後藤かおりさん・後藤浩也さん
2010年からキャンプをはじめ、キャンプの写真を中心に投稿しているInstagramアカウントはフォロワー約2万人。中古の二階建て一軒家をリノベーションし、夫婦で愛犬とともに暮らしている。
家づくりの経験談をインタビューし、その内容を紐解きながら、家づくりのアイデアとして参考にしていこうという連載「家づくりの方程式」。
今回登場してもらうのは、Instagramで投稿しているオシャレなキャンプ写真が人気の後藤かおりさんと後藤浩也さんです。「最初から完成している新築よりも、中古の物件を自分たちの手でリノベーションするほうが楽しめるんじゃないかと思ったんです」という後藤さん夫妻。特に専門知識はなかったというおふたりですが、業者さんと相談しながら少しずつ理想の住まいを作っていったそうです。
アウトドア好きなおふたりのアクティブで自由な考え方には、家づくりそのものを楽しむヒントがたくさん隠されていました。
夫婦で年間50泊以上もキャンプを楽しんでいるという後藤かおりさん。子どもの頃から自分の部屋の壁を塗ったり、拾ってきた流木を飾りつけたりと、根っからのDIY好きだったそう。「雑誌の『Olive』や『an・an』のインテリア特集もよく読んでました」といいます。
そんな後藤さんの家づくりの方程式は「一軒家リノベーション×DIY×アウトドア」。築40年の中古の一軒家を購入し、自分たちの好きな床材や壁紙、そしてお気に入りのヴィンテージ英国家具を揃えました。もちろん、たくさんのキャンプ道具を綺麗に収納できるスペースがあることも後藤さん宅に欠かせないポイント。キャンプ好き夫婦のこだわりが詰まった家を紐解いていきましょう。
「以前も中古の住宅をリノベーションして夫婦で住んでいたのですが、母親と一緒に住むことになり、もっと広めの一軒家がいいなと思って。ふたりとも平日は電車で通勤するので、駅から遠くないエリアで探しました。建物付きの土地を購入したのですが、物件も思ったより綺麗で、建て替えずにリノベーションすることにしたんです」
後藤さん宅の明るい雰囲気をつくるのは、大きな窓から心地よい光が差し込む、広々としたダイニングとリビング。プランニングから施工までを一貫して行う業者と相談しながら、まずは家の1階部分をすべてスケルトンの状態にして、家づくりを進めたそうです。
「もともと1階はリビングと押し入れのある和室に分かれていました。まずは全部の壁を取り払って、そこからいろんなレイアウトや動線を考えました」
リノベーション業者や大工さんとは、理想の家のイメージを共有することを大事にしたそう。インテリア雑誌やInstagram、PintarestなどのSNSでイメージに合う写真を探すことから家づくりをスタートしました。
「基礎や耐震構造など専門的な部分は大工さんに任せて、レイアウトやデザインはリノベーション業者の方にイメージを見せながらかなり細かく相談しました。とはいえ、あまり最初の段階でプランを固めすぎずに、住みながら自分たちでDIYができる余白も残すようにしたんです」
間取りを考えるうえで欠かせなかったのが、対面型のキッチン。
「以前からずっと対面型のキッチンに憧れていたので、間取りはキッチンを中心に決めたんです。コンロや換気扇、水道などの細かい部分は夫が全部考えてくれました。うちのキッチン担当は夫なので」
キッチン周りは主にホームセンターなどで資材を調達した一方で、リビングはヴィンテージの英国家具にこだわったといいます。
「大好きなヴィンテージの英国家具を置ける広い空間があることも、家づくり基準にしていました。以前からG-PLANの家具に憧れていたのですが、前の家では置く場所がなくて。お気に入りの家具から空間づくりを考えるのも楽しかったです」。
リビングの横には、開放感あふれるウッドデッキと芝生の庭。今も少しずつ手入れをしている最中なのだそう。
「前の家は駐車場とちょっとした庭しかなかったので、植物を育てたりテントを干したりできる広い庭があったこともこの家を選んだポイントでした。庭を楽しめるウッドデッキをつけて、たまにここでごはんを食べたり、庭にテントを張ったりして楽しんでいます」
リノベーション業者による施工は、2か月半ほどの期間でほぼ完了。その後、壁や床などは、友人たちの手も借りながら、自分たちの手で作っていったそうです。
根っからのDIY好きとはいえ、建築の専門知識があるわけではなかったといいますがどうやって家づくりを進めていったのでしょうか?
「床材はホームセンターで好きなものを選んで、家に合うサイズに切ってもらいました。壁材も友達に協力してもらいながら漆喰を塗ったりして、満足いく仕上がりになりましたね。そのほかにも壁に大好きなアーティストの作品を飾ったり、壁に絵を描いてもらったりと、細かい部分までこだわりました」
後藤家の中心になっているキッチンにも、自作の食器棚が。黒板風の壁紙に白い棚板がよく映えます。「もともと出窓だった部分のサイズに合わせて、ホームセンターで資材を調達して作りました。後ろの窓から自然光が入るのも気に入っています。業者さんに任せる部分と自分たちでこだわりたい部分のメリハリをつけるのも大事ですね」
自分たちでできるところはDIYをして、形になっていった夫婦ふたりのアイデアが詰まった家。モノがたくさんあるにもかかわらず、不思議と統一感のある落ち着いた空間に仕上がっています。
「植物を飾るために新しく柱を入れたり、趣味のレコード棚を作ったり……。週末はアウトドアを全力で楽しんでいるぶん、家の中までキャンプの雰囲気にならないように気をつけながら、好きなものでいっぱいの家を作っていきました。お気に入りの植物や家具とのバランスも取って、自分たちが落ち着いて過ごせる空間にしたかったんです。まだまだ完成はしていないので、これからも少しずつDIYしながら家づくりを楽しんでいきたいですね」
後藤さん宅にはさまざまな場所に、アウトドア用品が美しく収納されています。収納スペースはきちんと確保しながらも、家全体の雰囲気は意外にもキャンプ感がありません。ここには、後藤さん夫婦ならではのこだわりが隠されているようです。
もともと夫婦共通の趣味は、アウトドアではなく音楽。しかし、2010年ごろに雑誌「GO OUT」がきっかけでキャンプに興味を持ち、ゼロからふたりでキャンプ道具を揃えたんだとか。
「コロナ禍で回数は減りましたが、多いときは月に4回以上はキャンプに行っていました。夫婦ふたりで行くことはあまりなくて、お互いの友達や職場の仲間を誘ってみんなで楽しむのが好きなんです」
玄関横にある4.5畳ほどの小部屋をキャンプ道具専用の収納部屋にリノベーション。30種類以上あるというテントのほか、ランタンや防寒具などが綺麗に収納されています。
玄関の近くにキャンプ道具を納められる構造だったことも、この物件を選んだ理由だったといいますが、意外にもアウトドアの雰囲気が強いのは後藤家でこのスペースのみ。年間約50回もキャンプに出かける後藤さんですが、趣味と家の空間に対して、このような思いを持っているといいます。
「あくまでアウトドアは非日常の趣味なので、家の中では日常と非日常を切り分けられる間取りを考えました。家でもキャンプしてたら疲れちゃうので、日常は日常として快適に過ごせる環境にしたかったんです」
後藤さんの「非日常」のために揃えられたキャンプ道具がDIYで作った納戸の棚にぎっしり。リノベーションを始めた当初は現在とは違う向きに棚をつけていたそうですが、なかなか収納がうまくいかず、試行錯誤しながら作り直したのだとか。
「最初は雑誌に登場するオシャレなキャンパーの方や、Instagramの写真をマネしながら道具を集めていきました。家具もそうですが、キャンプ道具もヴィンテージ物が好きになり、ノースフェイスなどのアウトドアブランドも揃えています」
もう1箇所、後藤さん宅でキャンプ道具が並ぶ場所があります。こちらもやはりDIYで作った、キッチン横の収納棚。自然と増えたというキャンプ用の調理道具が白い棚に納められ、ここから繋がるリビングの雰囲気を邪魔しない雰囲気に仕上がっています。
「ホームセンターで買った木材で、スペースに合わせて棚を作りました。好みのサイズに合わせて作れるのもDIYのいいところですよね」
後藤さん宅の方程式「一軒家リノベ」×「余白のあるDIY」×「アウトドア&音楽好き」から見えてきたものは、家づくり自体を楽しむためのアクティブでライブ感のあるスタンスでした。
「キャンプもゼロからレイアウトを決めるのが面白いし、そういう意味ではリノベーションと共通する部分があるかもしれません。自分たちで壁を塗ったり、床材を貼ったりするのも家づくりの醍醐味。この家はこれからもどんどん変わっていくと思います」。スタンスは熱中しているキャンプに学ぶ。でも家のディテールはきちんと自分たちの「日常」を意識しつつ、音楽に乗るような余白も残す。そんな「好きのいいとこ取り」の家づくりを学ぶことができました。
2010年からキャンプをはじめ、キャンプの写真を中心に投稿しているInstagramアカウントはフォロワー約2万人。中古の二階建て一軒家をリノベーションし、夫婦で愛犬とともに暮らしている。
Photography/上原未嗣 Text/ 山本大樹 Illustration/谷水佑凪(Roaster)