Dolive Doliveってなに?

戸田晃,戸田優子 DATE 2023.02.15

家の中心は中庭。新旧の素材を織り混ぜ、風と光を取り入れた建築家の自邸。

建築家・戸田晃さんとバッグのデザインをしている優子さんの自邸は、東京郊外の細長い敷地に建つ2階建て。玄関から入ってすぐの空間は土間になっており、キッチン&リビング、中庭、奥の和室へと一直線につながっています。

家の中には晃さん自身がDIYで作った家具などもあり、遊び心がいっぱい。収納にも工夫が凝らされ、暮らしの実験場のような趣きもあります。建築家が自ら設計した、中庭が中心の家づくりの方程式を紐解いていきます。

戸田晃さん 優子さん

東京・八王子を拠点に住宅を中心とした設計を行う「戸田晃建築設計事務所」を主宰。優子さんは企画・デザイン・製作・宣伝・販売までを行うfrogbagを運営する。

家づくりの方程式
光を取り入れる構造の
中庭がある細長い家
古い材を受け継ぎ、自作して、
家を育てる
夫婦それぞれの心地よい
居場所を作る

優子さんの祖父母が住んでいた家の敷地に、新築を建ててから約20年。いい具合に経年を重ねたこの家の特徴の一つは、素材の使い方です。コンクリート打ち放しの壁、オールステンレスの業務用キッチン、祖父母が住んでいた家から譲り受けた杉材の引き戸。

晃さんの好みで集められた素材はさまざまですが、ほとんどが無垢で存在感があるものなので、統一された雰囲気が保たれています。

家具も日本の古道具からイギリスのアンティーク、DIYでこしらえたものまでミックスされていますが、それらを結びつけているのも独自の感性。建築家として家のあり方を考え、住まい手として暮らしのあり方を考える。戸田さんの家にはその2つの要素がちょうどいい塩梅で取り入れられています。

光を取り入れる構造の中庭がある細長い家
 

方程式
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優子さんの祖父母が持っていた土地の半分を譲り受けた際、細長い敷地のため「採光には気を配りました」と晃さん。2階は木造ですが、1階をRC(鉄筋コンクリート)造にしたのも、光が入る南側に開口部を作りたかったからだそう。

「木造だと、どうしても壁を作らないと構造を支えられないので、窓をたくさん作るのが難しい。けれどRC造ならば、大きな開口部を取れるんです」

「この近所は住宅地で家が密集しているので、壁に窓をつけても採光にそれほど効果がないんです。それで、天井を開けるなど、いろんな方向から光を取り入れるようにしました。電気を点けなくても、暗さを感じないでしょう?」。確かに、戸田さん宅は、家の中にいても光がさんさんと降り注いでいます。

そして、もう一つ、光を取り入れるための工夫でもあり、この家の大きな特徴になっているのが、家の中心に位置する中庭。1階の玄関から土間を通って、そのまま土足で行ける位置にあり、今ではさまざまな草木や苔が立派に育つ、晃さんの憩い場にもなっているのだそう。

その庭をはさんで、玄関側はキッチンとリビング、奥は畳の部屋。キッチン&リビングは庭の地面から20cm程上がったフローリングの空間になっていて、庭に向かって腰掛けるのにもちょうどいい高さです。

中庭が真ん中にある間取りのおかげで、家の中にいながら光と風を気持ちよく感じることができ、内と外のあいまいな領域を楽しむことができます。

古い材を受け継ぎ、自作して、家を育てる
 

方程式
2

この家の寸法は、実は一つの扉から組み立てられています。それが土間とリビングを隔てている杉の引き戸。これは優子さんの祖父母の家から引き継いだものだそう。

受け継いだ引き戸の高さは1730mmと現在の規定サイズよりも小さめ。1階はそのサイズに合わせて梁を設置し、躯体を作っていったそう。ぴったりとサイズを合わせるため、何度もシミュレーションをしたといいます。この引き戸以外にも、戸田さん宅には祖父母の家から引き継いだものがいっぱい。

「昔の家のものって一見ボロかったり、使えそうにないと思われがちですが、僕にとっては今や手に入らない貴重なものなんです。やっぱりいい材を使っているし、いい細工がしてあります。2階の床材も昔の家から持ってきたもの。金物類もけっこう引き継ぎました」

古いものの特性として歪んだり反ったりしているというのもあるそうですが、修繕する余地がある造りになっている古い建具や素材が好きだと戸田さん。

「古いものって測ると垂直ではないんです。それを垂直に見えるように調整しなくてはならないので、大変さはありますが、それでも好きなんです。古いものって修繕できるように作られているんですよね。現代のものって直せるようにできていなかったりして、寂しいなと思います」

古いものを直して使うのが好きな晃さんは、DIYにも熱心な時期があったそう。「今はそれほどやっていませんが、一時期は凝っていました。手を入れると家が親しみやすくなる気がするんです。距離感が近くなるというか。材料などと対話しながら作って、愛着を深めていくのがいいなって」

2階のアトリエの棚や、キッチンの向かって右手にある棚も自作によるもの。その他、壁に取り付けた棚など、こまごまとしたものもDIYしました。

「DIYしたものは、家が完成した後から作っていったものです。“育つ家”という考え方で、自分の生活に合わせて自分で作っていく。DIYをDo It Yourselfではなく、Design It Yourselfと解釈した展覧会をしたこともあります。人に任せるのもいいけれど、自分で自分の家を考えるって楽しいことなんです」

夫婦それぞれの心地よい居場所を作る
 

方程式
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1階のキッチンは、主に優子さんの居場所。設備や機器は晃さんが決めましたが、それを使いやすいよう、優子さんが少しずつ手を加えていきました。

「キッチンはフックをつけたり、いつも使うものは手に届きやすいところに吊るすなど、自分なりにカスタマイズしていきました。キッチンはその人のクセが一番出るところなので、面白いですよね」と、優子さん。

もう一つ、優子さんの居場所となっているのが、以前は子ども部屋だった2階の作業部屋。ロフト付きの部屋で、バッグのサンプルを作ったりなど自分の時間を過ごしています。

2階の階段を上ってすぐは晃さんのアトリエ。来客があることから、住居の階段とは別に外から直接入れる階段を設置しています。ドアの内側は黒板塗装がしてあり、娘さんが幼い頃に描いた落書きがそのまま残されていました。「落書きって小さいときにしかできない。あまりにもかわいいので、固定するスプレーを塗布して定着させました。こういう絵や文字って狙っては書けないので最高のインテリアだと思います」

トップライトや細長い窓から珪藻土の白い壁に日が当たり、1日の時間の流れが体感できるアトリエの空間は、家のあり方のベースを示してくれるようでもあります。

家族がそれぞれの居場所で、自由に没頭できる時間が持てる。これも生活にゆとりをもたらす要素の一つなのかもしれません。

(方程式のまとめ)
昔の素材もうまく使って、自分で手を加えながら家を育てる

戸田家の躯体の構造は1枚の引き戸から導いたもの。光が入りにくい南北に細長い家ですが、中庭やトップライトを設けることで、気持ちのいい光が入るように。構造を理解している建築家ならではの視点がありますが、専門家でなくても、自分で手を加えると、家との距離が近くなると晃さんは言います。

どんな素材が合うのかを考えたり、少し痛んだら修理したりすることで、より愛着が持てるように。そうやって、家自体に愛情を持ちながら育て続けることが、家づくりを楽しむコツなのかもしれません。

Photography/上原未嗣 Text/ 三宅和歌子  Illustration/谷水佑凪(Roaster)