nephew,ネフュー DATE 2021.09.01
地下鉄千代田線、代々木公園駅から徒歩1分。都心からのアクセスが抜群に良い好立地ながら、細い路地に囲まれた裏通りに、戸建て住宅をリノベーションしたカフェ&ストリートバー、nephew(ネフュー)はあります。
知る人ぞ知るディープなお店なのか?と思いきや、Instagramには数多くの投稿が見られ、週末は行列ができるほどの人気店だそう。 空間デザインによってたくさんの人を惹きつける秘訣を、運営会社& SUPPLYの代表井澤卓さんと、内装設計を担当した土堤内祐介さんにお伺いしました。
nephew

東京都渋谷区富ケ谷1丁目7−2
tel.03-5738-8908
営業時間:水曜日~日曜日
Day time : 10am-5pm , Bar time: 7pm-1am
定休日:月曜日、火曜日
HP

代々木公園の裏路地に佇む、
一軒家をリノベーションしたカフェ&バー

異なるキャリアを歩んできたメンバーが集まるデザイン会社& SUPPLY。いつかそのバックボーンを糧にホテルをプロデュースしたい、という想いから、空間プロデュース事業を立ち上げました。nephewは、カフェ&ストリートバーとして、昼はカフェ、夜はバーを営業しています。

「都心で見かける、洗練されてはいるけどすぐコピーされてしまう空間は面白くないなと思っちゃって。だからこそ、ここでしかできないことにはこだわっていますね」と井澤さん。

この物件も、たくさんの候補のなかから「どこからも入って来づらい」立地や「三角形の変わったかたち」といった、飲食業では避けられがちな条件が決め手になったといいます。

「どう面白く変えていけるか、考え甲斐のある、自分たちらしい物件だと思います。」

いろんな人が、いろんな気持ちで滞在できる場所をつくる

「空間によって、人が話す内容も変わってくるんじゃないかと思っていて。事務所兼バーとして運営しているLOBBYではクリエイティブな話をしているお客さんが多いんですけど、居酒屋みたいに愚痴を吐き出せる場所も必要じゃないですか。
だから、nephewはいろんな人が各々の目的で過ごせる空間にしたいなと。恋人同士でゆっくりくつろぎたい人も、仕事の話をしたい人も、仲間同士で楽しみたい人も来れるように。そのためにグラデーションのある空間にしようっていう意識はありました」

1階エントランスから。一段上がって右手側にボックス席、奥にはソファー席が。左手奥の階段から中2階を通って2階に続いています。

「ちょっとした工夫で空間の質は変えられるんです。1階のカウンター席は床の高さが場所によって違っていて、座った時の印象が変わるんですよね。同じ空間内に違う雰囲気の席があることで、次はあそこで過ごそうとか思ってもらえるんじゃないかなって」そう話すのは土堤内さん。

店内を見渡すと壁の色や家具、光の操作によってどの席も違う個性をもっていることに気づきます。目的によって空間に緩急を付けることで、家での過ごしかたも変わってくるかもしれません。

IDEA1:よくある素材も見慣れない使い方で新鮮さを生む

設計にあたり、最初に決めたのはカウンターに水色のタイルを使うこと。 夜はバー営業をするnephewにとって、カウンターは特にこだわるポイントです。

「カウンターにタイルを使っている事例を見たことがあって、水回りによく使われる素材も、使い方を変えると新鮮に見えるんだなと驚きました。白いタイルだとありきたりなので、水色のタイルに濃い色の木材を合わせたい、っていうのは最初に決めてました」

木材をタイルと合わせることによって、見慣れないマッチングが起こっています。さらなるこだわりは、タイルと目地の色を反転させてカウンターとテーブルに関連をもたせていること。同じ考え方をトイレのタイルにも応用しており、細かい配慮が全体の統一感を生み出しています。
こうした素材の取り合わせは、住宅でも真似したくなるポイントですね

「お店のロゴに使っているブルーはもっと濃い色なんですけど、お店のなかではガチガチに統一せずにいろんなブルーを使って、それぞれ少しずつ色を変えています。2階のソファーの色は意見が2つに割れたので間を取って中間の色にしたりしていて。そうすることで素材選びの自由度も効くし、合わせる色の幅も広がると思います」と土堤内さん。

確かに、全てを同じ色にしてしまうと、その色の展開がある商品しか選べなかったり、ちょっとした色味の違いが必要以上に気になってしまいそうです。ある程度の幅を許容することで、思い切った色選びが可能になるんですね。

2階席はコの字に配置されたブルーのソファ席。家具は空間に合う既製品を探してコストを抑えています。

IDEA2:常に考え続ける余白を残すデザイン

内装設計にあたり、特にコンセプトなどは決めずにまずは既存内装の解体からはじめたそう。どの場所にどの色、素材を用いるかも、現場にサンプルを置いてみて、いろんな時間帯やほかのメンバーの意見も聞きながら進めていったのだとか。

「2階の壁も最初は薄いブルーに塗ろうと思ってたんですけど、あえてそのままでもいいかなと思って。壁や天井にところどころ塗装が剥がれた箇所が残ってるんですけど、それはそれで味があるんですよね」と井澤さん。

「僕のなかでは常に進行中という意識です。今日も話しながらここの壁に絵を飾ったら良いかもなとか考えてました笑。そうやって完成しきらずに余白を残しておくと、使いながら次はどこを変えようかとか、考える楽しみが生まれますよね。毎日使ってる人にとっても、空間に対する見方や関わり方が変わってくると思います」と土堤内さん。

オープン当時は透明なガラスだった1階の窓には、半透明のフィルムを貼り外を通るお客さんと目が合わないよう配慮したそう。結果的に、柔らかい光を拡散する発光源としても機能しています。

手を加え続ける対象として空間を捉えるのは、住宅にも応用できそうな考え方。大掛かりなリノベーションまではできなくても、家具やカーテンなど毎日目に入る部分に手を加えるだけで、印象はガラッと変わります。どんなアレンジを加えていくか、考えるだけでもワクワクしてきますね。

IDEA3:ここぞというポイントには曲線を取り入れる

吊り戸棚と連続する円形の下がり天井。梁や接合部の要素が多い既存部分に、大きな天井面が対置されることで、視覚的な広がりが生まれ落ち着きのある雰囲気が生まれました。

1階のカウンターをはじめ、天井の吊り戸棚など随所に曲線が使われているのもnephewの魅力のひとつになっています。

「人が触れる部分、人を迎え入れる部分には曲線を効果的に使っていきたいという意識はありますね。たとえばテーブルの角に物を置く人っていないじゃないですか。結局円形だったり、角が丸まっているものが効率がいいと思うんです。2階のスタッフルームの壁を曲線にしているのも、階段を上がってきた時に圧迫感がないよう配慮した結果です。」と土堤内さん。

階段から2階へ上がる左手側にある曲面は、スタッフルームの壁。

素材選びも同じ考え方に基づいています。毎日使うものだからこそ、人の手に触れる部分には経年変化を楽しめる自然素材を選択しています。特に悩んだのが2階の床。既存部分に木材が多いことから、フローリングは使いたくなかったそう。

「以前あるお店で壁面にサイザルが使われていたのを思い出して。 それを床に使ったら飲食店ではあまり見たことのない印象になりそうだったので、これで行こうと決めました」

使いやすさにこだわった結果、視覚的にも新鮮なバランスに仕上がりました。

素足に心地良い素材として、憧れの床材というイメージもあるサイザルですが、土足で上がって良い場所に使われているのは驚き。だからこそ多くの人が使う店舗では壁面や建具など、足で踏まない場所に使用するため、床一面のサイザルが新鮮に見えるのでしょう。
床だけでなく吊り戸棚などにも使用していて、曲線との相性もバッチリです。

IDEA4:ネガティブな要素を大胆に解釈し、ポジティブに変換する

中2階とその下のお籠りスペース。単なる上下の動線が、採光を兼ねた座席スペースに生まれ変わりました。

nephewに散りばめられた様々なアイデアのなかでも、最も大胆なアイデアが中2階を取り入れたこと。

「内見に来たときにとにかく暗くて、どうにかしなきゃいけないなとは思っていたんです。そこで思いついたのが、階段を吹き抜けにして中2階をつくってしまうアイデアでした。中2階にも座席を設けられるし、その下は少し床レベルを下げてお籠りスペースにして、席数を減らさずに明るい空間にすることができました。この規模の物件で中2階のあるカフェも珍しいので、お店のアクセントにもなったと思います」

「1階のカウンターも独特なかたちをしてますが、構造上どうしても撤去できない柱とうまく付き合う方法を考えた結果です。キッチンの動線を確保した上で柱の間を縫うように設置すると、自然とあのかたちになったんですよね。結果的にここにしかないオリジナルなデザインになって良かったです」と土堤内さん。

リノベーションにはどうしても変えられない部分が出てきますが、一見ネガティブな要素であってもポジティブに解釈する方法は見いだせるかもしれません。できるだけ気にならないように隠す方法もありますが、思い切ってプラスにできないか、知恵を絞ってみるのもいいですよね。

デザイン会社がプロデュースと経営を手掛けるnephewには、そのままの引用は難しくても考え方のヒントがたくさん詰まっていました。身の回りの小さなところからでも、快適な暮らしをつくっていくアイデアを真似してみてはいかがでしょうか。

Photograph/川村恵理 Text/ロンロ・ボナペティ

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