rébon Kaisaiyu
東京都台東区下谷2-17-11
tel.03-5808-9044
営業時間:11:30〜19:00
定休日:無休
明治末期に銭湯〈快哉湯〉としての創業。建物は大正12年(1923年)の関東大震災で一度倒壊したものの、昭和3年(1928年)に再建。その後、増築などをしながら、2016年11月まで営業を続けていました。設備の老朽化やオーナーの高齢化などにより幕を閉じることにはなりましたが、貴重な建物をどうにか残したいというオーナーの願いにより、カフェ&オフィスへと様変わり。浴室は内装を担当した設計事務所〈ヤマムラ〉のサテライトオフィスに。脱衣所が石橋さんの運営するカフェへと変貌しました。
「改装に当たっては、古い設備などの他はすべて残す方向で考えました。カフェにしたのは、銭湯営業時と同様に人が集まるコミュニティを育む場所にしたいという思いからです」と、石橋さん。
入り口を入ると下足箱があり、そこで靴を脱ぐスタイルも銭湯の頃のまま。カフェには、番台があり、脱衣所の男女の仕切りもそのまま残されています。
「よく残してくれた、と喜んでくださる方がいる一方、銭湯に行ったことがないという若者も新鮮に感じてくれているようです。浴室には富士山のペンキ絵が描かれていますが、それも若者にとっては、話には聞いていても初めて目にするもの。浴室はヤマムラのオフィスになっていますが見学も可能なので、写真を撮って楽しんでいる人もいるようです」
ノスタルジックに浸るのではなく、古いもののなかから新しさを見出す。それが、空間作りのヒントになりそうです。
〈rébon Kaisaiyu〉の魅力は、なんといっても100年近く使われてきた道具や意匠の数々。例えば、男女の脱衣所を分ける鏡張りの仕切りもその一例。
「通常、カフェではこういう鏡の使い方はしません。仕切りをなくしてひとつの大きな空間にもできたのですが、あえてそのまま残しました。真ん中にある番台も当時のものです」
仕切りがあることでカフェの中に様々な居場所ができ、自分のお気に入りの席を見つけることができるメリットも生まれます。また、番台は座ってみることも可能で、空間のアクセントになるだけでなく、ちょっとしたエンターテインメント性ももたらしています。
「柱の振り子時計や体重計、注意書きの看板も昔からあるもの。そういったかつては現役だったものを生かすことで、空間や時間を単なる過去のものとするのではなく、今につながっているものだと認識させる役割も果たしてくれます」
最も格式が高いとされ、寺院や神社に多く使われている格天井も、この空間を引きしめている意匠。床材も1928年当時のものですが、新しく作られたカフェのカウンターとも見事にマッチしています。
例えば床や壁に古材を使う。家族が受け継いできたものをインテリアに取り入れるなど、建物自体が古くなくても、古色を出すことは可能。和洋折衷ならぬ新旧折衷を上手に取り入れることで、自分らしいオリジナルな家をつくることができそうです。
さらに、この空間で目を引くのが、様々なタイル。元々銭湯だったこともあり、脱衣所から浴室へ入る入り口や、洗い場、浴槽に使われていたタイルが残っています。
「カフェのカウンターの側面にも、日の光によって色味が変化するタイルを貼りました。銭湯からインスパイアされて、タイルはぜひ使いたいと思った素材です」
1枚から手に入るタイルは、色や柄も大きさも豊富。こちらでは、色味の見え方が変化するタイルやレトロな柄タイルを残して使っていますが、家では、玄関に敷いたり、キッチンの一角に張ったりなど、自由な発想で取り入れることができます。空間をぐっとチャーミングにしてくれるタイルは、余っても鍋敷やコースターとしても利用できるので、ぜひアイデアのひとつに加えてみてください。
銭湯の天井の高さを生かしているところも、この空間の特徴。オフィスとして使われている浴室の天井高は約7m。その高さを生かすようにロフトのような棚を作り、ずらりと本が並べられています。
そこまで天井が高くなくても、壁や天井といったスペースを有効に使うのは、家づくりにも生かせるアイデアです。壁一面にぐるりと棚をつけて、本棚にする。目の高さより上の位置にすれば、圧迫感も感じません。
また、カフェの奥の壁にも注目。
「カフェの奥は化粧室になっていて、それを隔てる壁をただ平面にするのではなく、ディスプレイ棚にしました。ちょっとしたグッズを置くのにも重宝しています」
仕切りとしてだけではなく、収納もできる壁にすることで、用途の幅も広がります。平面でないといけない、という固定概念を取り除くことで、使い勝手のいい空間が生まれる。そのお手本となるようなしつらえです。
東京都台東区下谷2-17-11
tel.03-5808-9044
営業時間:11:30〜19:00
定休日:無休
Photo / 川村恵理 Text / 三宅和歌子