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rébon Kaisaiyu,快哉湯 DATE 2022.08.18

明治から続く、下町の銭湯をリノベーションしたカフェ。
rébon Kaisaiyuの空間のアイデア

台東区入谷。昔ながらの下町の街並みに感度の高い店やホテルが点在する、注目のエリアでもあります。明治時代から続く銭湯を改装した建物も、若者から地域の人にまで愛されているカフェとして2020年にオープン。懐かしさと新しさが同居するユニークな空間として人気を呼んでいます。その唯一無二の空間作りのアイデアをカフェを運営する㈱ベステイトの石橋さんに伺いました。
rébon Kaisaiyu快哉湯の内観

明治からの歴史を今につなぐ、
銭湯をリノベーションしたカフェ&オフィス。

rébon Kaisaiyu快哉湯の内観

明治末期に銭湯〈快哉湯〉としての創業。建物は大正12年(1923年)の関東大震災で一度倒壊したものの、昭和3年(1928年)に再建。その後、増築などをしながら、2016年11月まで営業を続けていました。設備の老朽化やオーナーの高齢化などにより幕を閉じることにはなりましたが、貴重な建物をどうにか残したいというオーナーの願いにより、カフェ&オフィスへと様変わり。浴室は内装を担当した設計事務所〈ヤマムラ〉のサテライトオフィスに。脱衣所が石橋さんの運営するカフェへと変貌しました。

「改装に当たっては、古い設備などの他はすべて残す方向で考えました。カフェにしたのは、銭湯営業時と同様に人が集まるコミュニティを育む場所にしたいという思いからです」と、石橋さん。

rébon Kaisaiyu快哉湯の下駄箱
rébon Kaisaiyu快哉湯の内観

入り口を入ると下足箱があり、そこで靴を脱ぐスタイルも銭湯の頃のまま。カフェには、番台があり、脱衣所の男女の仕切りもそのまま残されています。

「よく残してくれた、と喜んでくださる方がいる一方、銭湯に行ったことがないという若者も新鮮に感じてくれているようです。浴室には富士山のペンキ絵が描かれていますが、それも若者にとっては、話には聞いていても初めて目にするもの。浴室はヤマムラのオフィスになっていますが見学も可能なので、写真を撮って楽しんでいる人もいるようです」

rébon Kaisaiyu快哉湯の富士山の絵

ノスタルジックに浸るのではなく、古いもののなかから新しさを見出す。それが、空間作りのヒントになりそうです。

IDEA1:古い意匠を生かして、新たな価値を生み出す

rébon Kaisaiyu快哉湯の内観

〈rébon Kaisaiyu〉の魅力は、なんといっても100年近く使われてきた道具や意匠の数々。例えば、男女の脱衣所を分ける鏡張りの仕切りもその一例。

「通常、カフェではこういう鏡の使い方はしません。仕切りをなくしてひとつの大きな空間にもできたのですが、あえてそのまま残しました。真ん中にある番台も当時のものです」

rébon Kaisaiyu快哉湯の番台

仕切りがあることでカフェの中に様々な居場所ができ、自分のお気に入りの席を見つけることができるメリットも生まれます。また、番台は座ってみることも可能で、空間のアクセントになるだけでなく、ちょっとしたエンターテインメント性ももたらしています。

rébon Kaisaiyu快哉湯の内観

「柱の振り子時計や体重計、注意書きの看板も昔からあるもの。そういったかつては現役だったものを生かすことで、空間や時間を単なる過去のものとするのではなく、今につながっているものだと認識させる役割も果たしてくれます」

rébon Kaisaiyu快哉湯の内観
rébon Kaisaiyu快哉湯の内観

最も格式が高いとされ、寺院や神社に多く使われている格天井も、この空間を引きしめている意匠。床材も1928年当時のものですが、新しく作られたカフェのカウンターとも見事にマッチしています。

rébon Kaisaiyu快哉湯の内観
rébon Kaisaiyu快哉湯の内観

例えば床や壁に古材を使う。家族が受け継いできたものをインテリアに取り入れるなど、建物自体が古くなくても、古色を出すことは可能。和洋折衷ならぬ新旧折衷を上手に取り入れることで、自分らしいオリジナルな家をつくることができそうです。

IDEA2:要所にタイルを使うことで、チャーミングなしつらえに

rébon Kaisaiyu快哉湯のカウンター

さらに、この空間で目を引くのが、様々なタイル。元々銭湯だったこともあり、脱衣所から浴室へ入る入り口や、洗い場、浴槽に使われていたタイルが残っています。

「カフェのカウンターの側面にも、日の光によって色味が変化するタイルを貼りました。銭湯からインスパイアされて、タイルはぜひ使いたいと思った素材です」

rébon Kaisaiyu快哉湯のタイル床
rébon Kaisaiyu快哉湯のタイル床

1枚から手に入るタイルは、色や柄も大きさも豊富。こちらでは、色味の見え方が変化するタイルやレトロな柄タイルを残して使っていますが、家では、玄関に敷いたり、キッチンの一角に張ったりなど、自由な発想で取り入れることができます。空間をぐっとチャーミングにしてくれるタイルは、余っても鍋敷やコースターとしても利用できるので、ぜひアイデアのひとつに加えてみてください。

rébon Kaisaiyu快哉湯の浴槽

IDEA3:壁や天井など空間を用途に縛られず利用する

rébon Kaisaiyu快哉湯の天井

銭湯の天井の高さを生かしているところも、この空間の特徴。オフィスとして使われている浴室の天井高は約7m。その高さを生かすようにロフトのような棚を作り、ずらりと本が並べられています。

rébon Kaisaiyu快哉湯の天井

そこまで天井が高くなくても、壁や天井といったスペースを有効に使うのは、家づくりにも生かせるアイデアです。壁一面にぐるりと棚をつけて、本棚にする。目の高さより上の位置にすれば、圧迫感も感じません。

rébon Kaisaiyu快哉湯のオフィス

また、カフェの奥の壁にも注目。
「カフェの奥は化粧室になっていて、それを隔てる壁をただ平面にするのではなく、ディスプレイ棚にしました。ちょっとしたグッズを置くのにも重宝しています」

仕切りとしてだけではなく、収納もできる壁にすることで、用途の幅も広がります。平面でないといけない、という固定概念を取り除くことで、使い勝手のいい空間が生まれる。そのお手本となるようなしつらえです。

rébon Kaisaiyu快哉湯の外観
古い建物の魅力を受け継ぎ、次の世代へとつなげる〈rébon Kaisaiyu〉 。つい新しいものへと目がいってしまいがちですが、古いものには“時間”という、何にも変えがたい価値が紐づいています。家族や自分が大切にしてきたものや、​​丁寧にエイジングされてきた古材を取り入れるなど、今と昔をバランスよくミックスした、家づくりのアイデアに加えてみてはいかがでしょうか。
rébon Kaisaiyu

東京都台東区下谷2-17-11
tel.03-5808-9044
営業時間:11:30〜19:00
定休日:無休

Photo / 川村恵理 Text / 三宅和歌子