今回は、「“Re”cycle(リサイクル)」の一歩先を行く「Upcycle(アップサイクル)」という、新しい“RE”のかたちに注目。「アップサイクル」とは、素材や原料の再利用と循環を目指す「リサイクル」に対し、再生前よりも高い価値を生み出す取り組みのこと。そんな取り組みを飲み終わったワインボトルを使って行っている、ブランド『funew(フニュ)』をご紹介したいと思います。
ガラス製品の問屋から生まれた、新しくて楽しいアイデア。
『funew』をつくり出した『木本硝子』は80年以上の歴史を持つ老舗のガラス製品の問屋。長い伝統を持ちながらも、今のライフタイルに寄り添った画期的で魅力的なものづくりで国内外から高い評価を受けています。『funew』が生まれた背景には、ガラス製品の問屋の立場だからこそできた発想があったとか。早速、代表の木本 誠一さんにお話をうかがいました。
木本 誠一(以下、木本)
『木本硝子』の創業は昭和6年(1931年)。私で3代目になります。「問屋」というと、製造元から商品を仕入れて、お店に売る仕事というイメージがあるかもしれませんが、つくる現場や職人の技術と、お客様のニーズ、販売するお店のトレンドを理解してそれぞれをつなぐことができるのです。それは、いわばプロデューサーのような立場。現在の『木本硝子』では、この立場だからこその強みを生かして、時代に合った商品の企画や開発に力を入れています。
木本
例えばこの黒い江戸切子。江戸切子と言えば、赤や青のものが主流ですが、それが似合う和の家って、今の日本にはなかなかないですよね。マンションのフローリングの空間で、若い人たちがカジュアルにお酒を楽しむ……そんなシーンをイメージしたとき、どんな江戸切子ならしっくりくるのか。デザイナーや職人たちといっしょに、今のライフスタイルに合ったモノを目指してアイデアを練り、デザインし、人気商品になりました。そんな風に自分の手で直接モノをつくる立場ではありませんが、お客様の「こんなものがあったらいいな……」という期待に応えられるモノをイメージする。そして、それをかたちにするためにデザインや技術を持った人たちとタッグを組み、商品をつくり出し、手元にお届けするまでの流れをつないでいく。それが『木本硝子』の、問屋だからできる“モノづくり”だと思っています。
「おもしろい!」から生まれた新しいリサイクルのかたち
長年にわたってガラス製品を扱ってきた問屋ならではのモノづくりを続ける木本硝子。そんな木本硝子がアップサイクルの視点でワインボトルから『funew』を生み出したストーリーとは、一体どのようなものだったのでしょうか。
木本
仕事柄、私の頭の中はいつもガラスのことばかり。それと、大のお酒好きで(笑)。なので、お酒を飲んだ後の空き瓶の使い方についてずっと考えていた時期がありました。ガラス瓶のリサイクルにはいくつかのルールや手段があります。ビールなどによく使われている「リターナブル瓶」なら洗浄して繰り返し使用が可能、その他のお酒の瓶に多い「ワンウェイ瓶」であれば、色別に分別してから粉砕し、再び瓶の原料になる。でも、ワインボトルはリサイクルする上で重要となるガラスの色の分別を完全にすることは不可能に近いため、リサイクルの流れが確立していなく、粉砕して建築資材としてアスファルトに混ぜるか、産業廃棄物として処分するしかないのが実情で。以前から「もったいないなあ」「なにか上手く再利用できないだろうか」と考えていたとき、あるアイデアが閃いたんです。
木本
そもそもガラスというものは通常1550℃の熱で素材を溶かして、ドロドロの水飴のような状態にしてから型に入れてかたちをつくりますが、「これを通常の半分くらいの温度、700〜800℃で加熱したらどうなるのかな?」と思って試してみました。その結果、ワインボトルがこんな平べったいかたちに変化したんです。最初は純粋にそのかたちが「おもしろい!」と思いました。でも、その形状のおもしろさ以上に、捨てるしかなかったワインボトルに新しい価値を与えられること、従来の半分の熱量で加工ができることなどを考えると、これまでの「リサイクル」という概念ではなく、一歩先を行く「アップサイクル」のモノづくりができると考え、商品化することに決めたんです。ちょうど、世の中では「循環型社会」とか「サスティナブル」といった言葉が盛んに叫ばれるようになっていた時代ということも相まって、展示会などに出展する中で、取材や取り扱ってくださるお店が増え、徐々に注目度も上がっていきました。
世界にひとつしかない「アップサイクル」を楽しんでほしい
こうして、かつてない「アップサイクル」の考え方から生まれた『funew』。その魅力や楽しみ方、さまざまな商品展開についてもうかがいました。
木本
『funew(フニュ)』というブランドネームは“fun(おもしろさ)”と“new(新しさ)”を掛け合わせた名前。そして見たまま、フニュっとつぶれたかたちも表現しています(笑)。『funew』は基本的にグリーンとクリアのワインのボトルを使っています。ボトルの形状はワインの種類によって違うし、溶かし方も完全にはコントロールできないので、仕上がりも商品ごとに微妙に異なるんです。だから、同じ『funew』の商品でも、世界にひとつしかないものになる。この中で、自分が気に入ったかたちを選ぶ楽しみやおもしろさ、それもまた『funew』の“fun”なんですよ。
木本
「リサイクル」とか「エコロジー」いう言葉の意味は理解できるけど、何か楽しさがないとどうしても堅苦しくて重たくなってしまう。でも、『funew』なら、このかたちだけを見ただけで、「どうやってつぶしたの!?」という興味も生まれるし、いろいろな使い方をイメージできると思うんです。今では、ボトルを溶かしたものだけでなく、カットしてから断面を研磨してつくる器やグラス、江戸切子の装飾をアレンジしたアイテムなど、ラインナップもいろいろと増えてきています。こんな自由な発想を商品化できるのも、優れた技術を持った職人さんたちがいてくれるから。ふつうに切ればひびが入ってしまうような断面の部分の処理も、丹念な作業で、使いやすいなめらかなかたちに仕上げてくれる。だから、単なる「おもしろい造形作品」ではなくて、「均一なクオリティを備えた商品」としてご提案できるんです。
新宿NEWoManにある「CORK WINE&FLOWER」 funewの商品をディスプレイに使用している。
木本
実際に、『funew』を和食の盛り付けに使うお寿司屋さんが現れたり、壁一面に貼り付けてディスプレイに使うお店ができたり、こういう広がり方をするのもひとつの「アップサイクル」の商品だからなんじゃないかと思います。もちろん、地球環境について考えることは大切ですが、やっぱり生活は楽しんでほし。そういう「生活自体を楽しんでもらいたい=fun」も『funew』の名前には込められていますからね。
「“re”cycle(リサイクル)」という“RE”な取り組みを、さらに“RE”な視点でアップデートした「Upcycle(アップサイクル)」のものづくり。その中で生まれた『funew』は、見た目の魅力だけでなく、日々の生活の中に取り入れることで私たちに新しい“RE”な発想や気づきを与えてくれる。そんなストーリーを秘めたアイテムでした。