竹内優介さん
インテリアスタイリスト。1993年東京都生まれ。株式会社Laboratoryy所属。大学時代より、インテリアスタイリスト黒田美津子氏に師事する。雑誌や広告などの幅広い現場で活動中。
雑誌や広告、モデルルームや展示会場のスタイリングなど、幅広い現場で活躍するインテリアスタイリストの竹内優介さん。初めての一人暮らしという家は、都心のワンルームをセルフリノベーションしたもの。時間をかけて、自分仕様につくり上げた、モダンでクリーンな空間です。
決して広すぎはしない空間なのに、窮屈さや生活感とは無縁で、伸びやかささえ感じられるのはなぜ? プロならではの「隠す」と「見せる」のバランス感覚など空間の随所に、素敵な家づくりのアイデアが見つかります。
ぴりっと背筋が伸びるギャラリーのような、それでいてくつろげるプライベートサロンのような。 初めて竹内さんのお宅を訪れると、そこが約40㎡のワンルームだということに驚くはず。ひとつながりの空間なのに、きれいに整えられたベッド以外には生活感のあるものがすぐには目に入らず、グレーと白で統一された中にオレンジの小物がアクセントを添えています。
以前はオフィスだったというこの部屋は、竹内さんがセルフリノベでコツコツと仕上げたもの。ニュートラルでモダンで、クリーンな空間は、どんな方法でつくり上げていったのでしょうか。
オンラインショップ選びからDIYの過程まで、インテリアスタイリストならではの視点を教えていただきました。竹内さんの家から等身大で、真似したくなる家づくりの秘密を紐解きます。
4年前に一人暮らしを決めた竹内さんが「20くらいの検索サイトを駆使して」探し当てたのは、職場にも近い都心に建つ、築45年を超えるマンションの一室。引越し時には大量のベニヤ板や木材を運び込み、半年近くかけて理想の部屋をつくっていきました。
建築を学んでいた大学在学中から、人気インテリアスタイリストの黒田美津子さんに師事し、現在は黒田さんが主宰する〈Laboratoryy〉に所属する竹内優介さん。職場へ自転車で行ける距離に建つこのマンションは、ほぼ一目惚れだったといいます。
「僕が住む前はオフィスで、天井や壁などがコンクリートむき出しだったのがこの物件を選んだ理由のひとつです。賃貸物件に多いビニールのフローリングや壁紙、木目調のシートといった仕上げは嫌だったので。コンクリートで荒々しいくらいが好みだったし、空間の自由度が高いなと思いました」
ただし、元の状態のままでは住空間としては荒々しすぎたため、賃貸でできる範囲のリノベーションが大前提の引っ越しだったそう。おおよそのイメージだけを決めて入居し、そこからコツコツとセルフリノベを重ねて理想に近づけてきたと言います。
「ベニヤや石膏ボードを20~30枚くらい運び入れ、段差をつけてベッド下の床を貼り、壁を貼り……。実家と行き来しながら、半年くらいかけて作りました。」
元々床に貼られていた、いかにもオフィス仕様のタイルカーペットは剥がして、高さを上げて新設したベッド周りの床下に。そうして出来上がった空間全体を、グレーがかった白で塗り上げて、住まいの下地を完成させました。
「白っぽい、ギャラリーのような空間なら、どんなテイストの家具でもマッチする。僕は職業柄いろんな家具に触れますし、まだ若いうちは特に、いろんなものに触れたいという気持ちが強いんです。だから容れ物はニュートラルな空間がいいなあと。ただし純白だとハレーションを起こして眩しすぎます(笑)。白にグレーを入れて色を調整しています」
ギャラリーやショップを思わせる、白を基調とした空間が出来上がってからも、竹内さんの部屋づくりは続きます。使いやすい収納をつくったり、隠すべきところを隠したり、それぞれの場所を使いやすいように工夫したり……。多くの家具が、竹内さんのアイデアとセンスが光るセルフリノベによるものです。
ワンルームなのに生活感を感じさせない大きな理由が、キッチンや収納など、生活感が出る要素を大胆に隠していること。自然光を柔らかに通す、丈の長いカーテンを開くと、そこにキッチンや、リビングまわりの収納棚が現れるのです。
「マグカップひとつ見ても、仕事のことを思い出しちゃうんですよね。家でモノを見るとなかなか落ち着かない。だから、なるべくモノが目に入らない方がいいなあと。そこで天井の梁部分に6.2mの長さのカーテンレールを設置して、床まで届くカーテンをつけました」
目隠しを兼ねる大きなカーテンは、白いコットンを2枚重ねしたもの。仕事でもお世話になっているという専門店にオーダー。
ベッドを置いた空間とリビング空間を緩やかに仕切る棚もまた、竹内さんの部屋の個性のひとつ。これもDIYでつくったそう。DIY自体はこの家に住むようになって初めて手がけたと言いますが、その腕前には驚くばかりです。
「DIYはやっぱり、サイズや細かな仕様まで自分で自由に決められるのがいい。既製品だと、自分にとっては必要ない飾りがついていたり、ちょっとだけサイズが合わなかったりするので……。東急ハンズなどDIYショップの方は本当に知識が豊富だし、いろんな相談にも乗ってくださるので頼りにしています」
ベッドの向かいにあった押入れの収納も同じくDIY。上段では縦方向にハンガーパイプを設置し、下段では幅がぴったりと合う棚を自作して、最大限の収納力を確保しています。
自分で図面を描いて構想し、それを形にすることを、肩肘はらず自分のペースで楽しんでいる、そんな印象です。
シンプル&ニュートラルな空間に、DIYの家具や什器を入れた竹内さんの家づくり。その空間に合う家具を手作りして、コーナーごとのディスプレイまで隙なく決まっているのは、建築のバックグラウンドを持つスタイリストならではのこだわりです。
なかでも、中央の棚に置かれたヴィンテージのレコードプレイヤーは、竹内さんにとっての原点のひとつとも言える存在なんだとか。
「ブラウン社の《SK-55》というプレイヤーで、ディーター・ラムスという、20世紀なかばに活躍したドイツ人デザイナーによる名作なんです。ミニマムなデザインだけど優雅な美しさもあり、合理的かつ機能的。機能に基づいてデザインを導き出したモノには惹かれます。僕がDIYに工事現場用のパイプなどのパーツを使うのも、そういう影響があるのかもしれません」
機能だけ、デザインだけに走らず、両立させる。ソファ前に置かれた自作のローテーブルや、ガス管パイプを天井からワイヤーで吊っただけのコートハンガーなど、竹内さんのDIYにとって“機能美”は大きなポイントになっているのが分かります。
「DIY用の資材は、ネットで買うことも多いんです。本来の用途に縛られず、違う視点でモノを見ると、家での違う用途を見つけられたりします」
隠す収納の巧みさの一方で、枕元に設えたコーナーや、玄関脇の棚上など、随所のディスプレイ=見せる収納にふっと目がいくことも、竹内さんの家の魅力。上手く見せるためのコツはあるのでしょうか?
「置くモノの高さの違いは意識するかもしれないです。ちょっとリズムをつけるというか……。好きなモノは人それぞれだと思うし、何を置くかは自由ですが、ただ等間隔に並べるよりは、ランダムさを意識します。あとは師匠に『竹内君はホントにモノトーンが好きだなあ』と言われるので、ちょっと反発してオレンジのアクセントを取り入れています(笑)」
インテリアを楽しむなら「服と同じような感覚でいい」と竹内さん。
「ファッションにカテゴリーがあるように、インテリアにもクラシック、モダン、コンテンポラリーといった属性があります。それを意識させることなくミックスするのが僕らの仕事なんですよね。真似するのは簡単ではないかもしれないけど、服と一緒で色数を絞るとか、素材で変化をつけるといったコツはあるかもしれません」
40㎡と決して広すぎはしない空間を、妥協せずにセルフリノベでつくった家。日常的に多くのデザインやインテリアに触れるスタイリストならではのセンスが随所に生きているのはもちろん、そのリノベの手法は、すぐに取り入れたくなるアイデアや、新しい視点の宝庫です。住み始めてから3年が経って「やっとDIYは落ち着いたかな?」という竹内さんですが「モノが増えてきたから棚をつくってもいいかな……」とアイデアは尽きない様子。
服を着替えるように、身軽に、臨機応変にインテリアを変えていく竹内さん。自分の家に向き合うそんな姿勢そのものに、インスピレーションをもらえるような気がします。
インテリアスタイリスト。1993年東京都生まれ。株式会社Laboratoryy所属。大学時代より、インテリアスタイリスト黒田美津子氏に師事する。雑誌や広告などの幅広い現場で活動中。
Photography/上原未嗣 Text/ 阿久根佐和子(GINGRICH) Illustration/谷水佑凪(Roaster)