の流れの中には、運命的な偶然や物語、お客様それぞれの想いがあると思います。そんな想いのある家具が暮らしの中にあったら、きっと毎日が楽しくなるはず。忙しい時間を過ごす人が多い時代だからこそ、そういう感覚を大事にしてもらえたらなと思うんです。だから、「モダンな部屋にはこの家具ですね」というような提案よりも、「その椅子がひとつあるだけでも豊かな気持ちになれますよ」というお話をしています。自分が感じた「これいいな」とか「これ好きだな」という感覚を信じて、難しく考えずにカジュアルに楽しんでほしいですね。

仁平

私が扱ってきた日本の古家具には、自分の基準で選ぶ楽しさがあると思うんです。私が益子の町で商売をしようと考えたのも、物置くらいしか使い道がなかったであろう米蔵で『pejite』をはじめたのも、「東京ではできないことをしたい」「古家具の魅力を伝えたい」という自分の基準があったからこそだと思います。「田舎って自然が豊かでいいよね」と言われることは多いですが、『pejite』の大空間のように、益子だからできることをもっと追求して、この町の魅力をより多くの人たちに「“Re”discovery=再発見」し、「“Re”valuation=再評価」してもらえたら。そんなふうに考えています。

『仁平古家具店』『pejite』だけでなく、『喫茶Salvador』なども営み、益子町の“目的地”をつくろうと、さまざまな活動を続けている仁平さん。取材にうかがった際も、『pejite』の駐車場には遠方のナンバーがついた車がたくさん停められており、仁平さんの“RE”な想いが、益子町という地域そのものの魅力を拡げているのだと実感することができました。今度はどんな“RE”に出会えるのか……次回の更新をお楽しみに。

●PROFILE:仁平 透(仁平古家具店・pejite)

栃木県芳賀郡益子町出身。東京で中古レコード販売などを経験した後、2009年、地元に戻り『仁平古家具店』を、さらに2014年には『pejite』をオープンさせる。アイテムの仕入れや見立てはもちろん、リペアの方向性の指示など、幅広い仕事を手がける。その独特のセレクトやリペア、リーズナブルな価格設定、お店の雰囲気などに惹かれ、県外からも多くのファンが訪れている。