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DATE 2023.08.21

名建築のロジックを上手に取り入れながら、景色にも妥協しない家づくり術

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一度見たら憧れる、おしゃれでこだわりが詰まった家。でも、「そんな家ってどうやったらつくれるんだろう」「建築のプロじゃないとつくれないのでは」と感じている人もいるのでは。“あの人の家づくり手帖”は、個性的な家をかたちにした経験者から具体的な家づくりアイデアを伺う企画です。

今回登場いただくのは、自然豊かな鎌倉エリアに暮らす増山大輔さん。家づくりはもちろん、理想の土地探しにも妥協なく、住まいの姿も暮らしの快適さも、さらには理想の眺めまでをも実現させた、こだわりの家づくりに迫ります。

名建築の要素も躊躇なく。
この家は、自力で集めてきた理想の集大成。

増山さんの住まいが建つのは、鎌倉エリアの小高い山の上。リビングの大開口から望む景色が物語るとおり、土地探しに4年もの歳月を費やしたといいます。

「海に近く、眺めが良く、駐車スペースも確保できる。人気のエリアとあって、これだけの条件を満たす土地を見つけるのは至難の業。不動産屋さんだけに頼らず、良さそうな土地はないか、この辺りを何度もバイクで巡りました。今ではいい思い出です」

そこで、増山さんが駆使したのがGoogleマップ。マップの表示を航空写真や3Dに切り替え、景色の抜けが良さそうな場所にピンを打ってはストック。実際にその場所を訪れるのと同時に、足繁く不動産屋に通っては新たな情報を仕入れていたとか。

「条件のいい土地は、1週間も待たずに売れてしまうことがほとんどです。“ここだ!”と思える場所に出合えたら、契約まではスピード勝負。僕がこの場所を即決できたのも、売り出される前に土地をチェックしていたからです」

増山さんは小学生のころから建築に興味を持ち、家や間取りを見るのが大好きだったそう。それだけに、住まいへのこだわりも人一倍。家づくりに乗り出す前から写真集や雑誌に研究文献にも目を通し、気になる建築に付箋を付けていたといいます。

「設計を依頼したのは仲のいい建築士。いわゆる巨匠の名建築も躊躇なく共有して、実現可能なことを洗い出していきました。それに家づくりの先輩たちの話もたくさん聞いて、腕のいい職人さんを紹介してもらったりもして」

借景を可能にしている大開口の窓は、日本を代表する建築家・吉村順三の建築がイメージソース。そして、ウッドを基調としたテレビボードにシャープなニュアンスをプラスしているセメント加工の天板は、知人から紹介された職人の腕があってこそ。

自身の足でベストな土地を見つけ出し、理想の建築にアンテナを張り巡らせながら多くの情報に耳を傾ける。増山さんの住まいは、その結晶です。

増山さん宅から紐解く、家づくりアイデア

家づくりアイデア①
内と外の境界線をなくす、大開口の借景。
≪キーワード≫
 #リビング #シームレスなウッドデッキ #吉村順三 #借景 #ガラス戸

増山さんが土地探しに強くこだわった理由が見て取れる、リビングの大開口。ウッドデッキの先に豊かな自然の景色が広がり、屋内と屋外がシームレスにつながります。

「これは吉村順三の建築によく見られる引き込み戸。ガラス戸すべてが戸袋に格納されるため、景色を邪魔しません。それにデッキの高さもこだわったところ。内と外の景色が違和感なくつながるように、ぎりぎりの段差を見極めています」

当初はリビングとデッキに段差を設けず、まっすぐつなげる構想もあったとか。「でも、完全にフラットにしてしまうと、雨が浸水する可能性があるんです」。その危険を回避するために数cmの段差をプラス。美しい借景と暮らしやすさを両立しています。

家づくりアイデア②
生活動線にこだわる、仕切らない空間配置。
≪キーワード≫
  #こだわりの生活動線 #水回り設備 #2階の間取り

増山さんの住まいは、ロフトを備えた吹き抜けの2階建て。広々とした開放感を叶えるために1階に個室は設けず、寝室は2階に。バスルームやトイレも2階に配置しています。

「水回りの設備って、閉鎖的な割にスペースを取りますよね。それなら、扉を付けなければいい。お風呂やトイレ、脱衣所やドライルームといった水回りを放射線状に配置して独立性を持たせつつ、扉は付けない。スペースに無駄が生じず、なおかつ快適です」

ちなみに、増山さんの趣味はサーフィン。波のいい日には仕事前にも海に繰り出すことから、おのずとシャワーや洗濯の回数も多くなります。それでも水回りの空間を1カ所に、扉を付けずに配置したことにより、効率の良さは段違いだそう。

シャワーを浴びて洗濯をして。ドライルームに服を干して。そこから服を仕舞う動線もスムーズにするため、増山さんはウォークインクローゼットも2階に配置。さらには「寝室も2階なので、お風呂から裸でも移動できます(笑)」というから脱帽です。

家づくりアイデア③
異テイストを調和させる、“3素材”の原則。
≪キーワード≫
 #白壁 #珪藻土 #オーク材の床 #真鍮の部材

白壁とウッドを基調とした増山さんの住まい。絵になるほどの統一感の一方、表情の豊かささえ感じられるのは、ひと口にウッドといっても複数の種類を取り入れ、木目のパターンも木材を張るピッチも、さまざまな要素をミックスしているから。

「ウッドの表情に変化を付けつつ、なおかつ雑多には見せない。そのために、ベースとなる3つの素材を決めています。うちの場合は、オークと珪藻土と真鍮。この3素材との相性を前提にほかのマテリアルを選べば、逸脱した印象にはなりません」

増山さんの言葉どおり、面積を多く取る床の素材はオーク、白壁は珪藻土、照明やスイッチは真鍮製。印象の土台となる要素をぶらさないからこそ、全体が美しく調和します。

もっと知りたい、増山さん宅のアイデア
外壁は、時間が経つにつれてシルバーグレーに変化していくレッドシダー。
玄関のたたきは調湿や消臭効果のある大谷石。意外にも洋風の壁とよく合います。
アーチ型の下がり壁にドアを設置し、デザイン性の高さと奥行きを同時に実現。
調理のしやすさを考慮し、キッチンは幅広かつ奥行きも深く取り、シンクを2つに。

こだわればこだわるほど、家づくりは楽しい。

「家をつくるって、めちゃくちゃ楽しい。念願の一軒家を持った今も家づくりへの想像は止まらず、実は今、庭に小屋を建てている最中です。これはもう、完全にDIYで」

鋭意製作中の小屋のみならず、家そのものも少しずつ変化しているそう。「この家を建ててから飼い始めたんです」という愛犬・コスケくんのため、オークの床をワックス塗装。無垢のままの素材との、ちょっとした表情の違いも絵になります。

屋内と屋外の境界線をなくすような大開口やデッキが開放感をもたらし、表情豊かにあしらわれたウッドが目にも心地いい、増山さんの住まい。Doliveと雑誌・OCEANSが共につくり上げた「SEAWARD HOUSE PROJECT」もまた、住む人の心地よさを第一に考えた家。

OCEANSのコンセプトである「Feel So Good, Isn’t it?(気持ちよくない?)」を軸に、エクステリアの素材は温もりあるウッド。アメリカ西海岸を彷彿とさせる平屋をベースに、大開口から外の景色を望むウッドデッキも、雑多が絵になる壁一面のラックも備え、気取りのない日常の暮らしを心地よく、それでいてモダンに彩ります。

photo/宮前一喜 text/大谷享子 illustration/kozo