THE GREAT BURGER
東京都渋谷区神宮前6-12-5 1F
03-3406-1215
11:30〜23:00 (L.O.22:30) / 定休日:年末年始
Instagram / HP
小学生のときに観たE.T.やバック・トゥ・ザフューチャーといった80年代のハリウッド映画に影響を受けて、アメリカンカルチャーにハマったという車田さん。「初めて店舗を出した思い入れの地だし、仲間も多かった」という原宿の地で2007年にTHE GREAT BURGERを、2017年にThe Little BAKERY Tokyoをオープンしました。
驚くことに、店舗の内装デザインやレシピの考案、ロゴやポスターなどのグラフィックデザインまでお店づくりに必要なあらゆる作業を1人でやってのけてしまったのだとか。
「店舗に強い世界観を生み出すには、5人のプレイヤーが必要なんです。それが、オーナー・シェフ・内装デザイナー・グラフィックデザイナー、そして彼らを協力に束ねるクリエイティブディレクター。その5役を1人でできるのが、私の強み。だからこそ、細かいところまで空間にこだわりを詰め込むことができるんです」
そんな車田さんは、THE GREAT BURGERをオープンさせた2007年頃から年に数回アメリカに通うように。そして、現地を訪れるたびに膨大なインスピレーションを受けて帰ってくるのだと言います。
「今はコロナ禍でなかなか行けてないですけど、カリフォルニアには年6回、ニューヨークには年2回行く生活を送っていました。そこで出会う人やお店、街並み、天気……あらゆることがインスピレーションの源。毎回インプットが多すぎて、アウトプットしないと消化不良になってしまう。現地で感じた空気感や得た感覚を、自分というフィルターを通して、ひとつひとつ空間に落とし込む。その繰り返しです」
そんなインスピレーションを得てつくられる空間は、多様なサイン使い、石張りの壁、タイルの床、花柄の壁紙など個性の強いアイテムが散りばめられています。しかし、車田さんの手にかかれば、不思議と統一感のある空間にまとまるのです。
「イメージは、“ゴチャゴチャ”しているけれど、“ガチャガチャ”していない空間。ひとつひとつのモノ自体のインパクトは強いけれど、調和が取れている状態です。全体のトーンを揃えつつ、色味や質感など少しずつアレンジを加えていくことでバランスを取っています」
まるで異国に訪れたような非日常を味わえる2つの空間。一度足を踏み入れたら忘れられないこれらの店舗には、車田さんの経験と知識、そして感性が詰め込まれています。
ポップなイメージのTHE GREAT BURGERと、ガーリーなテイストを感じさせるThe Little BAKERY Tokyo。同じアメリカンテイストでも、2つの空間が醸し出す雰囲気は微妙に異なります。その理由は、それぞれの空間でイメージしている「街」が違うから。車田さん曰く、THE GREAT BURGERでは、南カリフォルニアからアリゾナにまたがるアメリカ南西部を、The Little BAKERY Tokyoでは、ニューヨークの街をイメージしているのだとか。
「店舗をつくるときは、まずどんな街に建つ、どんな店なのかをイメージします。そこから内装やインテリアを決めて行くことが多いですね。例えば、THE GREAT BURGERで取り入れた石壁。アメリカ南西部の砂漠のロードサイドをイメージしているから、この乾いた質感の石壁がしっくりくる。もっと、わかりやすい例で言うと、沖縄という街に建てるのか、京都という街なのか、それとも外国人から見た広い意味での日本という街なのか……それを決めることで自然とイメージが湧いてくると思うんです。街をイメージすることで、目指すテイストや選ぶアイテムが必然的に決まってきて、空間に統一感が生まれてくるんですよね」
この考え方は、自分で空間をアレンジするときにもとても有効。「好きなものを集めたものの、出来上がった空間はチグハグな印象になってしまった……」という経験をしたことがある方もきっと少なくないはず。そうなる前に、まずは自分の好きな「街」をイメージするといいかもしれません。「あの街にこんなインテリアは置いてあったら似合うかな?」といった判断軸ができて、空間に統一感が生まれます。
フレンチアメリカンをイメージしたThe Little BAKERY Tokyoは、一見ガーリーでかわいらしい印象。しかし、甘すぎない空間にまとめ上げられており、見る角度や視点によって異なる表情をのぞかせます。その絶妙なバランスの取り方を、車田さんが語ってくれました。
「引き締めるところは、しっかり引き締める。これがThe Little BAKERY Tokyoで意識していることです。花柄の壁紙やオリジナル柄の床のタイル、チェック柄のソファカバーなど全体的にガーリーな印象だけど、黒のサインやショーケースのアイアンで引き締めることで全体を整えています。ただ、このバランスの取り方には、かなり神経を使っていますけどね」
「人と差をつける、かわいらしい空間をつくりたい」という上級者には、バランスを見ながら“引き締める”という考え方も。ガーリーなテイストに、メンズライクな要素を加えて引き締めることで個性が生まれます。ただし、そのバランスはとても繊細。空間全体の完成像を細かくイメージした上で取り組みましょう。
THE GREAT BURGERの入り口を進むと、ガラスのパーテーションによってエントランスと客席が仕切られています。実はここにも、車田さんの工夫が散りばめられているのです。
「パーテーションには、4つのパターンがあります。すなわち、パーティションなし、ガラス、磨りガラス、そして壁。THE GREAT BURGERの場合は、『空間を仕切りたいけれど、開放感はキープしたい』と考えたので、パーティションの向こう側まで見通せるガラスを選びました。ここを壁で仕切ってしまうと窮屈な印象になってしまうんですよ」
THE GREAT BURGERのソファ席の上には、ボックス型の木枠に鏡が備え付けられています。実は、ここは元々配管が見えてしまっていたのだとか。
「梁の出方や排気ダクトの構造上、どうしても余計な物が見えてしまっていたんですよね。だから、そこにボックス型の木枠をつくって隠しつつ、鏡を付けました。鏡って、人の動きを映すことで活気を感じさせたり、空間が広く見えたりする効果があるんですよ」
家の中で言うと、例えば取り外すことはできないのに、空間の中で浮いてしまいがちな配電盤などの設備。そんなときに素材やデザインにこだわった目隠しをしつらえることで、空間に個性をプラスできます。
Instagramで「The Little BAKERY Tokyo」と検索すると、表情豊かな写真が並びます。しかし、ひとつひとつの投稿をよく見ると、アップされている商品の多くは、ドーナツとアイスクリーム。似たような商品でも、バリエーション豊かな写真が並ぶように見えるのは、どんな仕掛けがあるのでしょうか。
「元々ひとつの空間の中に、さまざまなシーンを演出しようと思っていたんです。その一つの試みが、天板のアレンジ。毎回同じ商品で、同じ背景、似たような写真だと気持ちが高まらないですよね。だからこそ、客席には、3種類ほどの天板を用意しています。そうすると、同じ商品でも写真を撮影したときに“背景”を変えることができるんです。このことによって、お客さんの気持ちを動かして、この店舗での体験を記憶に残してもらえればと思っています」
食器や雑貨などさまざまなアイテムを置くテーブルや棚。その天板をアレンジすることも、暮らしを楽しむひとつの方法と言えます。もし天板を変えるのが難しい場合は、テーブルクロスでバリエーションを楽しむのもおすすめ。お気に入りのアイテムや手の込んだ食事などを、表情豊かな“背景”の上に並べれば、きっと素敵なシーンが生まれることでしょう。
アメリカ南西部とニューヨーク……それぞれの「街」の空気感を空間に落とし込んだTHE GREAT BURGER&The Little BAKERY Tokyo。強い個性を放ちつつも、全体が調和した「“ゴチャゴチャ”しているけれど、“ガチャガチャ”していない」空間の背景には、車田さんが培ってきた経験やアイデアがたっぷり盛り込まれていました。空間づくりのヒント、ぜひ参考にしてみてください。
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-13-6 1F
03-6450-5707
10:00〜19:00 / 定休日:年末年始
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Photography/ 宮前一喜 Text/ 小林拓水