Dolive Doliveってなに?

鈴木善雄, 引田舞, CIRCUS DATE 2022.06.09

古材・古家具を現代の生活に。
ディレクター鈴木さん引田さんの暮らし

家具や雑貨の販売だけでなく、カフェや撮影スタジオ、レコーディングルームも併設された、東京・新木場にある複合施設『CASICA』。そのディレクションを担当している鈴木善雄さん、引田舞さん夫妻が住む、吉祥寺の一軒家を訪問。家の中には古今東西のさまざまなものが並んでいます。生活と仕事がひと続きになった彼らが考える家の在り方とは? 2人の家づくりの方程式を紐解いていきます。

家づくりの方程式
​​鉄筋コンクリート造の一軒家
古材や古家具を
現代の生活に生かす
ただ好きなものを組み合わせる

東京・吉祥寺にある3階建ての一軒家をリノベーション。1階には舞さんの両親が住み、2階はオフィスとゲストルームに。3階が善雄さん、舞さん夫妻と子ども2人の住居になっています。ワンフロアの床面積は約80㎡。それに加えてベランダを改装したサンルームが10㎡強。玄関を入るとまず目を引くキッチンは、彼らのライフスタイルの中心でもあります。

鉄筋コンクリート造の一軒家
 

方程式
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築20年以上の鉄筋コンクリート造の一軒家。6年前、その3階をほぼスケルトンの状態にして、間取りも建材も自分たち好みに作り変えたのだとか。

今は荷物置き場になっている小さな部屋以外は、キッチンを中心にダイニング、リビング、寝室を全部つなげたワンルームに。それは、上の子が生まれるタイミングで、家族と一緒にどう住みたいかを考えたときに生まれたアイデアだったそう。

奥に見える部屋以外はこのキッチンを中心に空間がつながっている

「うちは家全体がキッチンのようなもの。それは閉じこもれない空間にしたいという考えがあったからです。子どもが大きくなっても自分の部屋から出てこないのではなく、みんながダイニングの大きなテーブルを囲んでいる環境になったらいいな、と思って」

最初にそのプランを聞いたとき、舞さんは反対だったそう。「寝室とキッチンが一緒というのは、すぐには賛成できませんでした。でも、まずはやってみてダメだったら壁を作ればいいじゃない、と言われ、そのチョイスがあるならいいか、と受け入れました」

リビングとつながったベッドスペース。奥は壁に見えるけれどクローゼット

そして実際に住んでみたら、「仕切りはなくていい」という結果に。「ちょっと壁が張り出しているところが、ゆるやかな区切りになっていて丁度よかったんです。寝室をひとつの部屋にしなかったことで、狭く感じず、寝ていても窮屈になりません」

ダメならやり直せばいいというのも、この家の基本的な考え方。「先のことを考えすぎないのも大切。いくら計画したって将来のことは誰にもわからない。それならば今ベストなことをやって、不自由になったらまた変えればいい。常にベストでいるほうが気持ちいいと思うんです」と、善雄さん。

舞さんも「家づくりとは、何が自分の暮らしで一番重要かを考えることだと思います。うちは2人とも料理をして、来客も多い。料理をするときに孤独になってほしくないし、子どもは目が届くところにいてほしい。そうなると広いキッチンと、仕事もできて、子どもがお絵描きもできる大きいダイニングテーブルが必要だと決まっていきました」と言います。

「最初は『タオルのフックはこれがいい』とか言っていたのですが、夫から『いや、まずはもっと大きいところから決めていかないと』と言われ、なるほど、と思いました。ディテールを詰める前に、まずは暮らし方をどうするかを思案することから始めるといいのでは」

今はグリーンがいっぱいの温室も最初はベランダでしたが、そのときのベストな形を求めた結果、改装したそう。

「もとは低い手すりがあるだけのベランダで、危なくて子どもが出られない。それならばいっそ温室にしてしまおうと窓と屋根をつけました。そうしたら植物を置きたくなって、気づいたらワサワサに。ここでお茶を飲むこともあるし、最近ではコンポストを設置。子どもたちも土遊び感覚で手伝ってくれます」と舞さん。

未来を考えすぎるより、今のベストを探る。それが、彼らの最初の家づくりのヒントのようです。

古材や古家具を現代の生活に生かす
 

方程式
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家の中心にあるキッチンには、壁に古い日本の小家具がはめ込まれ、収納になっています。置き家具を壁につけるというアイデアが斬新。

「日本の家具を使って、日本っぽくない表現をしたいと、かつて実験的なTAKIBI BAKERYの店舗でのアイディアを踏襲したんです。そのときは店でしたが、住宅だとどうなるのだろうという実験的な意味もありました」

手持ちの小家具をパズルのように組み合わせ、施工をする際にビス留め。特に図面は描かずライブで作っていったといいます。

「キッチンだけでなく、仲間の大工さんたちと話しながら、すべてを作っていきました。ドアひとつでも古いものなので、規格に当てはまらない。だから、ドアが決まってからそのサイズに合わせて壁を作るといった感じで進めていきました。自分たちの家なのでそんなにきっちりはせず、割と適当でしたね」

古材や古道具が多いのは、善雄さんの好みでもありますが、子どもが汚しても気にならないようにしたかったという理由もあります。床材やキッチンの扉材はチークの古材。本来は床にはあまり使用されない木材だそう。

「ふつう床材は木が変形しないようにできていますが、これは床用ではないので歪んで上がってきたりします。キッチンのまわりはオリーブオイルをこぼして色が濃くなっているし、子どもが落書きしているところもある。それでも別にいいか、と思えるのが古材のいいところです」

テレビまわりの薪や食器を入れた収納棚は古材を使って善雄さんがDIYしたもの。隙間に合う家具を探すより、作ったほうが家の雰囲気に馴染み、サイズも自由に調整できます。

ただ好きなものを組み合わせる
 

方程式
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決まったルールに縛られず、古今東西のあらゆるものが所狭しと置かれている2人の家。時代や作家、有名、無名にこだわらず、ただ好きなものが置かれているといいます。

「イギリスのパイン材のドア、インドネシアのチーク材の床、和家具はラワン材というように、使われている木材や原産国が全然違います。木の家具ばかりではなく、照明はインダストリアルなものだったり。そこにはルールは特にありません。恣意的に色味を合わせようともしていないし、何かを調和させようという意識はありません。好きなものを集めていけばそれなりになるのではないでしょうか」

舞さんも言葉を続けます。「私たち2人のセレクトは全然、揃わないんです。私は作家さんのものや新しいもの、彼は古物を選ぶ、みたいな棲み分けがされています。もちろん、好き勝手に買うのではなく、相談はします。でも、お互い好きなものがまじわらないほうが面白いし、幅が広くなると思うんです」

「ただ、好きなものって流行っているとか、時代性とか案外いろんなことに影響されている。“好き”も変化していくんです。でも、すごく悩んで買ったものってけっこうずっと持っていたりします。そういういろんな好きを積み重ねていけるといいですよね」と善雄さん。

そんな積み重ねが、家と暮らしを熟成させます。2人は今好きなものが見つからなければ、すぐに手に入れようとせず、気にいるものが現れるまで待っているのだそう。焦らず、変化を見つめることで、何がその人の暮らしで大切なのかが次第にはっきりしてくる気がします。

温室の植物にも「好き」が詰め込まれている

(方程式のまとめ)
約束事に縛られず、好きなことややりたいことを突き詰める

最初から完璧を目指すのではなく、住みながら気になるところを変化させていく。棚が足りなければDIYすればいいし、家具も出合うまでは仮のものでいい。古材や古家具を活用すれば、子どもが汚しても気にならないし、好きなものを組み合わせることで独自性も出てくる。どう暮らしたいかが明快に表れている善雄さんと舞さんの家。方程式を紐解くと「そのときのベストを目指して、自分たちだけの暮らしを作る」という答えが見えてきました。

鈴木善雄さん 引田舞さん

「CIRCUS」主宰。内装設計、ショップディレクション、アートディクション、フードディレクション、古道具卸、商品セレクト、撮影スタイリング、店舗企画やイベント企画など多岐にわたる業務を行っている。

Photography/上原未嗣 Text/ 三宅和歌子  Illustration/谷水佑凪(Roaster)