若林 剛之 さん
SOU・SOU代表 / プロデューサー
1967年京都生まれ。オーダーメイドの紳士服を学んだ後、東京のDCブランドで企画・パターンを担当。退社後、ニューヨークやロンドンで買い付けた商品を扱うセレクトショップを京都にてオープン。2002年にSOU・SOUを発足、現在国内13店舗、海外1店舗を展開している。
SOU・SOU代表 / プロデューサー
1967年京都生まれ。オーダーメイドの紳士服を学んだ後、東京のDCブランドで企画・パターンを担当。退社後、ニューヨークやロンドンで買い付けた商品を扱うセレクトショップを京都にてオープン。2002年にSOU・SOUを発足、現在国内13店舗、海外1店舗を展開している。
建築設計事務所SUPPOSE DESIGN OFFICE 代表 谷尻誠、BETSUDAI Inc. TOKYO CEO 林哲平、BEAMS コミュニケーショ ンディレクター 土井地博によって設立されたプロダクション。オンラインサロンやプロデュース業務など、今後の動向が注目されるユニット。
ついに大分・由布院にNIHON NOIE PROJECT by SOU・SOUが建ちました!実際にカタチになったNIHON NOIE PROJECTを見て、いかがですか?
初めて見たときは感動しましたよ。遠くから歩いてくると、徐々に視界に入ってくる。近づいていくにつれてワクワクが止まらなかったです。若い世代が初めて触れる、新しい“和”の家が提案できたんじゃないですかね。
これまでもさまざまな家を手がけてきましたが、実は“和”をテーマにしたのは初めて。だから、僕も感慨深かったですね。
住宅商品でここまでコンセプトもデザインも優れているのって本当にすごいこと。普段建築家としてオーダーメイドで住宅を設計している私自身、一層気を引き締めようと思いましたね。
「これまで寝食の場所でしかなかった家を、新たな角度で捉え直そう」という会話はプロジェクトの発足当初からあって。時間と共に育てていくという家との関わり方だったり、ファッションのような自己表現の手段だったり。そんな家のあり方をアップデートする提案がしっかりかたちになったと思っています。
社外取のみなさんも、SOU・SOUも、これまでさまざまなコラボレーションを経験してきたかと思いますが、今回のコラボレーションを改めて振り返ってみていかがでしたか?
普段建築家として活動している私の場合、目の前のひとりのクライアントに向き合うことが多いんです。でも、今回一緒に取り組んだメンバーはみんな圧倒的に世の中と向き合っている人たち。自分が「こうした方がいい」と思っていたことも、「より社会から求められるのには」というほかのメンバーの視点が加わることで、また新たなアイデアが湧いてくる。その体験は、新鮮でしたね。
そもそもコラボレーションって、相手次第で完成形がガラッと変わるのが魅力じゃないですか。それぞれユニークな視点を持ったこのメンバーが交じり合ったらどんな家になるのか、ずっとワクワクしながら進めていましたね。
ある意味ここからが、コラボレーションの本番。というのは、つくって終わりではなくて、より多くの人に伝えるところまでやり切って初めてNIHON NOIE PROJECTの成功があると思っているから。みなさんの力をまだまだ掛け合わせて行きたいですね。
これまでの住宅のPRって業界内に閉じてしまっていた側面があると思っていて。でも、NIHON NOIE PROJECTは、ライフスタイルやカルチャーなどの文脈とも相性がすごくいい。今まさに家の購入を考えている方だけでなく、20代前半の若者たちにも興味を持ってもらえるよう魅力を伝えていきたいですよね。
みなさんがNIHON NOIE PROJECT by SOU・SOUで気に入っているポイントを教えてください。
縁側ですかね。縁側って外部とのつながりの場所だと思うんです。個人的にも、幼い頃祖母が近所の人と縁側で話していた記憶があるので、なんとも思い出深いんですよ。NIHON NOIE PROJECTでは、屋根のような大きな軒の下に縁側があって、外とのつながりを保ちつつも家の内部にある。この奥まったつくりが、異空間のような独特な雰囲気を漂わせていて気に入っています。
私は通り土間がお気に入りです。のれんをくぐって玄関まで歩いて行くと、右手に縁側があって雪見障子越しに和室が見えるんですよ。その風景が象徴的な“和”の趣があっていいなって。
僕が気に入っているのは外観。今はスクエア型の住宅が人気だけど、NIHON NOIE PROJECT by SOU・SOUでは、あえて軒をしっかり出しました。もしかすると年配の方からしたら、馴染みのあるデザインかも。でも、若い世代にとってみたら新鮮な景色に映るはず。日本の住宅で忘れられていた“和”の風景を、現代に合わせてセットし直す……外観にはそんな想いを込めましたね。
NIHON NOIE PROJECTで感じられる「あたらしさ」って、実は「ふるさ」なんですよね。これまでになかった新しい何かをつくり出したというよりは、忘れられていた何かを改めてかたちにしただけで。
「ふるさ」の中に「あたらしさ」を見出すことが、NIHON NOIE PROJECTが考える現代の“和”なんですかね。
そう。たとえば、NIHON NOIEでは、「暗さ」がひとつのテーマになっています。これって、明るさを求める日本の住宅トレンドとは真逆をいくような発想ですが、実は理に適っていて。暗さって自分や目の前の対象に向き合う環境としてはとても優れているんです。陰影の中に美しさを見出してきた“和”の精神性を、NIHON NOIE PROJECTでは表現しています。
ポップに和の風情を表現しているSOU・SOUのテキスタイルも、NIHON NOIE PROJECTの特徴のひとつかと思います。スタイリングする際のポイントはありますか。
一般的に和柄と言えば昭和以前のものが多いですね。でもそういうものの焼き直しではなく、今を生きる人たちが住んでて楽しくなる様なポップで飽きの来ない和のテキスタイルデザインをクリエイトし提案しました。
一見伝統的な市松模様にも見えますが、手描きのゆらぎや伝統色を使ったポップな配色が他にはないデザインですね。
今でこそ壁紙にはベーシックな無地を使われる家が多いんですが、昔は障子にふすま絵を描いたりと、壁全面に模様や柄などを入れることは決して珍しいことではなかったんですよ。
また、空間に馴染みやすいのは“ちょうどいい”かわいさがあるから。単にかわいいだけだと、家全体が子ども部屋のようになってしまう。でも、“和”をベースにしたかわいさは、大人も受け入れられやすいんですよ。
このNIHON NOIE PROJECT by SOU・SOUの1棟目には、サウナが離れとして付いていますよね。
このサウナは、NIHON NOIE PROJECTの価値をより多くの人々に伝える試みのひとつ。つくるだけではなく、伝えないとプロジェクトの意味がありません。サウナと“和”は、実は相性が良い。しかも、サウナは現代のスタンダードになりつつある。そこで、“和”をテーマにしたサウナをここに建てたんです。
このサウナは、昔の茶室のような役割だと思っています。刀を置いて身分問わずお茶を飲み交わす……茶室で行われていたそんな営みは、服を脱いで身分関係なく汗を流すサウナと通じていると思うんです。
サウナに入ると「整う」って言うじゃないですか。先ほど谷尻さんが話した「暗さ」の話にもあったように、自分と静かに向き合ってチューニングするきっかけになると思うんですよね。
あと大分・由布院の原風景をもっと楽しめるようにもなるはず。夕焼けを眺めたり、川のせせらぎを聞いたり。リラックスしながら自然豊かなロケーションを味わってもらえると思います。
最後に、読者にメッセージをお願いします!
NIHON NOIE PROJECTは、あえてターゲットを設定していません。シニア世代も若い世代も関係なく、より多くの人々に“和”の可能性を感じてもらいたい。そんな想いが少しでも届いたらいいなと思いますね。
僕も同感です。住む人がどこの誰でもいい。とにかく住んだ人が自由に楽しんでくれれば、それ以上のことはありません。
道ですれ違うほぼ全ての人に家があって、そこで生活を送っていると考えると、家ってものすごく重要な存在だと思うんです。だからこそ、NIHON NOIE PROJECTの思想に触れて、少しでも家についての見方が変わったり、共感してくれる人が増えたらいいなと思いますね。
ある意味、家も非日常な体験になったらいいなと思うんです。どこかに泊まりに来ているような、ワクワクする要素が毎日の暮らしの中にあったらとても豊かな人生になるはず。そのきっかけを届けられたらいいなと思います。