2020年8月に東京・浅草にオープンした「浅草九倶楽部」。ホテル・劇場・レストランが一体となった「観て、食べて、泊まって楽しむ」施設として、世代を問わず多くの人気を集めています。下町らしい“和”と現代的な“モダン”を両立させた空間づくりについてお話を伺いました。
遊び心がたくさん。劇場一体型ホテル
ホテル・劇場・レストランが一体となった『浅草九倶楽部』。
もともとは人気カフェをプロデュースしている企業が手がけた建物だったそう。
「ベースのデザインを活かしつつも、『浅草九倶楽部』らしい“和”を取り入れたデザインにリノベーションしました。1階はエントランスとカフェ&ラウンジ、2 階は劇場『浅草九劇』、4~10階が客室となっています」
建物には遊び心のあるサインがあちらこちらに。
「訪れた人が少しでも楽しい時間を過ごせるように、館内のサインにはこだわっています。たとえば、従業員以外立ち入り禁止のサインは『STAFF ONLY』ではなく、『We love you but STAFF ONLY』。1階ロビーのエレベーターは『LIFE HAS UPS & DOWNS』(人生山あり谷あり)。さりげない遊び心で、この施設で過ごす時間が少しでも楽しくなればいいなと思っています」
訪れるたび楽しめる。バリエーション豊かな空間づくり
友人同士で集まりたいとき、カジュアルなひとり旅を楽しみたいとき、贅沢なひとときを過ごしたいとき……さまざまなシチュエーションにフィットする客室が用意されているのもこの施設の特徴。なんと客室はすべてデザインが異なるのだとか。
「浅草の街に溶け込んだ“和“で“粋“が感じられるように、各部屋ごと、壁紙を変えたり、インテリアの設えを変えたりしています。『浅草九倶楽部』には、リピートされるお客様も多くいらっしゃいます。だからこそ、訪れる度に新たな発見や楽しみがある空間にしたいんです」
IDEA1:“和“で“粋“を感じさせる素材で空間に個性を
空間づくりのテーマは、「Japanese Modern」。そのテーマを表現するため、内装はモルタル、銅板、和紙、木材など異素材を絶妙なバランスで組み合わせています。
「『どんな場所に、どんな素材を使ったらおもしろいか』という視点で、インテリアや空間を設計しました。たとえば和紙のような質感の壁紙をチョイスして特別な雰囲気を持たせる部屋があったり、藍染めのフットスローを取り入れて見ても触っても楽しめるようにしたり。そのほかにもウッド×レザー、ウッド×アイアンなど、あえて異素材を使っているのもポイントですね」
この考え方は、住宅にも応用可能。素材を使い分けることで空間にぐっと個性が生まれます。たとえば、洋室に和紙のような風合いの壁紙を取り入れてみる。ウッドが特徴的な空間にアイアンのアイテムを取り入れてみる。そのように意外性のある素材を取り入れるだけでも空間の印象は一変します。 壁紙や内装を変えるのが難しい場合は、今まで使っていなかった素材のインテリアを並べることで変化を加えることができます。
IDEA2:モダン8割、和2割でつくる「Japanese Modern」
空間づくりのテーマ、「Japanese Modern」を表現するために、もうひとつこだわっているのが、“和”と“モダン”のバランス。モノトーンの配色やアイアンなどの素材をベースに空間をモダンにデザインしつつ、 “和”のモチーフをアクセントとして使っています。
「現代の私たちが心地いいと感じる“粋”な空間にするために、“和”と“モダン”を絶妙なバランスで組み合わせました」
和モダンな空間をつくりたいときに参考にしたいのが、このバランスです。“和”は個性が強い分、インテリアなどアクセントとして使うのがおすすめ。空間全体のイメージをモダンで統一すれば、“和”の個性が一層際立ちます。
IDEA3:土地のモチーフを活かす
浅草寺まで徒歩3分と浅草の中心地に位置する『浅草九倶楽部』。施設内には、浅草にゆかりのある作家によるオリジナルの家具やインテリア、浅草伝統の工芸品が採用されています。
「空間づくりにおいては、ローカルコミュニティーをどう表現していくかも大切なポイントでした。この施設が位置する台東区や隣の墨田区は、皮革製品や染め物などのものづくりが盛んな地域。優れた職人も多くいます。施設内のインテリアやアートワークはこの地域の作家や職人とコラボレーションして製作しました。地域のストーリーに根ざした空間づくりは意識しましたね」
日々の暮らしを楽しむためには、この考え方も大切なポイントです。自分が住む街を散歩しながら、そこに息づく作家や職人さんの家具や食器、インテリアなどを探していく……自分たちが暮らす土地と縁が深いアイテムを家づくりに使うことで、暮らしがますます楽しくなるはず。
浅草の中心地でさまざまな人を惹きつけている「浅草九倶楽部」。下町らしい“和”と、現代的な“モダン”なテイストを見事に取り入れたこの施設には、愛着を持って暮らし続けるためのヒントが隠されていました。
Photography/ 宮前一喜 Text/ 小林拓水