ザ・キャッツミャオ東京さん
1920〜50年代のオールドファッションを愛するコミュニティ。男女数十人のメンバーが集い、クラシックな装いでイベントを開催したりInstagramで独自の世界観を発信する。主宰者の須山誉志雄さんは知る人ぞ知るロンドンのバーバー「トミーガンズ」で修業後、NY発の「FREEMANS SPORTING CLUB – TOKYO」を経て、自身のバーバー「YS」を開店。本場仕込みの技術とほかにないレトロな佇まいが話題を呼んでいる。
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1920〜50年代のオールドファッションを愛するコミュニティ。男女数十人のメンバーが集い、クラシックな装いでイベントを開催したりInstagramで独自の世界観を発信する。主宰者の須山誉志雄さんは知る人ぞ知るロンドンのバーバー「トミーガンズ」で修業後、NY発の「FREEMANS SPORTING CLUB – TOKYO」を経て、自身のバーバー「YS」を開店。本場仕込みの技術とほかにないレトロな佇まいが話題を呼んでいる。
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「20〜50’sの愛好家にはファッションや車などの特定ジャンルにハマる人も多いですが、僕らは時代背景や文化も含めたトータルの雰囲気が好きなんです。その時代を舞台にした映画を見たり、現在も残っている建物を巡りながら、当時ならではの空気感を暮らしやファッションに反映して楽しんでいるんです」と須山さん。そんな二人の妄想は、1920年代にタイムトリップするところからはじまりました。
「理想はザ・キャッツミャオ東京のみんなが好きなときに滞在できて、ゲストを招いてパーティもできるクラブハウスです。モダンな建物ではなく、このファッションが馴染む上品でクラシックな佇まいがいいですね」
「イメージとしては、20年代のニューヨークを舞台にした映画『華麗なるギャツビー』(1974年)に出てくる白亜の洋館が近いかな。外壁はクラシックなホワイトで、当時流行していた直線や幾何学模様で構成されているアール・デコの装飾を施したいですね。2階建てで、1階はゲストをもてなすパブリックな場所、上の階は僕らが過ごす部屋とゲストルームも備えたフロアとして使い分けます」
20年代の建築やファッションの写真集をめくる二人。ヒントを得ながら、妄想を進めます。
「外観は白でシンプルにしたいので、ゲストを迎えるエントランスホールはゴージャスに。大理石の床にザ・キャッツミャオのロゴを大きくあしらって、パーティのメイン会場にもなるくらいの広さがほしいですね。スイングジャズの演奏会をしたり、ダンスホールとしても使えるスペースにできたら」
「両サイドに荷物を預かるクロークを配置して、中央には赤色のカーペットを敷いた石造りの階段も作りましょうか。この階段から降りてきてゲストを出迎える様子を想像すると、まさに映画のワンシーンみたいじゃありませんか?」
「エントランスホールを中心に、1階にはダイニングルームとスモーキングルーム、レコードをまったり聴くミュージックルームも設けたい」と二人。スモーキングルームには、現代の喫煙室とはちょっと違う価値観があるようです。
「20年代当時は食後に装いを変えて葉巻やパイプをたしなむ文化があったんです。スモーキングキャップと呼ばれる帽子と、ベルベットのスモーキングジャケットをはおるんですが、僕も普段タバコを吸うときはその文化を踏襲しているんですよ。このクラブハウスはしつらえだけではなく、そうした体験も含めて20’sの世界を楽しめる場所にできたら最高ですね」
さらに、大きなお屋敷の妄想ハウスには「日本の文化も取り入れたい」と須山さん。そこで1階の手前と奥のスペースを区切って、手前を洋、奥を和テイストに分けるというアイデアが出てきました。
「僕らは欧米のクラシックスタイルを楽しみつつ、日本人としてのアイデンティティも大切にしているので、和装で集まることも多いんですよ。なのでここにも、古きよき日本が感じられるエリアを盛り込みたいですね。吹き抜けになっている日本庭園とそれを囲む廊下を作って、畳敷きの大宴会場と茶室まで繋がっている、いわばジャパンエリアとするのはどうでしょう」
「日本庭園は、石や砂を使って山水を表現する枯山水。吹き抜けなので、周りに松を植えて高さを出せたらいいかな。20年代の欧米と昔の日本にワープした感覚を同時に味わえるなんて、欲張りすぎですか? でも、妄想するのは自由ですからね(笑)」
妄想ハウスには、ザ・キャッツミャオらしい秘密の仕掛けも。「僕たちと、スーツを仕立ててくれるテーラーなどの付き合いが深いゲストだけが入れる隠れ家バーもほしいよね」。地下に作りたいという秘密のバーに入る方法について、「暗証番号式にする?」「ダミーの本棚を置いて隠し扉にするとか?」としばし盛り上がっていましたが、結論は……。
「エントランスホールにあるネコの銅像のしっぽを下げると、床が開いて地下へ続く階段が現れる仕組みにしましょう。やっぱり20’sをテーマに家を建てるなら、隠れ家バーは外せません。1920〜33年のアメリカでは禁酒法が施行されていたため、隠れてお酒が飲めるバーがとても多かったんです。その名残で、いまでもニューヨークには電話ボックスから入店するバーが存在するくらい見つからないように工夫されていたんですよ」
「バーはゆったりお酒を飲める優美な空間にしたいので、ダマスク模様の壁紙やベルベッドが張られたインテリアを置いたヴィクトリアンスタイルでもよさそう。あ、もちろん専属のバーテンダーにもいてほしいですね。そう考えると、ここではバーテンダー以外にもドアマンなどのスタッフがたくさん働いているので(いてくれないと成り立たない!)、地下には彼らが住み込める部屋も作らないと......」
カラフルな個室と天蓋付きベッド、大理石の古代ローマ浴場、全自動のクローク.......普段から映画のような世界観に身を浸している二人の、甘美な妄想は止まりません。20’sの欧米文化と日本のカルチャーをミックスさせたザ・キャッツミャオの妄想ハウスは、ただパーティをするだけでなく、住む人の佇まいに磨きをかける場所にもしたい、と二人。
「僕たちは、見た目だけではなく生きざまも大切にしているんです。例えば外出するときは服装にこだわるのに、家ではジャージを着てごろごろしているのは矛盾していますよね。それが悪いわけではありませんが、やっぱり外と中とでギャップがあるほどこだわり抜いている人には勝てなくて。生活からクラシックスタイルを体現している人はお酒の飲み方などの立ち振る舞いも自然だし、違和感がないんですよね」
「なのでそれぞれがライフスタイルや自宅空間に20〜50’sの文化を取り入れたり、スーツを綺麗に着こなせるよう身だしなみに気を使いながら活動しているんです。するとだんだん文化自体が体になじみ、さっとスーツを着るだけでもキマるようになるから不思議。とはいえ日常生活すべてを昔の様式に合わせるのはハードルが高いので、妄想ハウスで20’sの暮らしを体感しながら、みんなで佇まいに磨きをかけられたらと思います」
ここでふと我に帰り、「夢中で設計プランを考えていましたが、これ……妄想なんですよね(笑)」と二人。妄想するほどに、「いつか本当にこんなクラブハウスを建てたい」という野望が湧いてきたそうです。
Photography/藤井由依 Text/ 金城和子 Illustration/ HONGAMA