中村俊哉さん、藤井愛さん
2014年に2人で「ship architecture」をスタートし、'20年には「ship architecture Inc.」を設立。住宅の建築設計を中心にインテリアや家具、照明、ショップ什器など幅広いデザインを手がける。現在、住んでいる家はアートスペースin the houseとしても開放。
2014年に2人で「ship architecture」をスタートし、'20年には「ship architecture Inc.」を設立。住宅の建築設計を中心にインテリアや家具、照明、ショップ什器など幅広いデザインを手がける。現在、住んでいる家はアートスペースin the houseとしても開放。
玄関を入ると、吹き抜けになった開放感たっぷりのワンルームが広がります。そこから階段を上がると現在はワークスペースにしている2つのユーティリティルームがあり、さらに上がると寝室と屋上があるという、3階建てのような2階建てといった不思議なつくり。そこに、建築家である中村さん&藤井さん夫妻と6歳の長男、2歳の長女、9歳になる猫が住んでいます。
実はここは夫妻が友人のために設計した家。友人から注文されたのは明るく開放的であることと、庭が見える住宅にしてほしいという2点だけ。それを踏まえて、周囲の環境とも共鳴する一軒家を作り上げました。しかし、竣工してほどなく友人家族が海外赴任となったため、中村さんたちが住まうことに。息子の友達が遊びに来たり、音楽ライブをしたりと、何かと賑やかに暮らしている家は、2人の予想通りの気持ちよさに溢れています。
ガラス扉の玄関を開けると、そのまま土間になったキッチンダイニングと、一段上がった小上がりのようなスペースにつながります。南側に大きな窓があり、抜け感は抜群。小上がりのスペースは昼寝をしたり、子どもたちの遊び場になったりと、いろいろな用途を引き受けています。
「敷地が30坪強と広くはないので、玄関があって廊下があってとスペースを割ってしまうとひとつひとつが狭くなってしまう。それはもったいないのと、なるべく明るい空間にしたいと思ったら、必然的に吹き抜けのワンルームになりました」と、中村さん。
階段を上がると中2階に。そこも吹き抜けを共有し、扉はなく床を張っただけというつくりに。
「ここは今は模型部屋とパソコンを置いたオフィスとして使っていますが、将来的には子ども部屋にしてもいい。また、カーテンレールを付けて帆布のカーテンも作りました。それを閉じれば視線を遮ることができて、ゲストルームにもなります。どこも特に役割を限定するのではなく、自由に使える空間になっているのも、この家の特徴だと思います」
家を建てるとなると、どうしても今の状況を中心に考えてしまいがちですが、家族構成も含めて暮らしは更新されていくもの。
「あまり決め込まないことも大事だと僕たちは考えています。空間だけでなく例えばキッチンの収納。ダイニングテーブル側にも収納場所があり、当初はゲストが自由にグラスやカトラリーを取れるようにと考えていたのですが、今は息子が小学生になったので、彼の持ち物入れになっています。それくらいインテリアはざっくりしていていい。それよりも土地は変えることができないので、その街に住んでいるよさを取り入れることを重視しています」
その街との関連性は、この家の“庭”にも表れています。家の周囲をぐるりと囲むような幅90cmほどの路地庭と、屋上に植物を配した屋上庭の2つのスペースにより、室内に緑の気配を取り込みながら、四季折々の植物の変化を感じることができます。
「ここは東京の下町なので路地がたくさんあるんです。なので、路地にすっと入り込む延長で庭が作れると面白いかな、と生まれたアイデアです。街の続きというか家の内と外をパキッと分けるのではなく、道路からなんとなく路地へ入っていく。そういうグラデーションから気持ちよさって生まれてくると思うんです」
街の特性を取り入れることで、その街が好きになり、帰ってくることが楽しみになる。そんな家づくりが、2人の考え方のベースになっているようです。
路地庭は人ひとりが歩けるほどの幅しかなく活動できる広さはありませんが、それでも緑を抜けた風が通り、木の影を写す光が部屋の中に入ってきて、庭としての役割は十分に果たしています。
一方、屋上庭はプランターに果樹や野菜が植えられ、森のような雰囲気。張り出した大きな庇が日差しを遮るため、その下に置いたテーブルではランチをとったり、夜はビールを楽しんだりすることも。
「地面は庭のボリュームを絞ってインテリア空間を大きくしました。その分、屋上庭を広くして人も楽しめるように。都市部の庭への考え方としては、いいアイデアだったと思います」
屋上庭は寝室と同フロアにあるので、朝、起きたらすぐに水やりができる動線に。
「屋上に上がるのが億劫になるとなかなか来なくなってしまう。毎日、必ず来るフロアにすることと、屋根になる庇をちゃんとつけるというのが、このアイデアを成功させるポイントになりました」
室内はグレーや白といった無彩色でまとめられ、ノイズがなくすっきりとした印象。けれども、実は使っている素材はさまざま。
「土間はコンクリート、一段上がった床はオーク3層フローリングを使っています。壁は砂漆喰でちょっとした凹凸があるので光をきれいに反射してくれます。作り付けの棚などにはラワン合板を使用しています」
バスルームはガラスモザイクタイルを使用。磁器製に比べると透明感があり、ポップな色みが水まわりを楽しく彩ってくれます。
「いろいろな素材を使っていても統一感があるのはカラーコントロールをしているからだと思います。グレーのなかでも寒色系から暖色系まであるので、色見本を見ながら丹念にチェックしました。全部同じ色や素材だと統一感が出過ぎてしまうので、バラバラだけど全体としてはまとまっている、というのが好きなんです」
色調を揃え、細かな部分にも配慮することで、無意識にストレスを軽減し、気持ちがいいと思える空間に。そのテクニックとアイデアは、2人が建築家だからこそ実践できたことでもあります。
他にも引き戸のレールを極力、見えないようにするなどディテールには相当なこだわりが。
「一見するとどこにこだわっているのがわからないと思うのですが、、例えばカーテンレールなど、普通だったら仕方ないよね、と妥協してしまう余計なものが目に入らないよう、注意深く設計しました」
開放感のある吹き抜けを中心とした建物を路地庭がぐるりと囲い、内と外があいまいにつながる家は、間取りもあいまい。どの部屋も、時間の経過とともにさまざまな用途で使えるよう決め込まれていないのが特徴です。だから、どこにいても自分の居場所となり、それが心地よさにもつながっています。そして、それをさらに高めているのが、統一感のある色味とノイズのないディテール。そのクオリティの高さは、建築家ならではのもの。人が普遍的に感じる“気持ちいい”の解がここにあります。
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Photography/上原未嗣 Text/三宅和歌子 Illustration/kozo