古物の“レスキュー”を通じて、地域や人との関係性を編んでいく。
ReBuilding Center JAPANの空間のアイデア
近年、フラワーショップやベーカリー、カフェなど感性豊かな個人店が増えている長野県・諏訪。このエリアで注目を集める、古材と古道具を扱う建築建材のリサイクルショップがReBuilding Center JAPAN(以下、リビセン)です。
多くの人が訪れ、行き場を失ってしまった古物が次の使い手に渡っていく……そんな光景が日々広がるリビセンで、空間づくりのアイデアを聞きました。
“レスキュー”された古材や古道具を次世代に繋ぐ空間
上諏訪駅から徒歩10分ほど。3階建てのビルには、長野・山梨エリアを中心に各地で解体される建物から引き取った古材や古道具がずらり。ReBuilding Center JAPAN(以下、リビセン)では、こうした解体される建物から、まだ使えそうなアイテムを引き取ることを“レスキュー”と呼んでいます。
「次の世代に繋げたいと思えるものかどうか。それが、私たちがレスキューするアイテムの基準です」
そう話すのは、リビセンの東野華南子さん。
「たとえばプラスチックも、正しく使っていれば100年以上持つ素材なんです。だから『この素材は扱わない』と決めつけず、『このアイテムだったら、きっとほしい人がいる』と思えるものをレスキューしています」
2016年にオープンしたリビセン。東野さんがパートナーの唯史さんと空間デザインユニット「medicala(メヂカラ)」として活動している中で、アメリカ・ポートランドで人気を集める古材ショップ『ReBuilding Center』に出会い、名前とロゴの使用の許可を受け、日本版として開業しました。
「オープン当初に来てくれるお客さんは、元々私たちを応援してくれていた人たちや、本国・ポートランドの『ReBuilding Center』のファンの方たちがほとんどでした。今は、そうした方々に加え、古いものに価値を見出してくれる方や、私たちのビジネスモデルに共感してくれる方、諏訪エリアの雰囲気に興味を持っている方、さらに地域の家族連れなど、幅広い方が訪れてくれるようになりました」
お店を訪れると、古材の釘抜きや古道具の陳列などリビセンの活動を体験する「リビセンサポーターズ」と呼ばれる方や、県内外から来るお客様で賑わっている光景が広がっています。多くの人に愛されるリビセン。この空間には、どんなアイデアが詰まっているのでしょうか。
IDEA1:その時々で必要な機能を、空間に付与し続ける
「自分たちが仕事や暮らしを営むエリアに、どんな機能があればより心地よくなるかをいつも考えています」と、話す東野さん。毎年1回は、建物のどこかを改装しているそう。
2023年には、1階フロアのカフェをリニューアル。キッズスペースを設けたほか、ベビーカーや車椅子を使う方でも使いやすいように段差を緩やかにしたり、大きな引き戸を設けたりしました。
「諏訪エリアは、素敵な個人店が増えていて街歩きも楽しいけれど、子ども連れだと『どこでおむつを換えよう』『ベビーカーでもご飯を食べられるお店ってどこだろう』といったことをどうしても気にしてしまうんですよね。そうしたストレスを感じないように、必要な空間をリビセンが提供しようと考えました」
さらに2025年1月には、古材売り場の改装を計画中とのこと。リペアルームを設けるほか、すぐに空間に取り入れられるように加工した古材を販売するのだといいます。
「古材を購入しても、工具を持っていなかったり、作業場がない人もたくさんいます。だから、私たちがそれらを提供する。あと古材を手に取っても、どんなアイテムをつくればいいかわからない人には、簡単に削ったり、取り付けるだけで手軽にかたちにできるものを販売する。そうした環境をつくっていこうと考えています」
その時々で「あったらいいな」と思える機能を、空間に付与し続ける。完成形を定めず、常に更新し続けることを前提とした考え方は、家づくりでも応用できそうです。
IDEA2:パッチワーク状に組むなど、古材を遊び心をもって楽しむ
「古材の楽しみ方の幅を提案することが、この空間の目的のひとつなんです」
そう東野さんが話すように、リビセンの什器には、無骨な印象の古材だけではなく、製材によって明るい表情を持たせた古材も多く使われています。
「古材というと、無骨な荒っぽいイメージを持たれがち。でも、表面を削ることで明るくてきれいな印象になるんです。この空間を通じて、多くの人が古材に抱いている先入観を解きたかったし、もっと古材には表現の可能性があるということを伝えたいと思いました」
明るい印象の古材を空間全体で採用しつつ、1階の奥には無骨な印象の古材をパッチワーク状に組み合わせた遊び心のある壁を採用しているのも、こだわったポイント。明るくて綺麗な印象の古材と、無骨で荒っぽい古材。同じ素材でも、手の加え方で表情が異なるという古材ならではの魅力を感じるデザインとなってます。
IDEA3:関係性の深いショップのデザインを反映する
古材や古道具の販売だけでなく、ショップの空間デザインも手掛けているリビセン。1階のカフェ空間では、自らデザインを手掛けたショップのディティールをさまざまな箇所で踏襲しています。
「たとえば、このキッチン棚は同じ諏訪エリアにある『あゆみ食堂』のデザイン、カーブを描くカウンターは名古屋にある『EARLYBIRDS BREAKFAST』のデザインなんです」
こうした工夫は、リビセンと関係性の深いショップを紹介するきっかけをつくるためだといいます。
「私たちが関わらせてもらったお店を紹介するコミュニケーションツールとして、これらのディティールは機能します。『この棚は近くのあゆみ食堂にもあるからぜひ見てみてください』『このカウンターのデザインは名古屋のEARLYBIRDS BREAKFASTのものなんです』といったように、リビセンをきっかけに私たちと関係性のあるショップを知ってもらえたらと考えているんです」
このアイデアを家づくりで応用する場合、インテリアであれば関係性の深いショップのアイテムを手軽に取り入れやすいでしょう。