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夏目坂珈琲 DATE 2022.08.01
夏目漱石ゆかりの地として知られる新宿区・喜久井町。漱石の父・直克(なおよし)が命名した「夏目坂」という緩やかな坂を上った先に白と鮮やかな青が目を引くビルがあります。

そのビルの1階には、土地の名前にちなんで「夏目坂珈琲」と名付けられたカフェも。ビルのオーナー会社である制作会社・ロースターが運営しているこのお店。様々なメディアの運営や記事制作などを手掛けている編集プロダクションで、「夏目坂珈琲」もまた、自身のクリエイティブの一環として運営しているのだとか。社員のみならず、様々な人が自然と行き交う風通しの良い空間づくりについて、代表の大崎安芸路さんに伺いました。

ビル全体を「ものづくりと情報発信の基地」に。

都内で物件を探している最中出合ったのが、もともと宝石商だったという早稲田の築50年のヴィンテージビル。

「このビルの一番の特徴であり、決め手でもあったのが“曲線”。窓枠、間取り、外壁とあらゆるところに曲線があるんです。この曲線に初代オーナーのただならぬこだわりがあると感じて、社名Roasterの頭文字“R”と、曲線という意味の“R”から意味をとって、“Rビル(アルビル)”と名付けました。“R(アル)”という読み方は、カフェの内装デザインのコンセプトにもなっている、ノルウェーやフィンランドの発音にならっています」

1階がカフェ、2,3階がオフィス、4階がキッチンスタジオ、5階が撮影用スタジオ、そして屋上と、各フロアで多彩な表情を魅せるRビル。そのすべての空間が「ものづくりと情報発信の基地」なのだそう。

「オフィスに色んな空間があって、色んな人が行き交うことで、新しい情報やアイデアが入ってくる。そして今度はそこから自分たちが発信していくことも大切だなと。そういうインプットとアウトプットの両方ができる空間を目指しています」

IDEA1:フロアごとにデザインを変え、多彩な雰囲気の空間に

夏目坂珈琲のソファ席から見えるパティオ(裏庭)のグリーンは、自分たちで管理して育てているそう。

5階建てのRビルの大きな特徴のひとつが、各フロアごとに異なる雰囲気の空間づくりをしているところ。
白とウッドのベースに、鮮やかなブルーを差し色にした1階夏目坂珈琲は、北欧カフェのような心地良い雰囲気が漂います。

一部天井が吹き抜けになった2、3階オフィス

階段を上った先の2階は、白と白木を基調としたオフィススペース。
「白を基調とした2階とは違った雰囲気にしたくて、3階はコンクリート剥き出しの天井と、梁のように木材が交差したデスクを作って、ログハウスのようなアウトドアな雰囲気を加えました」

撮影やイベントなどでも使っているという4階キッチンスタジオ。ちょっとした食事会を開催するなど、社員同士の交流の場でもあります。

1~3階とはガラリとテイストが変わる4階キッチンスタジオ。あえてコンクリートを剥き出しにしてインダストリアルな雰囲気に。

「天井はそのままコンクリートを剥き出しにして、壁にはニュアンスのあるグレーの塗料をうっすらと塗っています。もとの建物の思い出やストーリーを大切にしたくて、全部を綺麗にせず、あえて建物本来の古い質感を残しているんです」

各階の階段の踊り場にある、変わった形のブラケットライトはそのまま活かして、電球だけLEDに変えて使用しています。

「屋上は、地域の人たちや仕事仲間が集まって楽しめるようなイベントの場所にしたいと思っています。昨年は、お茶の先生を招いてお月見の会を開催したりしました」

都内の街並みを360度見渡すことができる開放的な屋上。これも物件選びの決め手になったのだとか。

IDEA2:新たなクリエイティブを生む、風通しの良い空間

オフィスの空間づくりにおいて、設立当初から一貫して大切にしてきたテーマが「風通しの良さ」。

「オフィスでいう“風通しの良さ”には、窓から光や風が入る通気性の良さって意味と、“コミュニケーションの取りやすさ”の2つの意味を込めています。社員だけでなく、外部のスタッフさんや地域の人たちが気軽に立ち寄って話ができるような場所にすれば、新鮮な情報や面白いアイデアも入ってくるだろうし、そういうところから新しいアウトプットが生まれると思うんです」

室内の窮屈さを感じず、開放感さえ感じる空間の秘密は、細部に散りばめられた工夫にありました。

2階の天井の一部を抜いて、3階と空間が繋がっているような吹き抜け構造に。

2階オフィスの天井は、一部思い切って抜いて、吹き抜けに。窓が無い2階の本棚スペースにも3階からの自然光が差し込み、オフィス全体が一気に明るくなったそう。

「創業当時から15年間育てている観葉植物ウンベラータの置き場所にも丁度よくて、一石二鳥だなと(笑)」

風通しの良さを生む工夫は、キッチンカウンターの配置にも見られます。 1階夏目坂珈琲と4階キッチンスタジオのカウンターはどちらもアイランド型。スペースを効率良く使うなら、キッチンカウンターは壁際に寄せるのがベストだそうですが、あえて中央に配置することで、人が行き交いやすくなったり、カウンターを囲むようにコミュニケーションがとれるような空間になっています。

1階夏目坂珈琲のカウンター

4階キッチンスタジオのカウンター

IDEA3:地域と繋がるカフェは、土地にちなんだ色と和洋折衷をバランス良く

ブループラークを模した看板

夏目坂珈琲のコンセプトカラーであり、インテリアのアクセントとして取り入れられている鮮やかなブルー、実はこちらも夏目漱石がルーツ。ロンドンの古い建物についている、著名人がかつて住居していたという証の青い銘板『ブルー・プラーク』。それに日本人として唯一名を刻んでいるのが夏目漱石なのです。そのブルーを使って、ポップになり過ぎず、かといって優しくもなり過ぎない絶妙なトーンにするのには苦労したそうです。

「青って、至る所に使われる色だからこそ、いろんな表現やいろんな表情があります。ちょっとしたトーンや色味の違いで、全く違うイメージにもなりうるカラーなので、今の色にたどり着くまでには何度もサンプルを作りました。実際、このブルーも2回塗り直しています(笑)」

会社設立当初のオフィスは、映画『かもめ食堂』からインスピレーションを受け、北欧カフェのような空間を目指していたのだそう。

「それから10年以上経った今、夏目坂珈琲を始めるときにちょうどそのことを思い出して。フィンランドのカフェ『かもめ食堂』をもう一度自分たちで解釈して、今っぽく作ってみたいなと思ったんです。そこで思いついたのが、北欧と日本、両方の魅力を掛け合わせて表現することでした」

北欧だけでなく、日本の良いところもバランスよく取り入れているという夏目坂珈琲。入り口の縁側をイメージさせるベンチや、湯呑みのような形が特徴の『Kahler (ケーラー)』のマグカップなど、言われると「たしかに!」と気付けるような自然な温度で和の要素をうまく取り入れています。

地域の人々が気軽に立ち寄れるカフェ、そして社員が心地よく働けるように工夫された風通しの良いオフィスをもつ編集プロダクション・ロースターのRビル。フロアごとに異なる表情を魅せる空間のアイデアを、ぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。

Photography/川村恵理 Text/大倉詩穂(Roaster)