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REFACTORY antiques・渡邉優太さんの一軒家 DATE 2022.12.07

埼玉県飯能市でアンティークセレクトショップ「REFACTORY antiques」を営む渡邉優太さんの住まいは、店から徒歩圏内の高台に位置しています。1970年代に建てられた一軒家を、その家が持っていた良さを生かしながら数年かけて改装。“暮らしとは何か”を考えながら、外と内がつながる生活を送っています。仕事で何千という数の家具を見てきたからこその、渡邉さんらしい家づくりの方程式を紐解いていきます。

家づくりの方程式
1970年代の一軒家を数年かけてセルフリノべ
用途を限定しない、フレキシブルな家具使い
アンティークショップオーナーの視点
REFACTORY antiques・渡邉優太さんの自宅の間取りイラスト

東京出身の渡邉さんは、実家を出て自立して暮らしたいという希望を叶えるため、現在住んでいる飯能市の隣、入間市で一人暮らしを始めたそう。そのときも庭付きの平屋に住み、窓サッシをアルミから木製に変えるなど、自分で手を入れながら暮らしていたといいます。その後、飯能の環境が気に入り、新しい家探しを開始。2010年にこの物件に出合いました。

REFACTORY antiques・渡邉優太さんの自宅の外観

「前の家を手直ししてきた実績があったので、不動産屋さんには古くても壊れていても直しながら住むから、自分らしく住める物件を探してほしいと伝えました。そうしたら、不動産情報には出ていなかったここを紹介してくれたんです。賃貸ですが庭もあり、理想だった外とつながる暮らしがイメージでき、自分なりにこの家のポテンシャルを生かせる手入れをしたいと思い、ここに決めました」

入居したときは不具合が多かったこの家を、仕事で関わりのある大工や塗装職人と相談しながら一緒に手直ししていきました。大事にしたのは「古いところを直すときに、違和感なく気持ちいいおさまりになるようにすること」だったと言います。そのために使う素材や色を吟味。約50年前と現在が溶け合うような、心地いい雰囲気を作り出しています。

REFACTORY antiques・渡邉優太さんの自宅のキッチンとサンルーム

1970年代の一軒家を数年かけてセルフリノべ
 

方程式
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REFACTORY antiques・渡邉優太さんの自宅の外観と庭

2階建ての一軒家は玄関が傾いていたり、サンルームの窓ガラスが割れていたりなど、最初はけっこうボロボロだったと渡邉さん。「それでも初めて見たときに、ここなら素敵な時間が過ごせそうだとイメージができたんです。状態よりも気持ちがまさった感じですね」

REFACTORY antiques・渡邉優太さんの自宅の玄関

間取りはほぼ変えていませんが、リビングの壁の色は大きく変えたことのひとつ。

REFACTORY antiques・渡邉優太さんの自宅のリビング

「リビングの壁が最初はすべてベニヤの色だったんです。アトリエっぽいというか山小屋感がありました。けれど、ベニヤをパネル状にして壁を仕上げる“目透かし”がされてあって、それはいいなと思っていました。なので、塗装する際もその良さを消さないよう気を配りました」

ベニヤの目透かしは、戦後手に入りやすい素材で自然な仕上がりになるように建築家が工夫して考えた仕上げ法。一面はベニヤのままを残しながら、ほかはニュアンスのある白に塗り替えています。

REFACTORY antiques・渡邉優太さんの自宅リビングの目透かしを生かした壁

「塗装した理由は、壁が茶色だとアルミサッシが目立ってしまうから。ただ、この大きな窓すべてを木製サッシに替えるのはやりすぎ。それだったらアルミが気にならない壁色にすることですっきり見せようと考えたんです」

REFACTORY antiques・渡邉優太さんの自宅リビングの巾木

2階にある寝室は色や素材の組み合わせを考えて床材、天井をすべて替えた部屋。特に床にはこだわりがあるといいます。

REFACTORY antiques・渡邉優太さんの自宅の寝室

「材自体は新しいものなのですが、粗く削る加工をして、節などに白いオイルを染み込ませています。そうすることでこの家の持つ古い雰囲気と違和感のない作りに。余った床材は玄関にも使っています。土足で歩いたような気負わなさが、外と内をつなぐ玄関にも合っていると思います」

REFACTORY antiques・渡邉優太さん自宅の寝室のグレーの壁

寝室の壁はグレーに塗装

REFACTORY antiques・渡邉優太さん自宅の寝室の床

白いオイルを染み込ませた床板

これらのリノベーションはここに引っ越してすぐに始めたわけではない、と渡邉さん。1年間、何もせずに住んでみて、光の動きや時間によって変わる居心地のいい場所を見つけてから、家づくりを進めたのだそう。今も完成したわけではなく、その時々で手を入れています。

REFACTORY antiques・渡邉優太さんの自宅の廊下

寝室を出た廊下と階段はダークブラウンの壁

REFACTORY antiques・渡邉優太さんの自宅の廊下

朝起きて眩しすぎない工夫だそう

「ライフスタイルが変化すれば家での過ごし方も変わってくる。だから、これからも手を入れていくと思うし、ずっと完成はしないのかもしれません」

REFACTORY antiques・渡邉優太さんの庭から見たリビング

庭の木々も美しく手入れされている

用途を限定しない、フレキシブルな家具使い
 

方程式
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REFACTORY antiques・渡邉優太さんの自宅リビングのソファ

渡邉さんがインテリアを考える際に意識しているのは、居場所や使い方を固定化しないこと。家具は移動させづらいものにはせず、軽さを感じるものを選んでいます。

REFACTORY antiques・渡邉優太さん自宅リビングのダイニングテーブル

床が見える足つき家具が中心

ひとつの家具を多目的に使えるようにしているのも渡邉さん宅の特徴。サンルームのテーブルやライトは可動式になっており、その場所を使いたい用途に合わせて動かしたり、形を変えられるようになっています。

REFACTORY antiques・渡邉優太さん自宅のサンルーム
REFACTORY antiques・渡邉優太さん自宅のサンルームのカウンター
REFACTORY antiques・渡邉優太さん自宅サンルームのカウンターとランプ

「バタフライ式になっているので、出すと簡易的なテーブルになり、簡単な食事をとることもできます。グリーンの世話をするときは畳んで空間を広く使い、コーヒーを飲むときや作業をするときは出す。ひとつの場所に対して、いろいろな用途に向けた使い方ができるようにしたいんです」

リビングのコーヒー用スペースの壁にかかっている照明は、実はテーブルランプ。台座を壁のフックに引っ掛ければウォールランプとなり、置けば手元を照らすランプになるという二役をこなしてくれます。

REFACTORY antiques・渡邉優太さん自宅リビングのインテリア
REFACTORY antiques・渡邉優太さん愛用のランプ

コーヒーを淹れるスペースの対面には、壁一面に新しくしつらえた正方形のユニット本棚が。「ラワン材で作りました。正方形にしたのはユニットごとにテーマを変えられるから。本棚としてだけでなくディスプレイ棚としても使えるので、これもフレキシブルに使いこなせる家具です」

REFACTORY antiques・渡邉優太さん自宅リビングの本棚

アンティークショップオーナーの視点
 

方程式
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REFACTORY antiques・渡邉優太さんの自宅リビング

アンティークショップを営んでいる渡邉さんが家で使っている家具は、新しいものも組み合わせながらアンティークやヴィンテージを取り入れています。基本的には店で扱う家具をセレクトするのと同じ考えで決めているそう。

「僕がセレクトする基準は、おおまかに3つ。まず、人が作った跡や、そのものに対する考えがデザインに表れていること。次に経年変化して生活になじむもの。そして、無理せず暮らしとつながる印象が持てるものというのが、基本です。その視点は店でも家でも変わりません」

だから、作り手の考えが見える、構造がデザインになっている家具も好きだといいます。「デンマークのデザイナー、ボーエ・モーエンセンによるソファは、フレームのウィービング(クッション受け)が構造でありながらデザインになっているんです。クッションは、このソファの良さが活きるように、ウレタンや生地を選んで作り直しました」

REFACTORY antiques・渡邉優太さん自宅リビングのソファ

寝室のシェルフに置かれた小物には、渡邉さんの思うものづくりの良さが凝縮しています。

REFACTORY antiques・渡邉優太さん自宅に飾られたヴィンテージのパーツ

「陶器とガラスでできたこのパーツは襖の開け閉めを滑らかにするための戸車。見えない部分なのに、しっかり機能するように手作業で作られている。これは、僕のなかで大事なことなんです。気に留められないかもしれないけれど、ちゃんと全体が機能することを考えて作られたものは造形も美しい。ものづくりのいいな、と思う部分が詰まっているので、心に留めておきたいと、ニッチの棚に飾っています」

さらに、ダイニングテーブルの上のペンダントライトは、本来はガーデンで使われるガルバナイズド処理(亜鉛めっき処理)を施した、錆びづらい金属のシェードが使われています。

REFACTORY antiques・渡邉優太さん自宅リビングのランプ

「僕の経歴はインテリアショップの、アウトドアリビングを提案する部署からスタートしました。なので、今もガーデンファニチャーは好きですし、なぜその素材が使われているのか、という理屈を探るのも好きなんです。だからインドア用の素材だけでなく、エクステリアでも使える素材の家具もミックスしています」

REFACTORY antiques・渡邉優太さん自宅のサンルームの植物
REFACTORY antiques・渡邉優太さん自宅のサンルーム

そのミックスの仕方には、法則があるわけではなく渡邉さんの自己流。
「あくまで僕の考え方ですが、家具を選ぶときに、家に合うかどうかとか、素材や色を揃えるといったことはあまり意識しないでいいと思います。ものを見たときの“好き”という気持ちを大事にしたほうがいい。その気持ちが集積することで、自分らしいスタイルが出来上がるのではないでしょうか。何に使うかすぐにはイメージできなくても、置く場所を変えたり、用途を変えるとまた違う魅力が出てくることもある。だから、いいと思ったものは、迷わず暮らしに取り入れる。それが僕の家具に対するアプローチです」

(方程式のまとめ)
今のインテリアに馴染むかを考えるより、好きなものは迷わず取り入れる

古家を借りて自分で手を加えながら、自然とつながる暮らしを続ける渡邉さん。新しく作ったり塗装したりしたところも、約50年前に建てられた家屋に馴染むよう工夫しています。 そして、家具や小物は、部屋に合うかよりも、自分の心に刺さるかどうかを大事にする。それらを大切にすることで、自分らしい生活が成り立っていくという考え方です。アンティークセレクトショップのオーナーとして、多くの家具と対峙してきたからこそ導き出された方程式は、とてもシンプル。ですが、それこそが心地よく暮らすための真理なのかもしれません。

REFACTORY antiques・渡邉優太さん自宅のキッチン
渡邉優太さん

大学でユニバーサルデザインや人間工学について学んだ後「ザ・コンランショップ」に入社。植物やガーデンファニチャーを提案するアウトドアリビングを担当。2012年に埼玉県飯能市に「REFACTORY antiques」をオープン。アンティーク家具を修復して販売するほか、インテリア相談も受け付けている。

Photography/川村恵理 Text/ 三宅和歌子  Illustration/谷水佑凪(Roaster)