HOTEL K5
東京都中央区日本橋兜町3−5
tel.03-5962-3485
全20室。
1階にレストラン、コーヒーショップ、ライブラリーを併設。
HP
東京都中央区日本橋兜町3−5
tel.03-5962-3485
全20室。
1階にレストラン、コーヒーショップ、ライブラリーを併設。
HP
1999年まで東京証券取引所があり、日本随一の金融街として知られた兜町には古くからのビルが立ち並んでいます。一見すると殺風景なビジネス街にも見えますが、日本橋エリアのここは東京駅にも「日本橋三越本店」や「コレド日本橋」といった商業地区にも近く、東京観光の絶好のベースでもあります。再開発によってコーヒーショップやブーランジェリー、クラフトビール店なども登場し、休日には若者の姿も多く見られるように。
「K5」も再開発の一貫としてオープン。築100年の躯体をそのまま残しながら、この先100年の未来も見据えたリノベーションを進めました。デザインを担当したのは、ストックホルムを拠点に活躍するスウェーデンの建築ユニットであるクラーソン・コイヴィスト・ルーネ(以下CKR)。日本の文化や伝統を彼らの解釈でモダンに落とし込んだ空間は、旅心を刺激するとともに、自分の家にいるようなリラックス感も演出。その絶妙な塩梅には、細やかに計算されたアイデアが秘められています。
CKRにインスピレーションを与えた日本語に“あいまい”があります。はっきりしないなど、ネガティブに捉えられがちな言葉ですが、彼らはあえてポジティブに解釈をしました。
「実は80㎡のスイートルームでも壁や扉による仕切りがありません。作り付けの大きな棚などで視線は遮られるけれど、きっぱりとは区切っていないんです。こちらは寝室、こちらはリビングと役割を押し付けるのではなく、境界線を作らないことで、お客様それぞれの感性で使うことができます」
そのあいまいさは随所に表れています。ベッドを囲うのは、薄く柔らかい麻布による天蓋。包まれる安心感はありながら、光を通し、どこともいえない狭間にいる気分に。
また、建物の中にもかかわらず、緑が豊かなのも特徴。
「部屋だけでなく廊下にも植栽をたくさん置いています。兜町は公園もないし、グレーで無機質なイメージ。だからこそ、中に入ったときに驚きが生まれます。人が感性を揺さぶられる瞬間って、ギャップやコントラストに気づいたときだと思うんです。外は無味乾燥としているのに、一歩、建物に入ると緑に溢れている。そのギャップが感動を呼び、特別な記憶となります」
建物内なのに自然を感じさせる。そこにもまた、内なのか外なのか、錯覚してしまいそうなあいまいさが演出されています。
日本を新解釈したアイデアは、素材にも生かされています。建具には襖をイメージした杉材を。ベッドの天蓋には藍染が施されています。そして、廊下の窓にはカラーフィルムを貼ったすりガラスを設置。
「日本のクラフトマンの技術もあちこちに取り入れています。すりガラスは伝統技術を生かす、という意味もあるのですが、実は窓の外に首都高が通っているんです。夜になると色のついたすりガラスごしに車の赤いテールランプが光って、とても幻想的になります。そばに高速道路があると普通は隠してしまいがち。でもCKRは首都高の良さを光で表わし、ネガティブなこともポジティブに変換。それを日本の素材を使って表現しています」
家具にも日本ならではの意匠が使われています。ラグは畳をイメージ。ひとり掛けソファは折り紙を模し、長ソファの脚には竹が使われています。提灯のような照明は、CKRいわくお米の形とのこと。
さらに、赤い照明に照らされるバスルームもユニーク。
「ジャパニーズフラッグの赤い部分が照明になっています。もちろん、普通の照明にも切り替えられますが、CKR独特の遊び心でもあります」
築100年のビルの改装をするにあたり、古い材料や雰囲気を生かすというのもコンセプトの一つでした。象徴的なのが廊下やバスルームに使われているテラコッタのタイル。
「もともとあった素材も踏襲したいということで、張り直しました。一部割れてしまったものもあるのですが、金継ぎをして使っています」
さらに、これまでの100年に加えて、この先の100年を見据えたデザインも多用されています。例えば部屋の入り口のドアは銅製。しかも、最初からキズがあるものを使っているそう。
「経年変化をすることで100年後も魅力的であって欲しい思いを込めています。キズさえも世界観の一つとして、次世代につないでいく。杉もそうですが、銅や真鍮といった味が出る無垢材を多く使っています」
その考え方は、自分の家を作る際のアイデアにもなります。生活をしていると、どうしてもキズや汚れはついていくもの。それをマイナスではなくプラスに捉える。ノイズさえも美しいと思える素材選びは、これからの住まいを思考するキーポイントとなりそうです。
Photography/中野理 Text/三宅和歌子