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ワクワクさん, 久保田雅人 DATE 2023.02.09

「ワクワクさん」でお馴染み、
久保田雅人さんの空飛ぶ工作ハウス

「家ってもっとシミュレーションゲームみたいに、自由に楽しく作ってもいいんじゃない?」こんな想いを胸に、さまざまな分野で活躍するゲストに「本当にほしい家」を妄想してもらう新連載「妄想HOUSE」。あらゆる固定観念から自由になって、自分の「好き」を詰め込んだ夢いっぱいの家を考えていただきます。

今回妄想してもらったゲストは、NHK教育テレビ(現・Eテレ)『つくってあそぼ』の「ワクワクさん」でお馴染み、久保田雅人さん。身近な素材を使った工作で子どもたちの創作意欲を高めてきた彼が妄想する家は、牛乳パックでできた空飛ぶ秘密基地。全国の子どもたちへの想いで溢れた、クリエイティブな妄想ハウスをご覧ください。
久保田雅人さん

1961年8月8日生まれ、東京都出身。立正大学文学部史学科卒、社会科教員免許取得後に役者の道へ。1990年4月からNHK教育テレビ(現・Eテレ)『つくってあそぼ』の「わくわくさん」として出演。2013年の番組終了まで23年間務める。保育士や学生向けの講演会や工作研修会も全国規模で展開する。YouTubeチャンネル「わくわくさんの工作教室」では動画も配信中。

“牛乳パック”の家で、現場までひとっ飛び!?

NHK教育テレビ(現・Eテレ)『つくってあそぼ』といえば、1990年から23年間続いた、大人世代には説明不要の子ども向け工作番組。その中のキャラクターである「ワクワクさん」として出演していた久保田さんは、実は番組が終了した現在でも、全国各地を飛び回り、子どもたちに工作の楽しさを届け続けています。

「これまで、北は北海道の根室から、南は沖縄の久米島まで、いろいろなところへ呼んでいただきました。ありがたいことですね。そこで私が考える妄想ハウスは、ズバリ『家ごと現場に行ける家』です。空をビューン!っと飛んで、子どもたちのところへ行ける、格好いい飛行機型の家があったらいいですな〜! やっぱり上を飛んで行かないとね。下を走ってたら時間かかってしょうがないですから。私、普段は結構せっかちなんですよ(笑)」

軽快な口調で楽しげに話してくれる久保田さん。いつもは工作道具や材料を詰め込んだ大きなカバンを片手に電車や飛行機で移動をしているそうで、空飛ぶ家への妄想はどんどんと広がっていきます。少しずつ形が浮かび上がってくる様は、まるで工作のよう。

「素材は牛乳パックでできていて、紙皿がプロペラのかわり。家は、工作をする作業部屋と母屋に分かれています。飛ぶときは、作業部屋が母屋から切り離されて、空高く飛んでいく仕組みです。先端には、トレードマークの帽子もつけておきましょう。最後に屋根を赤く塗って、扉を付けて〜——。ハイっ!名付けて“空飛ぶ工作ハウス”のできあがり〜!」

工作道具と材料に囲まれた
クリエイティブな作業部屋。

全国各地から依頼があり、1日に最低1つのペースで作品を作らないと間に合わない。そんな多忙な日々を過ごしている久保田さんの現在の拠点となっているのは、自宅のリビング兼作業スペース。そこでは、次に行う工作の準備や見本作りなどをしているそうです。

「いつも作業をしているのは、リビングにあるちゃぶ台の上。ある意味、子どもたちが家で工作をするときと同じような環境だけれど、大きく違うのは、たくさんの道具と材料に囲まれていることかな」

ハサミにホッチキス、テープにたこ糸、牛乳パックや色画用紙、トイレットペーパーの芯などなど。久保田さんと言えば、どこの家庭にもありそうなものを使った、身近で楽しい工作のイメージですよね。

「作業スペースでは、それらをすべて手が届く位置に配置して、立ったり座ったりせずにスピーディーに作業できるようにしています。だから空飛ぶ工作ハウスでは、そのこだわりを受け継ぎながら、さらにブラッシュアップした専用の作業部屋を作りたいです」

そうして出来上がった妄想の中の作業部屋は、まず目に付くのが、がっしりとした作業机。これは隅々まで手が届く、広すぎないものが良いのだそう。そして、そのすぐ周りには、とてもたくさんの道具や材料が収納されています。すると、久保田さんはお得意の牛乳パックを取り出し、何やら作り始めました。「よく使う道具は手元に置いておきたいので、簡単に作れる道具箱があると良いですね。ちょっと作ってみましょう!」

 

「まず、牛乳パックを2本用意します。1本は注ぎ口の三角部分をハサミで切り取りましょう。ジョキジョキ!ジョキジョキ!あ、スッポン♪ そしてもう1本は、4つある広い面のうちの1面だけ、カッターやハサミで切り取ってしまいます。深さは大〜体でいいからね!口が開かないように、テープやホッチキスで留めたら——ハイっ! これでもう完成〜!」

 

二つを合わせると引き出しの様になり、見事な道具箱に。これがあれば、整理整頓できて工作も捗りますね。久保田さん自身も、工作道具を外へ持ち出すときには、この牛乳パックの道具箱を使っています。そして、さらにひと工夫。三角屋根の家に見立てて、色画用紙でドアや窓をデザインします。道具を使わない時には可愛く飾っておけるというわけですね。

「それと妄想ハウスに忘れちゃいけないのが、作った作品を置いておく棚。今は置き場所がないけど、理想の家には思い入れのあるものや、個人的に作りたいものを保管しておける大きなガラスケースが欲しいですね! そうしたら、自分が本当に作りたいと思う工作を山ほど作ることができますから」

これまでにざっと数千個以上の作品を作ってきた久保田さんですが、工作への愛と創作意欲は尽きるところを知りません。その証拠に、ずっと温めてきたというアイデアを教えてくれました。

 

「実は私は歴史が好きでして、日本史の先生になりたくて教員免許も取りました。いつしか工作をやるようになって思いついたのが、トイレットペーパーの芯だけを使って城下町を再現すること。これには大量のトイレットペーパーと広いスペース、そして時間が必要ですからね。作業部屋の傍らに専用の机を用意して、いつか完成させたいです」

楽しい工作を届けるために、苦労を惜しまない

久保田さんの理想が詰まった、空飛ぶ工作ハウス。この夢のような家は、全国各地の子どもたちへと工作の楽しさを届けるのが使命です。訪れる先を尋ねると、ホールのような広い会場ではなく、一軒一軒の幼稚園や保育園だと教えてくれました。

「子どもたちは普段と違う場所では緊張しちゃうんです。反面、慣れ親しんでいる場所でなら子どもたちも安心してくれるし、その分よく手を動かして、心から工作を楽しんでくれるようになるんです。だから空飛ぶ妄想ハウスで、一人一人のもとに行けたら最高ですよね。私は、この活動を始めた当初から、そういった子どもたちの反応が見たくて会いに行っているんです」

久保田さんが全国各地を飛び回るきっかけとなったのは、『つくってあそぼ』がまだ放送の準備段階だった頃。子どもたちの生の反応を見るために「園内で工作をさせてほしい」と、幼稚園に頼んで回ったのだといいます。

「番組の制作陣はみんな大人でしょ。でも観てくれるのは子どもだから、彼らが純粋に楽しめる工作が何なのかを、生の反応から知りたかったんです。そういう経緯があって一軒一軒地道に回っているから、やっぱり機動力がある空飛ぶ工作ハウスが実現したら嬉しいですね〜!」

そういえば、空を飛んでも、着陸はどうするのでしょう? 素朴な疑問が湧いてきました。

「そうですね、こうしましょう! まず、着陸はしません。道具と材料をたくさん収納している大きな家なので、地上に降りたらそもそも大迷惑です。そこで、空中待機モードです。訪れた先の上空でピタッと停止。私が降りるときは、トイレットペーパーの芯を繋げてできたエレベーターがニョキニョキっと現れて、その中を私がすいーっと降りていくんです。これなら、忘れ物をしたり、工作の内容が変更になったときもすぐに対応できるし、次の現場へもスムーズに出発できますからね」

『つくってあそぼ』がスタートしてから32年。久保田さんの目から見ても、世の中は大きく変化しました。プラスチックではなく紙製のストローが普及し、エコの観点から紙皿が減りました。久保田さんは、その影響をひしひしと実感しているのだそう。

「以前も先生方の研修会で新聞紙の工作をやろうとしたら、今は半数以上が新聞を取っていないっていうので、急遽カットしたことがあったんです」

参っちゃうよね、と笑うその裏側には、楽しい工作を届けたいという純粋で強い気持ちが見え隠れしていました。

「自分で子どもたちの分まで材料を現地に持っていくことができたら、どんなにいいか。この大きな空飛ぶ工作ハウスがあれば、山ほど材料を積んでいって、子どもたちに好きなように使って貰えるんですから。いや〜、そうなると本当にいいなあ。楽しいだろうな〜!」

Photography/ 小林真梨子 Text/ 石井良 Illustration/ HONGAMA