Dolive Doliveってなに?

DATE 2024.04.09

商店街に佇む、板金の五角推をまとったカフェ。

街を歩いていると、外観のデザインを見ただけで入ってみたくなる魅力的な建築に出会うことがあります。「外観探訪部」は、そんな気になる建物の外観にフォーカスし、家づくりのアイデアを学ぶ企画。思わず足を止めてしまう外観デザインから、その魅力の秘密を探ります。今回は外観だけでなく、職人の技が詰まった内観についても紹介します。

板金職人の技術が詰まった
建築家・隈研吾デザイン監修のカフェ。

東京都・東村山市の、ローカルな商店街の一角にある「和國商店(わくにしょうてん)」。建築家の隈研吾さんがデザインを監修したこちらは、この街で育ったオーナー・内野友和さんが発足したプロジェクトによって生まれました。内野さんは、屋根を中心とした外内装工事などを手がける「ウチノ板金」の2代目。職人たちが培ってきた板金(トタンや銅板をはじめとする板状の金属)の加工技術をこれまでにない形で表現したい、そんな気持ちからつくられた外観デザインからは、唯一無二といえる家づくりのヒントが見えてきました。

POINT1:五角推の建築板金を張り巡らせた、アートのような外壁

「和國商店」のプロジェクトは、「年々寂しくなっていく地元の商店街を活性化させたい」という内野さんの思いからはじまりました。物件探しをしていたときに出会ったこの建物は、もとはたばこ屋だった築53年の木造建築。内野さんにとって、理想的な物件だったといいます。

「ここ青葉商店街は、『ウチノ板金』にとってたくさんの思い出がある場所。この商店街で何かできないかと考えていました。地域の活性化とともに、板金職人たちの仕事を知ってもらうきっかけにもなればと。いつか何かできればいいなくらいの感覚で物件探しをスタートしたんです。僕らの技術を存分に表現したかったので、道から壁が二面見える建物ということにはこだわりました。なので角地に建つこの物件は、まさに理想的でしたね」

デザインを手がけたのは、名建築家の隈研吾さん。タッグを組むことになったきっかけは、内野さんが手がけた板金製の折り鶴でした。

「お会いする前に、たまたま隈さんが折り鶴のオブジェを手にしてくださっており『板金って平面だけではなく、3Dも表現できるんだ。おもしろい』と感じていたそうなんです。そしたら偶然、この建物を契約した直後に隈さんの事務所にお邪魔する機会ができて。ここを購入した経緯と想いをお話したら『何か一緒にやろうよ!』と言ってくださったんです。そこで何をするか改めて考えたときに、人が集まるカフェにしようという話に。決まってからはトントン拍子に計画が進み、それから1年半くらいでオープンに至りました」

デザインしてもらうにあたっては、板金職人にしかできない外観として、銅板を使用した外壁をリクエスト。それを受けて提案されたのが、五角推に加工した銅板をあしらった外観でした。想像をはるかに越えたデザインに、内野さんは「ここは家や建物ではなく、職人技術を生かしたアートになるぞ!」と、いたく感動したといいます。

「板金職人の常識をくつがえすデザインでした。軽くて耐久性がある板金は、本来屋根や外壁を雨風から守るために使われる素材。いわば雨漏りを防ぐ役割を担っているんですね。立体的に加工した銅板をビスで壁に留めると、ビスの穴から水がじわじわ浸入してしまうので、そもそも銅板で壁に穴を開けるようなデザインを考えるという発想がありませんでした。つくることはできますが、維持するハードルが高すぎるというか。『和國商店』は、そこをカバーできる僕らの技術があるからこそ実現できたんです」

雨漏り対策のため、内野さんは壁を二層にする案を採用。外壁を仕上げていく過程でガルバリウム鋼板を貼り、万が一雨水が浸入しても建物内部にまでは雨漏りがしないようにしたそうです。
「この構造は見た目からは分からないので、建築家さんたちからは『大丈夫なんですか?』とよく聞かれます(笑)」

POINT2:味わい深い陰影を織りなす立体と、神社から受け継いだ緑青銅板

銅板は、広島県・廿日市市にある速谷神社で使われていたものを再利用。たまたま塀を修理するタイミングだった同社から、知り合いのつてで譲り受けたのだとか。

「五角推に加工した銅板は、速谷神社さんの塀の屋根に使用されていたもの。それぞれ異なる風合いも素敵ですし、1枚の直径が360mmほどあり、五角推に加工しやすいサイズだったのも幸いでした。そしてこれらは、青葉商店街ができた60年ほど前につくられた銅板なんです。いま考えると同じ時代を歩んできた素材だからこそ、この土地と調和したんだと感じます。一見個性的な外壁ながら、違和感なく周りの建物に溶け込んだのはラッキーでしたね」

外壁にあしらわれた五角推は、なんと約700枚!すべて内野さんたちの手で加工され、3種類の五角推に生まれ変わりました。凸凹具合や高さが違う3種類を組み合わせることにより、時間によって味わいが異なる陰影が楽しめるように、隈さんと配置を検討したそう。色味も踏まえて、どの五角推をどの順で並べるかまできちんと計算されているというから驚きです。

「3種の五角推は、折り曲げた板金同士を噛み合わせて組んでいく『ハゼ葺き』という施工方法を応用し、ベースの銅板に取り付けました。屋根の施工に代表される、板金職人の技術です。朝日が上ると東から陽が当たって正面側に陰影が表れますし、西日が射す時刻になれば反対側の壁の陰影が楽しめます。夜はライトアップしているので、朝から夜までさまざまな表情が見られますよ」

「この五角推が窓に垂れ下がるようなデザイン、自然物のような生き生きとした動きを感じませんか? 外壁に窓をはめるだけでは住宅のような印象になると思うので、こうした隈さんのセンスにもぐっときますね」と内野さん

五角推を貼り付けたベースの銅板は、タニタハウジングウェアが独自開発した人工の緑青(ろくしょう)銅板を採用。人工の緑青銅板は、屋根や外壁の部分的な修理などに使われる素材。五角推に使用した銅板とは異なる経年変化も、これからのお楽しみです。

「五角推の色味に合うよう、色味もつくっていただきました。ちなみにドア部分に貼ってあるのも、人工の緑青銅板です。こちらも水が入らないように、もとのドアのアルミ素材の上から巻きました」

POINT3:内装の随所にも施された、板金職人の技

外壁同様、店内の至るところにも板金職人たちの技が施されています。真鍮製のカウンターや棚をはじめ、見えない部分にも細かな技術が光ります。

「“板金屋さんがつくる建物”ですから、店内の隅々まで職人技術を生かせたらと。メインで使っているのは真鍮で、カウンターや隈さんにデザインいただいたランプも手作りしました。真鍮もほかの板金と同じく加工性に優れた素材ですが、値が張るので普段はあまり扱う機会がなくて。今回思い切って贅沢に使ったことで気合が入りましたし、わくわくもしましたね」

なかでもこだわったのは、オール真鍮製のカウンター。屋外からもよく見えるよう、レジ横の窓を大きく取ったほどの力作だそう。

「板金職人の仕事をここでも外壁などに用いたハゼ葺きを応用して、大工さんにつくっていただいた下地に真鍮を巻くように貼り付けました。もとの梁や柱を残した内装や黒漆喰の壁に馴染むよう、マット加工を施して色味に柔らかさを出しています」

「厚い材料をなるべく薄く見せたいという隈さんのこだわりを伺って、棚の小口はすべて折り曲げ、限界まで薄く見せています。お客さまたちからはあまり見えないところですが、こうした部分も知っていただけたら。テーブルや椅子にも真鍮を使っていますが、こちらは岡山の職人さんに特注しました。真鍮をきちんと見せたいとお願いしたら、座面の外側から足を刺して真鍮の印象が強くなるデザインに仕立ててくれたんです。本当にたくさんの方の力があって、完成したお店だと思います」

ベンチは内野さんが所有していた旧国立競技場の椅子をベースに、隈さんがデザインしたもの。
こちらはカフェの番号札。細かな点に至るまで職人たちの遊び心が感じられるのも、和國商店の魅力。
店内では、内野さんが手がけた銅板と真鍮製の折り鶴も販売。板金加工技術のおもしろさを知ってもらうかつ、職人たちの引退後も見据えた取り組みだといいます。
「近所の子供たちからは『ゴジラみたい!』という声もあったりして(笑)。アーティスティックでありながら親しみやすさもある、唯一無二の建物になりました」と内野さん。自由な発想と、熟練の職人技術によって完成した「和國商店」。常識にとらわれない、自身が表現したいことを起点にした考え方は、家づくりにおける第一歩になるかもしれません。ぜひ参考にしてみてください。

Doliveアプリには十人十色のアイデアが盛りだくさん。 気になった記事に「いいね!」を押して保存すると、後から見返すことのできる、あなただけのアイデア帖に。さらには理想の外観・内観をシミュレーションできる機能も搭載。具体的な仕様や素材まで検討でき、家づくりのイメージも明確になります。 気になった方は、ぜひ、ダウンロードしてみてはいかがでしょうか。

Photography/宮前一喜 Text/金城和子