徳瑠里香 DATE 2024.02.20

大黒柱を家の中心に。“実家2.0”がコンセプトの和モダン住宅

東京23区内の閑静な住宅街に立つ、窓の大きな三角屋根の家。それが、ライター・編集者の徳瑠里香さんが夫と子どもの3人で暮らす一軒家です。住み始めたのは2023年2月。設計・施工には1年半をかけたといいます。そのこだわりの秘密を解く、方程式を紐解いていきます。
徳 瑠里香さん

ライター・編集者。人に話を聞き、編集して伝えること生業に。主に女性の選択と家族のかたちをテーマに執筆活動を行っている。著書にさまざまな境遇の女性たちを取材、家族についてまとめたルポルタージュエッセイ『それでも、母になるー生理のない私に子どもができて考えた家族のこと』(ポプラ社)がある。

家づくりの方程式
大黒柱を中心に空間を
ゆるやかに仕切る
2階はコンパクトに、
動線を考えた間取りで
理想の暮らしを言葉で綴り、
建築家とも共有

この家のコンセプトは“実家2.0”。そもそも新築戸建てにするつもりはなく、当初は都心のマンションを探していたそう。けれど、なかなかいい物件に巡りあえず、都内の住宅街にまで範囲を広げたことで新築一軒家が選択肢に。「建売ではなく自分たちの希望を叶えたいと」、友人の建築家に依頼をしました。

そこからコンセプトワードが出て、建築家から様々なプランが持ち上がっては検討。すべてが決定するまでに約1年かかったといいます。その結果「ベストなプランになったと思います」と、徳さん。そこには徳さん一家の暮らしに対する思いが表れています。

大黒柱を中心に空間をゆるやかに仕切る

方程式
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“実家2.0”というコンセプトは夫妻の実家をイメージしたもの。お互い兄弟姉妹が多く親戚も近くに住んでいたため、家のなかはいつも賑やか。誰でも気兼ねなく訪れられる、人が集まる場所にしたい。そんな思いがありました。

「2人とも田舎育ちで、現代の東京でそんな他人が行き来するような場所が作れるのだろうか、と疑問だったのですが、ふたを開けてみたら子どもの友達から近所の人まで、特に週末は誰かしらが来ている状態。今はうちの子どもだけでなく、まわりの子どもたちも含めてみんなの実家になるといいな、と思っています」

それは家のつくりが誘導している部分もあります。例えば、玄関を入ってすぐは土間に。

「私の仕事スペースになっているのですが、見世棚のある商店のようなイメージを意識しました。土間になっていることでご近所さんがふらっと立ち寄りやすくなっている気がします」

土間を上るとリビング、ダイニング、キッチンとゆるやかに空間が仕切られています。その中心にあるのは吉野檜の大黒柱。

「大黒柱があるって実家な感じがして。錆丸太といって山で皮を剥いでそのまま山で寝かせて天然のカビをつけたもの。これだけ見るとインパクトのある柄ですが、家のなかに置いたらしっくりと馴染んでくれました」

まっすぐでツルツルしているにも関わらず、子どもたちはこの柱をよじ登って遊ぶそう。

ダイニングに目を向けると、壁が額縁のように切り取られ、下には収納付きのベンチが作り付けで設置されています。

「これは床の間のような感覚。同時に人が集まりやすいというのもポイントにしています。子どもたちがベンチにギュウギュウになって座ると、10人以上でテーブルを囲むことができるんです」

さらに、キッチンもステンレストップのアイランド型で、複数人が同時に料理ができる大きさに。ダイニング側の側面は収納になっていて、料理本などが並んでいます。

そして、階段の途中にある通りに向かった窓。これも“家族を開く”という意味を持っています。外界に向かって閉じるのではなく、開くことで街との交流が生まれています。

2階はコンパクトに、動線を考えた間取りで

方程式
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リビング、ダイニング、キッチン、仕事場と生活の要素は1階に凝縮。2階はバスルームとトイレ、夫妻の寝室と子どもの寝室、ゲストルームにもなるユーティリティルームがあるだけ。コンパクトなだけに動線も効率的に考えられています。

その一つが夫妻の寝室と扉一枚でつながったバスルーム。着替えなどもスムーズで、温まったらすぐにベッドに入れるなど、真似したくなる便利なアイデアです。
また、洗濯機置き場からすぐに干し場へ持って行ける配置も快適。日々のことだから、ストレスのないことは一番の贅沢でもあります。

ユーティリティルームはふだんは子どもたちの遊び場に。引き戸を閉めればプライベート空間になるので、ゲストの寝室にしたりなど、様々な使い方ができます。

天井は三角屋根を生かしたつくりに。扉や壁が天井までなく完全に閉鎖されないため、部屋は分かれているものの、一つの空間のような感覚があります。

「2階建てだけど、ひとまとまりになっている。家族3人なのでそれぞれが別のことをしていてもつながっている感じがあります。友人たちが集まったときでも1階で大人が飲んで2階で子どもたちが遊んでいても音が聞こえるから何をやっているのかわかる。このつながり感はけっこう気に入っています」

理想の暮らしを言葉で綴り、建築家とも共有

方程式
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設計を始める段階で、この家でどういう暮らしをしたいのか文章にしてみては、と建築家から提案。そこで、休日の朝はみんなで掃除をする、母娘で絵本『しろくまのホットケーキ』のレシピでホットケーキを焼く、父娘で絵を描いたり、工作といった創作をする、空を見上げて、流れる雲をぼーっと眺めるなど、日記のようにやりたいことを綴って渡したといいます。

それを建築家が解釈して設計に落とし込むことで、この家が完成。
「こういうことがしたいな、というのをつらつらと書いただけなのですが、ほぼ実現できています」

家に合わせて暮らしを整えるのではなく、実践したい暮らし方から家を形作っていく。その理想が、ここには詰まっています。

その暮らしに沿うためにDIYをしたところも。
「壁はシリカライムという漆喰に近いケミカルフリーな左官材を夫が、 天井は木にオスモカラーという自然塗料を夫と仲間が塗ってくれました」。

さらには庭のウッドデッキも夫の自作。そこには2人の共通の趣味であるテントサウナを設置しました。
「庭の先が老人ホームで、樹木がたくさん植えられています。その景色もよくて気持ちいいんです。友達も旅行に来たみたい、と言ってサウナを楽しんでくれています」

その庭の片隅にはハーブと果樹を植えたスペースも。これらも徳さんがやりかったことの一つです。

もっと知りたい、徳さん宅のアイデア
くぼんだ床の間のようなダイニング。壁は天然の左官材シリカライムを自分たちで塗ったそう。
キッチンの壁はタイル張り。色選びに悩んだ末、オリーブグリーンに。ラワン材の棚とも相性抜群です。
玄関から続く、モルタルを敷いた土間。土間であり、徳さんのワークスペースでもあります。

(方程式のまとめ)
安心できる場所でもある新たな実家は、
暮らしの本質がかたちになっている

ナラ材の床、ラワン材の壁や棚、そして、大きな大黒柱。木の質感を生かした家は、モダンに進化した、新世代の実家でもあります。幸せな思い出に満ちた、子どもたちがいつでも安心して帰ってこられる場所。延べ床面積76㎡とそれほど広くないものの、暮らしの原点である家の役割、家族や街との関係性が考えられています。“暮らすとは何か”という本質のみで構成された、スマートな家づくりと出会うことができました。

Doliveアプリには、こうしたさまざまな家づくりのアイデアが詰まっています。
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Text/三宅和歌子 Illustration/kozo

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