後藤優子さん
カフェ運営会社勤務。20年以上、カフェ運営に関わり、豊富な知識を持つ。趣味は買い物と料理。食器もいろいろ取り揃えている。
都心を中心に引っ越しを繰り返していた後藤優子さんが、自分の城を構えたのは2021年頃。江東区の中古マンションを、元同僚の建築家と一緒に自分好みのスタイルにリノベーションしました。そのプランはなかなか大胆。3LDKをワンルームにして、半分のスペースをクローゼットにするというものでした。後藤さんならではの独特なスタイルを完成させた、家づくりの方程式を紐解いていきます。
亀戸駅と錦糸町駅の中間に位置する中古マンションは、内見を繰り返し、建築家とともに1年かけて探した物件。このマンションに決めた一番の理由は、その眺望だったと言います。
「設計を依頼したknofの菊嶋かおりさんから、内装はどうとでも変えられる。でも、窓からの風景は変えられないと言われていて。この部屋を見た瞬間、眺望の抜けの良さに感激。即決でした」と、後藤さん。
そこからリノベーションプランを計画し、7か月後には入居。その間取りは、部屋の半分がクローゼット、残り半分がキッチン&ダイニング、リビング、寝室も兼ねるというユニークなものでした。
「自分が暮らしやすいプランにしたかったので、新築ではなく、中古をリノベーションする前提で物件を探しました。ここを購入しようと思ったのは眺望の良さもありますが、管理もきちんとしていたからです」
※中古マンションでは、管理組合がしっかりしているかというのも大事なポイント。修繕計画があるか、共有部分は清潔に保たれているかなど、事前チェックは大切です。
総床面積約52㎡の部屋は、リノベーション前は3LDKに細かく分かれていたそう。そこを広いワンルームになるように作り替え。
「抜けのいい空間にしたいというのは、物件探しをしている時からの要望だったので、ワンルームにすることには何の抵抗もありませんでした。ワンルームですが、玄関側とベランダ側の間にブラウンのガラスの引き戸をつけたので、そこを閉めれば空間を仕切れます。ふだんは開け放して使っていますが、2つの空間でインテリアの雰囲気が異なるので、居る場所によって気分も変わってきます」
程よく透け感のあるガラス戸を設置することで、全体の開放感を確保し、それぞれの用途に応じてゆるやかにゾーニングする。それはオーダーメイドともいえるリノベーションだからこそできる、空間作りのアイデアです。
この家の最大の特徴ともいえるのが、玄関を入ってすぐの空間がクローゼットになっていること。まるでショップのように洋服がずらりと並んでいます。
「洋服が好きでけっこうたくさん持っているので、大きなウォークインクローゼットが欲しいという要望は出していました。リビングの壁際一面をオープンクローゼットにするという案もあったのですが、最終的には玄関側の空間を丸々クローゼットルームにすることに。そのアイデアには驚きましたが、実際にやってみたら使い心地は抜群です」
この部屋のベースカラーは深いブラウン。既存利用した水回りの壁と扉にはモコモコとした木のリブ材を張り、その上にベンガラで塗装。全体的にシックでモダンなイメージに仕上がっています。
「洋服をかけるバーは高さ違いで3本あります。ジーンズやトレーナー、Tシャツなどは畳んで壁につけた棚に収納。ここにほとんどの洋服が収まっているので、一目でどこに何があるかわかります。以前は奥にしまい込んで着ていなかった服もありましたが、このスタイルにしたことで、ほぼすべての服を活用できるように。毎日の服選びが楽しくなりました」
床はざっくりとした編みのカーペット敷き。
「足触りがよくて、座っても気持ちいい。引っ越した当初はよくクローゼットスペースに座って、好きな洋服を愛でながらお酒を飲んでいました」
靴も玄関から続く土間にラックが設置され、見えるように配置。
洗面台もあり、メイクもここで。つまり、身繕いはすべてここで完結。“洋服が好き”という後藤さんの好みを最大限に生かした空間になっています。
クローゼットルームからガラス戸を隔てて奥に入ると、まず目を引くのが大きなタイル張りのキッチン。ムードが一変して、明るくナチュラルな雰囲気でまとめられています。
キッチンカウンターは全長2700mm。タイル張りの大きな天板がかわいいこのカウンターがダイニングとデスクを兼ねているので、テーブルを置く必要はないのだとか。調理道具や食器、電子レンジなど家電はすべて奥の棚やシンク下に収納。すっきりとしたしつらえは、カフェにいるような感覚にさせてくれます。
食器などが収納されているキッチン奥壁際の棚の扉には、ハードボードという木と紙を砕いて固めた素材を使用しているそう。建材として使うにはちょっと珍しい素材ながら、布のような質感があり、部屋に柔らかな雰囲気を与えています。
キッチンカウンターのサイドは木粉を固めたMDFに柿渋を塗装したものに。さらに、壁は美術館などに使われるペンキ下地用のクロスを、敢えて無塗装で張り、下地のコンクリートが薄く透けるような仕上がりに。
「障子紙のような薄い半透明のクロスなので、コンクリートが透けてちょっとしたムラができるんです。素材は建築家が提案してくれたものですが、あまり他の家では使われないニュアンスのあるものが多くて、そこも気に入っています」
キッチンの反対側の壁際にはソファが置かれ、ここがリビングに。そのソファの横に高さ1200mmの間仕切りがあり、その先の窓際にベッドを設置しています。つまりキッチン、リビング、ベッドルームという生活に必要な機能がひとつの空間に収められているのです。
「最初、寝室はひと部屋にするつもりでした。でも、壁に囲われるのは嫌で、壁に小窓をつけてリビングやキッチンが見える抜け感のあるようにしたかったんです。ただ、間仕切りだけのプランを見せてもらううちに、部屋にしなくても問題ないな、と思うようになって。実際に今のスタイルがとても気持ちが良く、ベッドに寝転んだ先にスカイツリーが見えて、この位置に持ってきたのも正解でした」
モダンなのもナチュラルな雰囲気も好きだという後藤さん。インスタグラムなどで好きなテイストのインテリア画像を保存し、建築家に相談したそう。それにより、ホテルのようなモダンなクローゼットルームと、カフェのようなナチュラルな生活スペースが生まれました。
「ひとり暮らしなので、思い切れた部分もあると思いますが、私のライフスタイルに合っていて、とても気に入っています」
洋服好きという、自分が一番好きなものを前面に出して部屋作りをした後藤さん。それにより空間を丸ごとクローゼットにするというアイデアが生まれました。また、くつろぐための空間は、明るくナチュラルな雰囲気に。2つの異なるテイストを行き来することで、生活にもメリハリが出てきます。間取りを自由に変えられるのもマンションリノベーションのいいところ。自分の“好き”を突き詰めてみる。後藤さんの方程式を紐解くと、そんなヒントにつながります。
カフェ運営会社勤務。20年以上、カフェ運営に関わり、豊富な知識を持つ。趣味は買い物と料理。食器もいろいろ取り揃えている。
Photography/上原未嗣 Text/ 三宅和歌子 Illustration/谷水佑凪(Roaster)