新海宏樹 さん
Stellantisジャパン Jeepブランドマネージャー
日本の大学卒業後、英リーズ大学大学院にて経営学を学び、帰国後は外資系大手化粧品会社で営業およびマーケティングに従事。2012年より現職、Jeepの広告戦略やマーケティングに携わる。
「家ってもっと住む人自身がラフに楽しくデザインできたらいいよね。それができたら、街並み全体がもっとオシャレで可愛くなるはず」という想いを胸に、家の顔であるファサードにフォーカスして研究していく企画。毎回、とある業界のオピニオンをゲストに迎え、家づくりをもっと自由にオシャレに発想するためのアドバイスを伺います。
Stellantisジャパン Jeepブランドマネージャー
日本の大学卒業後、英リーズ大学大学院にて経営学を学び、帰国後は外資系大手化粧品会社で営業およびマーケティングに従事。2012年より現職、Jeepの広告戦略やマーケティングに携わる。
アートディレクター
大学卒業後に渡英し、2003年よりテキスタイルデザイナーとして活動。2009年に独立し、現在はフリーランスのアートディレクターとして、Jeepをはじめとする企業広告のデザインを手掛ける。
ファサード=外観、つまりは“住まいの顔”です。今回、Jeepにまつわるお2人をお呼びした理由も“顔”にあります。
Jeepの顔って、めちゃくちゃ印象的じゃないですか。僕からすると、もはや「四駆=Jeep」のイメージ。そのくらい絶対的なインパクトを持つJeepさんなら、最高におもしろい家を考えそうだな、と。
そもそもJeepのルーツは、1941年に誕生した「ウィリス」という米軍の軍用車なんです。第2次世界大戦直後に大統領に就任したアイゼンハワーが、「Jeepがなければ勝てなかった」と発言しているくらい屈強。その当時から、デザインのベースは変わっていなくて。
特に象徴的なのがJeepの顔の部分、フロントグリルですね。軍用車だった当時の9本から7本にシフトしているものの、デザインは一緒。それに台形のホイールアーチも、初代からずっと変わりません。
台形のホイールアーチって、すごくJeep的なんですよ。ホイールの上部が広く開いていれば、簡単に手を突っ込める。要は修理が簡単。修理のために閉じずに開いておく考え方は、とてもアメリカ的ですよね。合理性の象徴というか。
合理性を重視し、「時代が変わっても変わらない」を地で行くのがJeepというわけですね。その姿勢は、めちゃくちゃかっこいい。
Jeepのデザインは機能性ありき。見た目のかっこよさを重視した結果ではなく、機能性を重視した結果がこのデザインになったんです。
電気自動車に対する考え方もそう。Jeepでは2020年に電気モーターを搭載したモデルを出しましたけど、ベースのデザインは変わらない。考え方に関しても、エコより先に「電気で走れれば、静かな山の環境をありのままに楽しめるよね」という発想があって。
そのお話を聞いていると、耳が痛いですね(苦笑)。反対に日本の住宅は、ある意味、変わりすぎだから。
確かに昔ながらの日本家屋って、最近はめっきり見かけないですよね。日本家屋には、日本家屋の良さがあるはずなのに。
昔は誰よりも家のことを知る大工さんの目線を大切に、家が建てられていたはずなんです。それが今は軽量化や低コスト化に意識が集中して、結果的にデザインも画一化。日本の住宅がつまらない理由は、ここにある気がしますね。
画一化を嫌い、個性のある車に乗りたい。Jeepのオーナーさんには、そうした人が多い印象があります。
車の個性を大事にしたいのと同時に、オンオフのメリハリを大切にする方に愛されているのがJeepですね。平日は都市部でしっかり働きつつ、休日はアクティブにお出掛けをする。そうした30代、40代のファミリー層がJeepのコアユーザーです。
今の若い人って柔軟ですからね。オンオフの切り替えがうまいし、都会と地方を行き来する二拠点生活が増えているのも、その現れ。仕事も遊びも妥協せず、両方のバランスを取るのがすごく上手。
Jeepのコンセプトである「Go Anywhere, Do Anything.」も、林さんのお話に通じますね。Jeepがあれば、どこへでも行けるし、何でもできる。本物・自由・冒険をキーワードに、都市部に住んでいても休日の遊びを妥協せず、むしろ後押しするのがJeepなんです。
荒野もすいすい走れる駆動力の一方、本物志向のJeepのデザインは、都会の街並みにも映えます。どんな場所に行くにも、何をするにも乗る人に寄り添う、相棒のような存在。
そうした万能性はもちろん、Jeepがファミリー層に愛される理由って、やっぱり強さにある気がして。Jeepの印象って、とにかく強い。家族を絶対に守ってくれそうな安心感があるじゃないですか。
実際にJeepのオーナーさんにお話を伺っても、「頼もしい相棒」「人生の相棒」と表現される方が多くて。「家族を守る相棒」として捉えていただいていますね。
住まいも車と同様に、家族の相棒であるべきですよね。するとJeepが家やファサードを考えるとしたら、どんなデザインになるのでしょう?
そこはJeepと変わらず「Go Anywhere, Do Anything.」。理想はずっと変わることのないコンセプトに暮らしの要素をプラスした、「Go Anywhere, Live Anywhere, Do Anything.」な家ですね。
そのコンセプトをどう表現するのか。考えついたのが、究極にシンプルなユニットハウス。
なるほど、ジョイントの考え方だ。
箱形のユニットを自由に組み合わせていけば、部屋を増やすのも減らすのも簡単。結婚して子どもが生まれ、兄弟や姉妹ができ、いずれは子どもが巣立っていく…。住む人の人生に寄り添うような。
合理性を重視したホイールアーチの話がありましたけど、ユニットハウスも超合理的ですよね。ジョイントが可能なのも無駄のない四角いフォルムだからだし、安定性も抜群。まさに「Live Anywhere」、荒野に建てることも夢じゃない。
それに移築も簡単だから、家を受け継ぎやすい。サステナブルを考えることは自動車業界の命題です。ユニットハウスなら住む場所は巣立つ子どもが自由に選びつつ、家そのものは引き継げますよね。
その視点もJeepらしいというか、自動車業界ならではですよね。実はユニットハウスは、資材の面でもサステナブル。究極にシンプルな四角形だから、余計な端材が出にくくて。
Jeepが考えるユニットハウスが実現したら…。考えるだけでわくわくしますね。
ユニットハウスなら、住む場所に縛られる必要がなくなりますよね。引っ越しが簡単になるし、緻密にデザインされた住宅では難しい、絶景を眺められる崖の上にだって住めるかもしれない。
同様の考え方で、住まいを2つ持つ二拠点生活のハードルも下がるしね。僕ならスキーのできる雪山に建てるかな。僕自身がスキー好きだから、子どもにも趣味を伝えたい。家という箱を子どもに譲るだけじゃなく、趣味も一緒に受け継いでいく感じ。
それにユニットハウスって、いわゆる二世帯住宅にも対応しやすいと思うんですよ。今の二世帯住宅って、ものすごく妙じゃないですか。一緒に住むといいながら家を2つ建てて、玄関まで別にして、「いったい何なの?アパートなの?」みたいな(笑)。
分かるなー。確かに異様かもしれない(笑)。
それがユニットハウスなら、家族1人ひとりに箱を渡して、「自由に住みましょうね」で終わり。個々のスペースを明確に区切るからこそ、一緒に住むことが苦にならないし、これってむしろ、家族のつながりを深めると思うんですよ。
各ユニットを四角くジョイントして、ロの字に囲まれた坪庭を作ってもおもしろいですね。坪庭に面して壁一面のガラス窓を作れば、それぞれの部屋にいてもつながっている感じがするし。
ですよね。窓にはしっかりブラインドを付けて、プライベートも守れるようにして。大きなガラス窓って、すごく重要な要素。視覚に抜けが生まれるから、部屋がすごく広く見えるんです。
なるほど。建てる場所によっては、外向きに窓を作ってもいいですね。外の景色に向けて大きな窓を作れば、借景も可能という。
ちょっと危険な断崖絶壁に住むような場合には、崖に面した壁を完全にクローズしてしまえば安心だし。ユニットの四角いフォルムって、頑丈なイメージが強いですよね。そこもJeepに通じるな、と。
外壁の色も変えやすいしね。塗り替えちゃえばいいから。住む場所に擬態してもいいし、あえてポップな色にしてもいい。さらには平面の屋根を利用して、ソーラーパネルも付けられる。
そのアレンジのしやすさも、移築しやすさや端材の少なさも、すべては超合理的なユニットをベースにしているからこそ。見た目のかっこよさを前提にせず、大事にすべき機能からデザインを考えれば、アイコニックな家は作れる。勉強になりました(笑)!
Photography /浦将志 Text/大谷享子 Illustration/高城琢郎