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ヨヨギノイエ,日高海渡 DATE 2023.04.25

建築家が自らリノベーションした100㎡のヴィンテージマンション。“人を招く”がコンセプトのオフィス兼自宅。

「人を招くための家」をテーマに、自らリノベーションを手がけた建築家・日高海渡さんのご自宅。元々3LDKだったというマンションの部屋をひと続きの空間に改装し、オフィスとしても使用しています。YouTubeでも家づくりのアイデアを配信している日高さんの、自分らしい家の作り方とは? 建築家としてのポリシーから導き出された方程式を紐解いていきます。

日高海渡さん

1988年生まれ、建築設計事務所swarm代表取締役。大学院修了後、アトリエ・ワンに勤務。その後、独立し日高海渡建築設計を設立。2019年に株式会社swarmを創業。インスタグラム(@yoyoginoie)やYouTubeにて、自宅での暮らしを発信中。

家づくりの方程式
築50年、100㎡のマンションをリノベーション
窓・床・壁で分けた空間と
シンプルな造作家具
異国のテキスタイルと民芸品

日高さんが自身の家づくりをすることになったのは、祖父母からマンションを譲り受けたのがきっかけ。およそ100㎡ある3LDKの部屋を、寝室とゲストルームだけ個室を作り、あとはひと続きの空間へと大胆にリノベーション。

「譲り受けた当時は古い状態だったので、事務所を兼ねた住まいとしてリノベーションすることにしたんです。人が出入りすることを前提に設計プランを立てていきました」

​​築50年、100㎡のマンションをリノベーション
 

方程式
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リノベーションの際、まずは元々あった3部屋の壁をとっぱらい、横長の大きな空間を作ったそう。

「素材で変化をつけ、ひと続きの空間にダイニングキッチンとオフィスリビング、趣味のものを飾るオープンストレージという3つのスペースを作ったんです」

「壁がないぶん開放感がありますし、いかにひとつの空間のなかで変化をつけるか考えるのもおもしろかったですね。ドアを開けて最初に目に入る空間が大事だと思ったので、玄関前は温かみのあるダイニングにしました」

(右側)ダイニング
(左側)オフィスリビング
(真ん中)玄関前に便利な鏡

はじめは自宅兼事務所として仕事関係者を招くことを想定していましたが、気がつけば友人らが集ったり、イベントを開催するスペースとしても機能するようになったとか。「いまでは週2でホームパーティーが開催されています(笑)。友人が友人を連れてくるので、まったく面識のない人が出入りすることも多く、日に日に知り合いが増えています」

実は日高さん、もとは家飲みがあまり好きではなかったそうですが、この家に住むようになってから気持ちにも変化が生まれたとか。

「ここに住むまではホームパーティーなんてしたこともなかったのですが、寝室だけはきちんとプライベート空間として個室にしたことで、気軽に人を呼べるようになりました。僕は眠くなったら寝室にこもれますし、友人たちは気を使わずに飲めるんです(笑)」

プライベートな空間は自然にリビングとの境ができるよう、あえて一段上がる造りに

「『ここはプライベートな場所への入り口』という雰囲気を出すために、段差を作りました。なのでここは、お客さんにもスリッパを脱いで上がってもらうんですよ。寝室の入り口には短い廊下を設け、ドアの周辺がほかの空間よりも暗くなるように設計にしました。反対に、空間が分かれつつ繋がっている空気感もつくりたかったので、リビングから寝室にかけて長い造作の本棚を繋げました」

棚の奥行きを変化させることで、パブリックなスペースからプライベートなエリアへいざなうような空気感を演出

窓・床・壁で分けた空間とシンプルな造作家具
 

方程式
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「部屋づくりをするときに一番重要なのは、窓辺だと思っています」と日高さん。大学時代に海外を巡りながら個性的な窓辺を探し歩いたそうで、その経験が家づくりにも反映されています。

「この家は窓が多かったので、窓ごとに空間のキャラクターを考えながら家づくりを進めていきました。ダイニングはワインボトルを飾ってホームパーティーの中心となる窓辺に、リビングは昼寝スペースとして、デイベッドを主役に窓周辺の空間をつくりました。どんな窓辺にするのかテーマを決めて、周辺に置く家具や観葉植物、壁の質感などを考えていくとイメージしやすいんです」

南向きの窓から光が入るので、日中はほとんど照明いらず。「リビングの窓辺では観葉植物がパラソルの役割を果たしてくれています」

ひとつなぎの部屋を窓ごとにテーマを変え、さらに床や壁の素材を変えることで、各スペースの個性が鮮明に。

部屋の役割ごとに素材を変えた床。手前のリビングはモルタル、奥のダイニングフローリング

異なる素材を組み合わせた家にしたことで、物が多くても自然とまとまりが出ていると日高さん。「いろんな質感や色味を混ぜた方が、ごちゃっと置いた雑貨や本が空間に馴染んでくれるんです。壁や床の色や素材を統一するのも良いですが、合う家具の範囲は狭まります。我が家はオープンストレージを白、リビングの床をモルタルに、ダイニングは木を多く使い、どんな雑貨や家具でも、どこかしらに似合う置き場所がある空間づくりを意識しました」

「壁のデザインを考える上で色を重視する方も多いですが、素材の違いも空間のメリハリに大きく影響するんです。なので塗装で色分けするよりも、いろいろな素材を混在させる方が変化が出たりしますし、途中で趣味や空間の役割が変わっても対応できるのでおすすめです。この家も、友人が集まるようになってから椅子を増やしたんですが、アウトドアチェアや木の椅子を混在させても、3つのスペースのどこかにはマッチするので、家具選びにも悩まないんです」

バラバラの椅子でもまとまって見える

ダイニングテーブルは既製品の脚にベニヤ板を乗せてDIYしたもの。木の色味や質感も、あえて統一していないそうですが、さまざまな素材が入り混じるこの家にうまくフィットしています。

実は板を乗せているだけ。天板を支える足は東急ハンズで購入したとか

ただ、それぞれの空間に連続性も持たせるため、造作家具は部屋をまたぐように配置。リビングと寝室の間の本棚だけでなく、キッチンとダイニングの間の食器棚も空間をまたぐ形で造作されています。

「食器棚に関しては、キッチンとダイニングの境界線を曖昧にするイメージで、壁からはみ出る長さにしてもらいました。扉を付けないことで、お皿を取るときも楽ですし、片付けがしやすいという狙いもあります」

異国のテキスタイルと民芸品
 

方程式
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幼少期に暮らしていたパキスタンをはじめ、インドネシア、タイ、イランなどの旅先で買ったテキスタイルや民芸品も、日高さんの家づくりに欠かせない要素。

「旅行するたびに現地の民芸品を少しずつ増やしていくのが趣味なんです。なかでもテキスタイルは染色や絵柄からその国の文化が垣間見えるところが好きで、数年前から必ず買うようになりました。小さいサイズのものをつぎはぎに重ねて使うなど、組み合わせを考えるのも楽しいんですよ」

ラグやカーテンとしてはもちろん、丸めて立てかけたり、タペストリーのように飾るなど、空間の雰囲気に合わせて取り入れ方も工夫しています。

家づくりにあたっては、敬愛するスリランカの建築家、ジェフリー・バワの自邸を収めた作品集も参考にしたそう。ジェフリーの部屋にも、テキスタイルがさまざまに配されています。「なかでもオープンストレージは、この本からインスピレーションを受けました」と日高さん。

参考にした建築家の自邸

オープンストレージ

「どんな家にするか考えるときは、このテイストで統一したい!という大きなイメージを持つよりも、物の居場所を意識して『この雑貨と家具を隣同士に置いたら相性がいいかな』と、積み上げ式の発想でイメージする方がその人の個性が出やすいと僕は思います」

(方程式のまとめ)
「こんな生活がしたい」からイメージを膨らませて、
自由に間取りや壁・床のデザインを決める

個人としても建築家としても惹かれる家は「住む人の価値観が見える家」だと日高さん。「『こんな生活がしたい』という思いが伝わってくる家は素敵だなと思います。素材のこだわりや見た目のかっこよさも大切ではありますが、最高の昼寝がしたい、人が集う家にしたい、友人に料理を振る舞いたいとか、自分はこの家でこう暮らしたい!という気持ちが反映されている家っていいですよね。本やメディアなどで、自分が理想とする生活をしている人を探すのも手かもしれません。僕の家も、誰かの家づくりのヒントになれれば嬉しいです」

Text/ 金城和子  Illustration/谷水佑凪(Roaster)