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Common,コモン DATE 2022.10.14

サステナブル素材を使った期間限定カフェ
Commonの空間のアイデア

六本木のメインストリート沿いに位置するCommonは、このエリアの再開発プロジェクトの先駆けとして期間限定で誕生。“都市の広場”をコンセプトに、朝と昼はカフェ&レストラン、夜はミュージックバーになり、様々な客層を迎え入れています。そこには素材選びをはじめ、家づくりにも応用できるアイデアがいっぱい。その工夫について、運営会社The Youthの佐藤岳歩さんに話を聞きました。

リノベーションビルからはじまる、街のハブとなる空間

六本木のカフェ・Commonの内観

築52年のビルの1階にある「普遍的な・公衆の・公共の」という意味を持つCommon。もともとはオフィスだった空間を改装し、六本木に住む人や街を訪れる人が気軽にコミュニケーションをとれる場として、2022年5月に開業しました。

「六本木といえば夜のイメージが強いですが、実は文化都心という側面もあります。戦後には最先端の若者がジャズクラブやカフェに集い、この街のカルチャーの土壌を作ってきました。その記憶を僕たちが掘り起こし、これまでこの街に来る理由がなかったり、美術館を訪れて別のエリアに移動してしまっていた人たちに、新しい場を作り、この場所が多様な文化の発信地となることを目指したのが、この店をオープンしたきっかけです」と、佐藤さん。

六本木のカフェ・Commonの内観

職業や年齢に関係なく多種多様な人が集い、なおかつ街にひらけている空間。そのコンセプトをもとに設計されたこの場所には、素材の使い方など家づくりにも役立つ発想があちこちに散りばめられています。

六本木のカフェ・Commonの外観

IDEA1:解体後もそのまま素材を使える、サステナブルな発想

六本木のカフェ・Commonの内観

「このビルは再開発エリアにあるため、明確な期日は未定ですが、いつか建物が取り壊されることは決まっています。そうなったときにゴミになる素材を多用するのではなく、できるだけ再利用できるものを使おうというのが、改装における主題でした。アップサイクルの考え方をどのようにデザインに落とし込むかが、大きなポイントになっています」

六本木のカフェ・Commonの内観

そのひとつが、赤レンガを積み上げた壁面。河川などの補強に使う、網の中に砕石を詰め込んだ蛇籠をイメージしたもので、軽く接着したレンガを金網で固定しています。つまり、金網をほどけば簡単にレンガがはずれ、そのままリユースできるというもの。もちろん、家づくりの際にも、このアイデアは有効。壁の一角や間仕切り替わりに網に入れたレンガを設置し、模様替えする時にははずして庭で再利用するといったこともできそう。

六本木のカフェ・Commonの赤レンガの壁

また、カウンターの側面にも注目。連なっている丸棒は上下の穴に差し込み、紐で結ばれているだけ。これだけで落ちることなく、釘や接着剤を使っていないので丸棒をそのままリサイクルすることができます。

六本木のカフェ・Commonのカウンター
六本木のカフェ・Commonの壁

「これは伝統工芸である簾と同じ構造です。蛇籠もそうですが、日本で古くから行われてきた手法にヒントをいただいたところもあります」

天井も土が塗り込まれた、自然に還る素材を使用しています。さらに、テーブルの天板やモルタルのベンチに点在する黒い粒。これは抽出し終わったコーヒー豆を練り込んでいるとのこと。テーブルの色ムラもコーヒーによるもので、人の手では作ることのできない偶然性が、独特の表情を生み出しています。本来、ゴミになるものをあえてデザインの一部にする。それもサスティナブルな取り組みの一貫です。

六本木のカフェ・Commonのテーブル
六本木のカフェ・Commonのベンチ

IDEA2:家具の色味や高さで視線をコントロールする

六本木のカフェ・Commonのカウンター

視覚的な効果をデザインに落とし込んでいるのも、この店の特徴。例えばカウンター。天板には様々な木材が使われています。

「入り口を入って手前からセンノキ、クス、ケヤキ、ヤマザクラがと異なる木材を継いでいます。薄い色味からだんだん濃い色味に変わっていくんです。エントランス近くは親しみやすいように明るく、奥に入るにつれ、落ち着けるようダークになっています」

六本木のカフェ・Commonのカウンター
六本木のカフェ・Commonの木材

これも家で真似できるテクニック。ゲストが出入りする玄関やリビングなどパブリック要素のある空間は、壁や床に白木などの明るい色に。書斎や寝室などプライベートな空間にはくつろぎ感のある濃い目の木材を使うというように、利用する場所や目的に合わせて色味を変化させていくと、場所によって気持ちが切り替わり、家全体に立体感が生まれます。

六本木のカフェ・Commonの内観
六本木のカフェ・Commonの内観

また、テーブルの高さも視覚効果を意識して設置。壁側にあるベンチのテーブルから、スツールが置かれたテーブル、そしてカウンターに向かって、微妙に目線が上がっていくように調整されています。

六本木のカフェ・Commonのカウンター

「すべてのテーブルが同じ高さだと静かでストンとした空間になるんです。でも、高低差があると、お互いの目線は合わないけれど手の動きなどのジェスチャーは感じられる。それが心地いいノイズになるんです。ノイズがあることで、自分も好きに過ごしていいんだ、という心理になります」

ソファ、ダイニング、キッチンカウンターと高さを変えることで、家族の存在を感じながら、自分の世界にも没頭できる。自宅の家具選びのときにも参考にしたいアイデアです。

六本木のカフェ・Commonのベンチ

IDEA3:自然を取り入れた、フレキシブルな空間

六本木のカフェ・Commonの外観

「ほかにCommonで意識したのは、自然を感じられるデザインを取り入れることでした」と、佐藤さん。
「まわりはビルが立ち並び、車が行き交う喧騒とした場所だけど、この店に一歩入ると自然が感じられ、心に余白ができるようにしたかったんです。だから、入り口の対面となる奥も壁になっていたのを取り払い、出入り可能な窓にしました。そうすることで風が通り抜け、室内にいながらも、日の光と自然の空気の流れを感じることができます」

六本木のカフェ・Commonのベンチ

壁際に設置された作り付けのベンチは川をイメージして蛇行しているようなデザインに。その先には小高い丘のような“プレイマウント”があり、座ってお茶を飲んでも、上って遊んでもいいという自由な場所になっています。カウンターも直線ではなく曲線にすることで、自然の造形のような表情が生まれています。

六本木のカフェ・Commonの内観

「効率を考えるならもっと席を詰めるところなのでしょうが、あえて余裕のある配置にしています。ここでは席を移動してもいいし、カウンターで店員とおしゃべりをするのも歓迎。余白を作ることで、何をしても許されるような雰囲気に落とし込んでいます」

その自由度をさらに高めているのが、空間の真ん中にある可動式の平行四辺形のテーブル。
「カフェであり、レストランであり、ミュージックバーであり、イベントスペースでもある。多様な使い方ができる場なので、テーブルもイベントごとに配置を変えてトランスフォームできる仕様にしています」

六本木のカフェ・Commonの内観
六本木のカフェ・Commonの内観

空間の用途を限定せずに、フレキブルに対応できる家具を選ぶのも家づくりのヒント。家族だけで過ごすとき、友人が遊びに来たときなど、状況によって家具の場所を変えられれば、同じ空間を2倍にも3倍にも楽しむことができます。

六本木のカフェ・Commonの内観

再生可能なサステナブルな素材を取り入れることは、今の時代に必須な発想。さらに、座ったときの視線や空間の使い方を考えた家具を選ぶことは、家族の関係性を考えるきっかけにもなります。建物や家具に暮らしを合わせるのではなく、暮らしに合わせた建物や家具を考える。Commonでは、そのヒントになるアイデアを見つけることができました。

Common

東京都港区六本木4-8-5 和幸ビル1階
TEL:03-5848-1134
営業時間:8:00〜23:00
無休

Photo / 川村恵理 Text / 三宅和歌子