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DATE 2017.06.21

フランス古道具の”RE”〜前編〜

「ブロカント(Brocante)」という言葉をご存じですか。それはフランスの人々の生活に根付いた「”Re”use=再利用」のかたち。古い家具や食器などを示す言葉なのですが、欧米でのアンティークやヴィンテージ、東洋の骨董などとは少しニュアンスが異なります。今回はその言葉を店名にしている、自由が丘にあるフランス古道具店『BROCANTE』をご紹介。店主・松田さんに、フランスの人々に愛されてきた「“Re”use」のかたちについて、お話をうかがいました。

生活に根ざしたフランスの古道具文化

『BROCANTE』に置かれている家具や食器などの古道具は、ほとんどがフランスでつくられ、一度は人の手に渡り、使われてきたもの。「フランスの古い家具や食器」と聞くと、家に飾っておく高価なアンティーク品をイメージしてしまう方も多いのでは。でも、実際のフランスでは、もっと身近で、暮らしに根ざした古道具文化があるといいます。

松田 尚美(以下、松田)

店名にもなっている『BROCANTE(ブロカント)』は、フランスではごく一般的に使われている言葉なんです。どちらかというと「アンティーク」よりも身近で、日常使いを前提とした「庶民の古道具」という感じ。その語源は「美しいガラクタ」だとも言われています。街を歩いていると「BROCANTE」と書かれた看板をよく目にするくらい暮らしに密着した、ひとつのジャンルのようなものなんです。日本ではふつう、新品のきれいなものの方が価値が高いとされますが、フランスの場合は、古いモノに価値を感じる人が多いんです。もちろん、古いモノだけに固執することはなくて、フランスの人だって新品も使います。肩肘張らずに、古いモノを自然に生活に取り入れる、そのバランス感覚が好きなんです。

松田

他の国のアンティークや工芸的な骨董品、美術品などは、派手できらびやかで、どちらかというと「鑑賞用」という感じ。でも、フランスで「BROCANTE」と呼ばれる古道具の多くは、華美な装飾がなくて、シンプルでシックなデザインのものが多くて、「飾る」ことよりも「使う」ことが重視されています。余談なんですが、そういう国民性みたいなものは、家庭の庭からも見て取れます。イギリス人の庭にはバラなどの華やかな花が植えられていることが多いのですが、フランス人の庭に植えられているのは食べる植物ばかりだったり(笑)。それだけラフで、実用性を重視する文化なんですよね。

欲しいアンティークに手が出せなかった悔しさ

ワクワクしながら入った素敵なアンティークショップ。でも、小さな器につけられた値札を見たらびっくりするような値段で、とぼとぼとお店をあとにした……そんな経験はありませんか? ほしいけど買えない。好きなのに手に入らない……実はかつて松田さんも、そうしたもどかしい思いをしていたひとりだったとか。手頃な値段でフランスの古道具が楽しめるお店として『BROCANTE』が生まれるまでのストーリーはどんなものだったのでしょうか。

松田

私はインテリアの学校を卒業しているのですが、在学中に併行してフラワーアレンジメントの学校にも通っていて。そこの先生が、お花を生ける器としてアンティークの品を使わせてくれたのが、この世界に興味を持ったきっかけですね。ただ当時のアンティークと言えばアメリカのものがほぼ主流で、高価な物ばかり。だからアンティークショップには当時まだ10代だった私がほしいと思っても買えるものなんてなくて、今の主人と一緒にお店に入って「素敵だね」とは言うんですけど、お店を出るころには腹が立っているんですよ。「今日も何も買えなかった〜」って(笑)。そんな私たちの意識が変わったのは、フランスの蚤の市に行ったときでした。「これいいなあ」と思ったモノを見ると、ふつうに買える値段で売られているんですよね。あれもこれもほしくなってしまうんですけど、スーツケースには入りきらないから持ち帰ることもできない。でも、日本で買おうと思ったら値段は何倍にもなってしまう。こんな状況をなんとかできないかなぁ……と悶々としていたんです。でも、あるときご縁があって、元々フランスに住んでいて、アンティークの輸入に詳しい日本の方と知り合うことができて、買い付けや仕入れ、輸送の知識を教えてもらうことができたんです。

松田

そんな買い付けの話とは別に、ちょうどその頃、造園を教える仕事をしていた主人は独立のために事務所を探していたんですよね。それで、ある日、「自由が丘にかなりいい物件があった!」って、鼻息荒く帰ってきたんです。確かにいい物件ではあったのですが、家賃がネックで。「でも物件ってご縁だし……」といろいろ前向きに考え始めたときには、もう事は進んでいて、気づいたら店主をやることになっていました(笑)。

基準は「生活に取り入れることができるかどうか」

さまざまな出会いが結びつき、オープンしたフランス古道具のお店『BROCANTE』。住宅街の中で、別世界に入ったような不思議な居心地のよさを覚える空間には、松田さんがセレクトしたリーズナブルでシンプルな家具や雑貨が並んでいます。聞けばこのお店は、古い住宅を松田さんご夫妻や友人たちの手によってリノベーションしているのだとか。とても雰囲気のある空間を、どのようにつくってきたのか。気になるお店へのこだわりを聞いてみました。

松田

このお店は築40年ほどの木造建築。出会った瞬間から高いポテンシャルを感じました。「あ、自分に合っているな、やりたいことができそうだな」と。家や建物って、やっぱり実際にその場に立ってみて初めてわかる心地よさってありますよね。その後、活かすところを見極めながら、壁を抜いたり、増築したり、リノベーションを進めていって。主人が造園業をやっていることもあって、左官などの作業ができる友だちも多くて。いろいろな仲間に手伝ってもらいながら、この空間をつくっていきました。

松田

お店に並べる商品は「生活に取り入れることができるかどうか」を重視しています。基本的にデコラティブなものよりは、日常使いできるシンプルなもの。持って帰って家に置いてみても場から浮かず、暮らしに馴染むものがいいなと思っています。ちょっと直せば使えるものとか、かたちはいいけど色があまりしっくりこないものなどは、仕入れてから色を塗ったり、少し手を入れることもあります。でもわざわざエイジング加工して古さや味を出すようなことはしません。「古さ」ってつくり出す価値ではなくて、そのモノが時間を経る中で宿していくものだから。もし私が古さや味を出したいと思ったら、庭にほったらかしにしちゃいます(笑)。それから、なんと言っても価格ですね。やっぱり、元々、私が高くて買えないで悔しい思いをしたことがある人間なので、価格帯にはこだわっています。せっかく足を運んでくださって、惹かれるものがあったのに何も買えなかったっていうのは私も残念なので。そういう価格面も含めて「生活に取り入れることができるか」というのは大切にしていますね。

まさに『BROCANTE』という名前の通り、フランスに息づくReuse 文化をそのままに、お店づくりをしている松田さん。後編では、普段のお仕事から、古いモノの選び方や楽しみ方をご紹介します。

●PROFILE:BROCANTE

自由が丘にある、フランス古道具店。店主の松田さんが感銘を受けたフランスの古道具文化に倣い、生活に取り入れやすいリーズナブルでシンプルなモノを中心にセレクトされている。築40年ほどの木造建築をリノベーションした店内には、独自の空気感とセンスに惹かれた多くのファンが集まる。

店舗情報
BROCANT 公式サイト:http://www.brocante-jp.biz
Facebook:https://www.facebook.com/Brocante.Tokyo/
Instagram:_brocante