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六畳ブック,BOOK6,高橋達矢,高橋真弓,猫店長,ぬく,のび DATE 2023.01.17

築100年の古民家の1階に古本が並ぶ
六畳ブックの空間のアイデア

東京・大岡山の住宅街を歩いていくと、「ご自由にどうぞ」という本棚が見えてきます。そこが、高橋達矢さん、真弓さんが住む家であり、「六畳ブック(BOOK6)」という古本店でもあります。築100年を超す古い庭付き一軒家を借り、メンテナンスしながら暮らす2人の空間のアイデアを教えてもらいました。

古さを基準に家を選び、住居兼店舗に

玄関を入ると、当然のように本の山がお出迎え。1階を店として使い、2階は居住スペースに。古本は買取りがメインのためほとんどがネット販売で、店に来るのは予約をした客のみ。冬のちょっと寒い日、ストーブを囲みながら、猫店長の「ぬく」とレアキャラの副店長「のび」をなでながら本を選ぶ時間は至福。その雰囲気作りに一役買っているのが、戦前に建てられた日本家屋の存在です。

「2人とも古いものが好きなので、物件を探すときも“古い”というのが条件に入っていました」と、真弓さん。

オーナーはアメリカ人で、この家をとても大切に思っているそう。それだけに大幅な改装はできず、置いてある桐箪笥なども勝手には捨てられないといいます。そういった賃貸ならではの不自由さはありますが、オーナーの家を愛する気持ちをくんで、高橋さんたちも建物へのリスペクトを持ちつつ、できる最大限で使いやすい工夫を取り入れています。

IDEA1:本を置くため畳をフローリングに変換

「六畳ブック」の蔵書は約20,000冊。しかし、日々新しい本が運ばれ、常に本棚はフル稼働。それを支える床は、畳ではたわんでしまうそう。

「玄関を入って右側の8畳程度の部屋と、廊下を挟んだ向かいの部屋は本来、和室で畳敷きなんです。フローリングに張り替えてしまえば簡単なのですが、オーナーは畳のままにして欲しいとのこと。かといって上にフローリングシートを敷いても結局は重さに耐え切れず水平を保つのは難しい。そこで考えたのが、板敷きを被せてしまうというやり方です」と、達矢さん。

畳の上に根太を組み、そこに材木店で買ってきた板を筏のように組んで打ち付け。畳に被せるように板を置いているだけなので、畳自体は傷まず、強度も十分だといいます。これは高橋さんたちのオリジナルのアイデア。

廊下などに使われている既存の古い床ともなじんでいますが、意図したというよりは、ほぼ勝手にエイジングされたと、真弓さんは言います。 「自然系植物性塗料でペイントしましたが、毎日、仕事で歩いたり、本を置いたりなどけっこうハードに使っているので、いつの間にか削れていってエイジング加工を施したようになりました(笑)」

これは家作りにも応用できるアイデア。和室は欲しいけれど、今はフローリングで使いたい、というときなどにぴったり。組んだ板をパコンと外すだけで和室に戻るので、大幅な改装をしなくても、ライフスタイルの変化に合わせて設えることができます。

IDEA2:本棚をDIYして、使いやすさをアップ

部屋のメインは本棚。膨大な量の中から目当ての本を探すには、分類の仕方が最重要課題となります。高橋さんたちが取っているのは日付ごとに整理していくという方法。

本が届いたら目録をデータ入力し、本棚に並べ付箋で日付を貼っておく。本が売れたら日付と目録を照らし合わせて収納している場所を特定してピックアップ。お客様に届けるという仕組みです。

「アナログですが、いろいろと試した結果、この方法が一番早くてわかりやすかったんです。ただ、そのためにも本が増えてもなるべく床に積み上げないよう心がけています」と、真弓さん。

本を直置きするとどんどん床が侵食されてしまうというのは、多くの人が経験していることでもあります。それを阻止するためにも本棚は不可欠。「六畳ブック」では、古道具店で購入したものもありますが、多くは自作のものを使っています。

「単純な作りではあるのですが、両側に本を並べられる奥行きにしています。文庫や単行本のサイズは大体決まっているので、背板をつけず奥行き30cmほどあれば、両側から本が置けます。そうすると無駄なスペースがなくなるし、取り出しやすいので一石二鳥です」と話すのは、DIY担当の達矢さん。

本棚は部屋を仕切るパーティションにもなります。リビングとキッチンの間に置いて、空間にメリハリをつけるとともに、キッチン側には料理本、リビング側には小説など、シーンに合わせた本を収納するなど使い道はさまざま。

さらに、達矢さんからアドバイス。「棚板が細いとたわんできてしまうので、棚板の厚みも3cm程度と太くし、パイン材など硬い木材で作ると良いと思います」

IDEA3:ディスプレーを工夫して余白のある空間に

本でいっぱいの「六畳ブック」ですが、倉庫のようには感じられません。その理由は、日本家屋ということもありますが、ところどころに遊び心のあるディスプレーが施されているから。

例えば汚れて売り物にならない本に穴を開け、釣り糸で吊って天井にビス留め。現代アートのインスタレーションのようでもあり、この店を象徴するデコレーションでもあります。

「昔、この店で僕たちの結婚式をしたことがあって、そのときに装飾したものをそのまま残しています。割と簡単にできるし、本屋ならではだと思って、けっこう気に入っています。意外と落ちてこないので、お勧めです」
デッドスペースになりがちな天井を活用するアイデアの一つに加えたくなります。

また、本の背表紙だけが見えるのではなくところどころ表紙を見せて置いているのも、圧迫感を感じさせない工夫の1つ。

「表紙の色だったり、デザインだったり、気に入ったものは絵を飾るような感覚で見えるように置いています。本ってただ並べればいいわけではなく、色でメリハリをつけたり、グラデーションで並べたりしたほうがいいときもあります。それは感覚ですね」

また、真弓さんが最近、気に入っているのが花のサブスクリプション。
「毎日、好きな花を店に行って1本ずつ購入できるんです。1本でも1週間程度は持ちますし、日々、新しい花が増えていくのは嬉しい。猫たちも癒しですが、お花の存在にも心がなごみます」

店でも家でも、人の居場所には必ず、気持ちをなごませる仕掛けが必要です。それがディスプレーであったり、植物の存在だったり。特に意識はしていないというものの、ここには、その必然がきちんと生かされています。

店でありながら、生活する場でもある「六畳ブック」。古いものを大切にしながら、心地よくなるための工夫を加える。そのアイデアは、畳をフローリングに変えたり、本棚の使い方を発見したり、手軽にできるディスプレー術など、すぐにでも家づくりに生かせる実践的なものです。そして、そのヒントになる本も、実はこの店のどこかに収められているはず。本に囲まれる幸せを満喫しながら、家づくりについて考えてみたくなる空間です。
六畳ブック(BOOK6)

東京都目黒区大岡山1-18-2
Tel. 03-3725-0555
来店は要予約
https://www.book6.jp/

Photo / 宮前一喜 Text / 三宅和歌子