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漆,堤淺吉漆店,堤卓也,ストリートカルチャー,NIHON NOIE PROJECT,現代の和 DATE 2022.11.30

Doliveが見つけたNIHONのイイモノ
〜 漆 × ストリート・カルチャー。新しい"和"を発信するヒト、京都編~

NIHON NOIE PROJECTとは?

CREATORS PROJECTでの対談をきっかけにスタートしたNIHON NOIE PROJECT。
日本が大切にしてきた“和”の魅力をノスタルジックにでなく、現代に合わせて自由に解釈して表現する、「新しい“和”」。NIHON NOIE PROJECTでは、「モノ」や「ヒト」「コト」を通じて、日本各地にある「新しい“和”」を見つけ、暮らしの中に“和”を取り入れるアイデアを紹介していきます。

NIHON NO IE PROJECTの連載企画「Doliveが見つけたNIHONのイイモノ」は、プロジェクトの根幹にある日本各地の「新しい“和”」を探し求め、紹介していく連載企画。

今回は歴史と伝統が根付く京都。そこで出合ったのは、漆で塗られたサーフボード?!意外な組み合わせな”モノ”をつくっているのが、「堤淺吉漆店」という漆の精製・販売を行う、漆のメーカー。時代の移ろいとともに、衰退をしてしまっている漆文化を次世代につなぐため、さまざまな挑戦をおこなう4代目の堤卓也さんにお話を伺いました。

明治42年創業。
漆文化を次世代に伝える「堤淺吉漆店」

千年を超える歴史の中で、伝統的な文化が育まれ、かつ新しいモノも受け入れられている、歴史と現代が織りなす街、京都。
そんな京都で、堤淺吉漆店が創業したのは、今から113年前の明治42年。漆店として、漆掻き職人から漆を受け取り、それを精製し、文化財や仏具、漆器などを扱う職人の元へ届けています。そんな中、四代目の堤さんは、専務取締役として、伝統的な漆店としてだけではなく、衰退している漆文化をこれからも存続させるために、漆の魅力を伝える活動をされています。

木に傷を入れることで、傷を修復しようと出てくる樹液が「漆」

「これは漆掻きをした木なんですけど」と漆について教えてくださる、堤さん。
なんと漆は10~15年かけて成長した木から約200ml、牛乳瓶1本分しか採取ができないそう。その上、一度にその量が採取できるのでなく、約5ヶ月間をかけて、少しづつ採取をするそうです。

そうして採取できた樹液を綿で濾すことでゴミをとり、塗り漆として素材に塗れる状態にまで精製するのがこの工場。

「漆の産地や精製する日の温度・湿度によって、漆の粘度や乾き具合が変わるんです。なので、毎日確認をして、お客さんの要望に合わせて、欲しい艶や粘度などに調合をします。漆は、使う職人さんによって必要な性質が変わってくるんです」

一言で漆といっても、このような工程を経てやっと塗れるようになるとは、驚きです。
そして、このような工程を創業から欠かさず行われていることを知ると、老舗の毎日の営みの凄さがわかります。

要望に合わせた漆を用意するため、ガラスに漆をつけ、その日の艶、乾燥時間、粘度などを確認している。

現代の感性で新しい「漆」の可能性を。

そうして出来上がった漆といえば、漆器や仏具など伝統工芸の高級品に使われているイメージをもつ方も多いはず。
ですが、堤さんはそのイメージを変えるため、現代的な感性を組み合わせて、サーフボードやスケートボード、自転車に漆塗りを施すプロジェクト「BEYOND TRADITION」をスタートしました。

このプロジェクトを始めたきっかけは、『うるしのいっぽ』という冊子をつくったこと。漆が減ってきてしまっている現状を危惧し、漆を未来につなぐために、まず漆の良さを知ってもらう必要がある。そんな想いを込めた冊子をつくったそうです。

「すごい反響があったんです。東京に呼ばれて、大勢の前で話したり。でも、その話を聞いてくれるのは、工芸関係者の方ばかりなんです。そういう人って、僕が漆を大事って言わなくても理解してくれている人なので、もっと違う人たちに国も世代も超えて伝えたいと思うようになったんです」

そんな考えにリンクしたのが、自身の趣味でもあるサーフィン。

「 漆という素材の未来を考えることと、海で遊んでいる自分が地球のことを少しでも良くしたいと思う気持ちがどこか似ているなって。それならまず、サーファーにだったらこういう新しい漆の可能性が伝わるんじゃないかなって」

サーフボード・スケートボード・自転車をアイコンとして選んだのは、漆が持っている特徴をより自分ごと化しやすく伝えられるからだそうです。

「サーフボードだったら、循環可能な素材としての漆。スケートボードだったら、漆って弱く見られているけど、実は強い。使い込んでいくと、そこの部分の艶が上がったり、傷がデザインになるみたいなデニムとか革製品みたいに使い込むことで愛着がわく。自転車だと、鉄と漆の組み合わせという、漆を塗るイメージの無い素材との可能性だったり」

漆といったらお椀という昔の価値観でなく、現代の価値観に合わせた解釈で、新しい漆の可能性を発信していっています。

漆の未来をつなぐため、森づくりを

「BEYOND TRADITION」などで発信している新しい漆の可能性は、徐々に伝わりつつあるのかもしれません。

「これは、窪塚洋介さんとBE@RBRICKとのコラボレーションで漆を塗りました。窪塚さんから、漆でやりたいってことで直接ここにも来てくれて、YouTubeに出してくれたり」

そんな堤さんが新しくはじめたことは、自分たちで漆の森を育てるプロジェクト「工藝の森」。

「『BEYOND TRADITION』の活動を通して、海外の映画祭に行ったりするなかで、若い子に何か僕にもできることはないですかって、言ってもらえる機会が増えたんです。こうやって共感してくれる人が増えるのであれば、前からやってみたかった木を植えることをできたらいいなと思ったんです」

そうして、京都の北西、京北の森で「工藝の森」がスタートしました。

「みんなで木を植えて、育てて、15年間見守る。育つかどうかまだわからないけど、15年後こんなことしようって想像するの楽しいなって思うんですよね。昔、娘が生まれたら庭に桐を植えて、その桐で桐ダンスを作る風習があったんですけど、それみたいに桐の木を植えてそれを15年後サーフボードにしてプレゼントする。そんなプロジェクトとかもできたらおもしろいですよね」

伝統的な和のモノ「漆」を、これからも残すために多くの人に伝えたい。そのために、現代のサーフボードやスケートボードなどのストリートカルチャーと結びつけることで、世代も国も関係なく漆の良さを伝えられる。それもNIHON NOIE PROJECTが考える「新しい”和”」のひとつ。堤さんのような”ヒト”のフィルターを通すことで、生まれた漆の新しい可能性と出合うコトができました。
堤 卓也さん / 株式会社堤淺吉漆店 専務取締役

京都出身。北海道大学農学部を卒業後、他業種を経て2004年、家業を継ぐためにUターン。2016年からは日本産漆を守るために「うるしのいっぽ」をスタート。

Photography/安川結子