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DATE 2023.05.12

100年前の元銀行をリノベーション
HOTEL K5の空間のアイデア

かつて日本のウォール街と呼ばれた東京・兜町。そこに位置する大正12年(1923)に建てられた第一国立銀行の別館が、2020年に大改装して生まれ変わりました。地下1階、地上4階の建物の2〜4階はホテルとして機能。ここを目的地に旅する人もいるほど、その滞在は唯一無二。ラグジュアリーホテルのように格式張ってはいないけれど、居心地は抜群。そんな暮らすように泊まれる空間から、家づくりで真似したくなるアイデアをみつけました。
HOTEL K5

東京都中央区日本橋兜町3−5
tel.03-5962-3485
全20室。
1階にレストラン、コーヒーショップ、ライブラリーを併設。
HP

築100年のかつての銀行が、日本文化を落とし込んだホテルとして再生

1999年まで東京証券取引所があり、日本随一の金融街として知られた兜町には古くからのビルが立ち並んでいます。一見すると殺風景なビジネス街にも見えますが、日本橋エリアのここは東京駅にも「日本橋三越本店」や「コレド日本橋」といった商業地区にも近く、東京観光の絶好のベースでもあります。再開発によってコーヒーショップやブーランジェリー、クラフトビール店なども登場し、休日には若者の姿も多く見られるように。

「K5」も再開発の一貫としてオープン。築100年の躯体をそのまま残しながら、この先100年の未来も見据えたリノベーションを進めました。デザインを担当したのは、ストックホルムを拠点に活躍するスウェーデンの建築ユニットであるクラーソン・コイヴィスト・ルーネ(以下CKR)。日本の文化や伝統を彼らの解釈でモダンに落とし込んだ空間は、旅心を刺激するとともに、自分の家にいるようなリラックス感も演出。その絶妙な塩梅には、細やかに計算されたアイデアが秘められています。

IDEA1:空間をあえて仕切らず“あいまい”にする

CKRにインスピレーションを与えた日本語に“あいまい”があります。はっきりしないなど、ネガティブに捉えられがちな言葉ですが、彼らはあえてポジティブに解釈をしました。

「実は80㎡のスイートルームでも壁や扉による仕切りがありません。作り付けの大きな棚などで視線は遮られるけれど、きっぱりとは区切っていないんです。こちらは寝室、こちらはリビングと役割を押し付けるのではなく、境界線を作らないことで、お客様それぞれの感性で使うことができます」

そのあいまいさは随所に表れています。ベッドを囲うのは、薄く柔らかい麻布による天蓋。包まれる安心感はありながら、光を通し、どこともいえない狭間にいる気分に。

また、建物の中にもかかわらず、緑が豊かなのも特徴。

「部屋だけでなく廊下にも植栽をたくさん置いています。兜町は公園もないし、グレーで無機質なイメージ。だからこそ、中に入ったときに驚きが生まれます。人が感性を揺さぶられる瞬間って、ギャップやコントラストに気づいたときだと思うんです。外は無味乾燥としているのに、一歩、建物に入ると緑に溢れている。そのギャップが感動を呼び、特別な記憶となります」

建物内なのに自然を感じさせる。そこにもまた、内なのか外なのか、錯覚してしまいそうなあいまいさが演出されています。

IDEA2:日本の伝統的な素材や意匠を生かす

日本を新解釈したアイデアは、素材にも生かされています。建具には襖をイメージした杉材を。ベッドの天蓋には藍染が施されています。そして、廊下の窓にはカラーフィルムを貼ったすりガラスを設置。

「日本のクラフトマンの技術もあちこちに取り入れています。すりガラスは伝統技術を生かす、という意味もあるのですが、実は窓の外に首都高が通っているんです。夜になると色のついたすりガラスごしに車の赤いテールランプが光って、とても幻想的になります。そばに高速道路があると普通は隠してしまいがち。でもCKRは首都高の良さを光で表わし、ネガティブなこともポジティブに変換。それを日本の素材を使って表現しています」

家具にも日本ならではの意匠が使われています。ラグは畳をイメージ。ひとり掛けソファは折り紙を模し、長ソファの脚には竹が使われています。提灯のような照明は、CKRいわくお米の形とのこと。

さらに、赤い照明に照らされるバスルームもユニーク。

「ジャパニーズフラッグの赤い部分が照明になっています。もちろん、普通の照明にも切り替えられますが、CKR独特の遊び心でもあります」

IDEA3 : この先100年につながる経年変化を楽しむ。

築100年のビルの改装をするにあたり、古い材料や雰囲気を生かすというのもコンセプトの一つでした。象徴的なのが廊下やバスルームに使われているテラコッタのタイル。

「もともとあった素材も踏襲したいということで、張り直しました。一部割れてしまったものもあるのですが、金継ぎをして使っています」

さらに、これまでの100年に加えて、この先の100年を見据えたデザインも多用されています。例えば部屋の入り口のドアは銅製。しかも、最初からキズがあるものを使っているそう。

「経年変化をすることで100年後も魅力的であって欲しい思いを込めています。キズさえも世界観の一つとして、次世代につないでいく。杉もそうですが、銅や真鍮といった味が出る無垢材を多く使っています」

その考え方は、自分の家を作る際のアイデアにもなります。生活をしていると、どうしてもキズや汚れはついていくもの。それをマイナスではなくプラスに捉える。ノイズさえも美しいと思える素材選びは、これからの住まいを思考するキーポイントとなりそうです。

かつて金融街として栄えた街に建つ、大正時代の銀行の建物。そこに降り積もった歴史は、何よりの財産でもあります。古いビルの良さを生かし、現代、そして未来までも想像できるリノベーションを施したホテルは、日本の伝統や文化を体験できる場所でもあります。空間の仕切りのあいまいさ、伝統技術を駆使しながらもモダンに解釈したデザイン、この先100年も素敵に残せるよう、経年することで味わい深くなる素材選び。海外の建築家目線で新解釈された、日本らしさのアイデアをぜひあなたの家づくりの参考にしてみてはいかがですか。

Photography/中野理 Text/三宅和歌子