MIYOSHI RUG (三好敷物)
「アートやファッションを通じて伝統工芸を守る」をコンセプトに掲げ、徳島県三好市の工場で熟練の職人が1点ずつ手作業でラグを制作するラグブランド。
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CREATORS PROJECTでの対談をきっかけにスタートしたNIHON NOIE PROJECT。
日本が大切にしてきた“和”の魅力をノスタルジックにでなく、現代に合わせて自由に解釈して表現する、「新しい“和”」。NIHON NOIE PROJECTでは、「モノ」や「ヒト」「コト」を通じて、日本各地にある「新しい“和”」を見つけ、暮らしの中に“和”を取り入れるアイデアを紹介していきます。
徳島県三好市は、四国のほぼ中央に位置しています。西は愛媛県、南は高知県、北は香川県に接し、四国を代表する河川、吉野川や中国山地の山々に囲まれた自然豊かな場所です。
そんな場所に、多くのインテリア好きの注目を集めるラグブランドMIYOSHI RUGの工場があります。
「ギュルギュルギュル」と糸を刺繍する音が鳴り響く工場に足を踏み入れると、そこには大量の糸と製作中ラグが。
徳島県内には、数十社もラグを扱う業種の工場があったそうですが、今は3社しか残っていないそうです。
多くの工場がそうだったように、この工場も高齢化や職人不足でもともとは閉業する予定でした。ただ、この製法でラグをつくっている貴重な工場がなくなるのはもったいないということから、前のオーナーと相談し引き継ぐかたちでMIYOSHI RUGがスタートしました。
MIYOSHI RUGの特徴はなんと言っても、この高いデザイン性や鮮やかな色使いにあります。全自動でラグが作れる機械もあるそうですが、MIYOSHI RUGは職人によって一点一点ハンドメイド。そのため、色のグラデーションや形状など、細かいデザインを具現化できる、手仕事ならではの技術力を感じます。
「アートやファッションを通じて伝統工芸を守る」というコンセプト通りに、現代の感性で伝統工芸をアップデートするMIYOSHI RUG。そもそも、どのようにしてラグはできるのでしょうか?
そもそもMIYOSHI RUGはタフティングという製法を用いて、ラグを製造しています。
タフティングは、敷物の製造方法として昔からありましたが、海外のアーティストによるSNSの発信などを通じて国内外で注目度も上がっています。 ラグができるまで、大きく3つの工程に分かれます。まずは、下準備から。
レトロなこの機械は、糸巻きをする機械。染色されて納品された糸を、タフティングガンで刺繍する時に絡まらないように下準備をします。ちなみにMIYOSHI RUGでは、80色ほどの糸をつかっているそう。
こちらは、大きな木枠に布を貼ったラグのベース。ラグのデザインを墨で下絵を描き、刺繍を施していきます。これで、下準備が完了。次からいよいよ刺繍になります。
この手持ちミシンのような工具がタフティングガン。糸巻きした糸を5本セットして、刺繍を施していきます。まさにキャンバスに絵を描くように打ち込まれる糸。デザイン性の高いラグもこうした手描きのように糸を刺繍することで再現することができます。 大きいラグを作る際には、およそ7キロを程の糸を使い刺繍をしていくそうです。
こうして刺繍されたラグは、のり付けや表面などを整える仕上げの工程を経て出来上がります。全体を通じてオートマッチな工程はなく、全て手作業でつくられているのは驚きです。
このように手間ひまをかけたアイテムのクオリティの高さから、アパレルブランドやアーティストとのコラボレーションの声がけも多いそう。
オリジナル商品の販売は抽選販売になることからも、その人気はうかがえます。
2年ほど前、工場を引き継いだ当初は2人しかスタッフがいなかったそうですが、今やスタッフは9名に。そのほとんどがMIYOSHI RUGで働きたいと移住をしてきた若い世代のスタッフです。
尾崎さんも移住してきたその一人。
「SNSで海外の人がタフティングをやっているのを見て、その流れで調べていたらMIYOSHI RUGを知ったんです。香川県に住んでいたんですが、徳島県に工場があるということで、ぜひやらせてくださいと話したのが働くきっかけでした」
もともと、ものづくりに興味があり、タフティングの自由度の高さに惹かれたそうです。
こちらは尾崎さんの春画やタトゥーをモチーフにしたラグの作品。
MIYOSHI RUGでは、業務内容とは別に若い世代が個人の作品を作れるようサポートも。定時後や土日にアーティストとして活動できるように糸や材料を使ってもらえる環境を整えられています。
尾崎さんは、すでに20~30点ほどの作品ができていて、今後個展も予定をしているそうです。
この畳をモチーフにしたラグは、新卒でMIYOSHI RUGに入社した永井さんの作品。
家のインテリアとして、日常に溶け込むことイメージしているそうです。
永井さんもMIYOSHI RUGと出合った経緯は、Instagramだったそう。働きたいと思いメールを送り、東京での1年間インターンを経験し、卒業のタイミングでこちらに移住してきました。
SNSを通じてというカジュアルな出合い方ながら、移住までしてこのタフティングの技術を継承する熱量が高い若い世代。そんな若い世代の感性が、アートやファッションを通じて伝統工芸を次世代へ繋いでくれる。MIYOSHI RUGの今後がますます楽しみになりそうです。
Photography/宮前一喜