自然と交わりながら暮らす。850坪の土地に建つ、温もりあふれるファームハウス
オーストラリアで滞在したファームハウスをテーマに、ご自宅を建てた根岸功さんご家族。自然あふれる約850坪もの土地から、海までは車で5分。趣味のサーフィンや畑仕事、週に一度だけ開店するパン店を営むなど、好きなことを少しずつかたちにしながら、ゆるやかに暮らしています。そんなライフスタイルを実現する、家づくりの方程式を紐解いていきましょう。
15年前に南房総へ移住し、古民家暮らしを経て2019年にご自宅を建てた根岸さんご家族。旅先のオーストラリアで出会ったファームハウスをモデルにした家は、広大な畑とひと続きになった開放的な一軒家です。
根岸さんの家づくりは、土地探しから数えると約4年。果樹を植えたり畑もできる500坪以上の土地を探しましたが、農地転用の許可が必要だったりコスト面などの兼ね合いで土地探しが難航したそう。
「約3年かけて決めたのが、この土地でした。設計は、忍足知彦建築設計事務所の忍足知彦さん。忍足さんが設計した友人の家がとても素敵だったので、紹介してもらったんです。家づくりは、僕らがサーフトリップで訪れたオーガニックファームのイメージをお伝えするところからスタートしました」
約850坪の土地に建つ、
ファームハウスがコンセプトの家
南房総への移住を決めたのは、ご夫妻のサーフィンが日常にある生活への憧れから。海が近くにある暮らしを求めて、この土地へ引っ越したそう。
「ワーキングホリデーでオーストラリアに行ったときに、海沿いの街に住みながらサーフィンをする生活を送っていて。日本でもそんな生活をしたいと思ったのが移住のきっかけでした。子供たちが大きくなったいまは、家族みんなでサーフィンや海釣りも楽しむようになって。次男の明彩陽はまだ砂遊びが中心ですが(笑)」
家のテーマがファームハウスになったのは、移住前の新婚旅行で再び訪れたオーストラリアでの滞在でした。サーフトリップを楽しみつつ「自然あふれる場所に移住するなら、農業もやってみたい。せっかくなら有機栽培での農業を」という思いから、現地でファームステイを体験することにしたそう。
「移住のタイミングで2人とも会社を辞めていたので、せっかくなら移住後の糧になる長めの旅に出ようということになりました。ワークエクスチェンジという、日に数時間働く代わりに無料で宿泊場所や食事を提供してくれるシステムがあるんです。それを利用して、いろんな農家さんを2週間ごとにわたり歩きました。ファーム巡りをしながら、いろんなオーガニックの食物の育て方を見させていただいたんです」
家づくりにあたっては、オーストラリアで撮りためた写真を設計士に見せながら、移住のきっかけや理想の暮らしについて伝えたそう。
「どんな暮らしがしたいか、ということが重要だったので、間取りについてお願いしたことは、平屋風であること、自然光が入る明るいキッチン、そして広い屋根付きのウッドデッキ、その3つだけ。初期段階でつくっていただいた模型が理想通りだったので、ほぼそのままお願いしました。とはいえ細かなところについてもやりとりして、建てはじめたのは設計がスタートしてから1年後。建つまでに半年かかったので、トータルで1年半の家づくりになりました」
「リビング中央にある大窓については、設計士さんからの提案でした。自然光も入りますし、せっかく外に自然あふれる景色が広がっているから、大きくガラス張りにしよう! と」
暮らしのなかにサーフィンがあることも、家づくりのポイントでした。ガラス張りの大窓からひとつながりになったウッドデッキには、サーフボード置き場を。
「実は、このウッドデッキから家の設計を考えていったんです。僕らの生活の中心にはサーフィンがあるので、サーフィンから帰ってきてボードを置いたらそのまま横のお風呂場に行ける導線にしてもらいました。それだけではなく、たまにバーベキューをしたり夕方にビールを飲んだりと、のびのび過ごせる場所でもあります」
「内装は木をメインに。床はブラックチェリー、梁と桁は米松、窓枠はヒノキの仲間の木材です。地元の杉を使うといくらか助成金が出たため、天井や外壁、柱はすべて千葉の杉を使っているんですよ」
壁で仕切らない、風通しの良い開放的な空間
リビングダイニングは、開放感あふれる吹き抜けに。「家族の顔を見ながら暮らしたい」というご夫妻の声を受け、仕切りをほとんど設けず、2階部分にあたる両サイドにロフトが設けられました。
「平屋というイメージをお伝えしていたので、はじめはもっと天井が低かったんです。でも中途半端に2階部分のスペースが狭くなるのはもったいないねという話になり、仕事ができたり、子供達が過ごしたりできるよう天井高を上げてもらいました。」
階段からつながるほうは友人家族が訪ねてきてくれたりするとゲストの宿泊スペースに、ハシゴを使って登るもう片側は、功さんの仕事スペースです。
「子供たちがもう少し大きくなったら部屋を必要とする時期も出てくると思いますが、その期間もそんなに長くないので、その間だけ何かしらの方法で仕切ればいいねと話しています。この際、そんな時期が来たら小屋でも建てる?みたいな。子どもたちが独り立ちしたあとは夫婦2人で過ごすわけですから、そんなに部屋は必要ないよねと」
「鉄製の階段は、設計士さんの提案でした。S字を描くようにあがっていく踏み板のフォルムと素材感が、木をメインに使った空間のアクセントになっていますよね」
「温もりある木と、薪ストーブとのバランスも気に入っています。ストーブに合わせて、片側の壁面は熱が伝わりにくいタイルに。横には、割った薪を屋内へ搬入できる小さな入り口も作ってもらいました。」
オーストラリアで出会ったパンとファームスタイル
奥さまこだわりのキッチンは、家のなかでもっとも明るい南側に。なおかつ、家族の顔を見渡せるようオープンキッチンを採用しています。
「以前住んでいた古民家のキッチンは、北側でリビングと仕切られていたんです。私たちは友人を招いてお酒を飲むのも好きなので、この家はちゃんとキッチンに立っている人も一緒に楽しめる設計にしたかった」とは、奥さまの裕子さん。
「細かい部分で言えば、キッチンの天板は掃除しやすいステンレス、パンをこねるため一部は石板で造作してもらいました」(裕子さん)
毎週金曜日はパン店『KUJIKA The Oven』としても機能しているため、営業中は居住スペースと仕切ることができるよう、ポリカーボネートのスライドドアを設置。柔らかな印象かつ、開け閉めしやすい軽さも気に入っているそう。
そもそも設計段階から、パン店を営むことは決まっていたとか。このきっかけも、オーストラリアでのファームステイでした。
「泊まっていた家のオーナーさんが、『一緒にパンを焼かない?』と誘ってくれたんです。そのときに、焼きたてのパンってこんなにおいしいんだ! と感動して、自分でやってみようかなと。オーナーさんに教えてもらったレシピ本をみながら、ひたすら独学でパンづくりを練習したんです。まずは毎週金曜日だけ、小さくはじめてみました。定番のカンパーニュやバゲット、デニッシュなども焼いています」(裕子さん)
一方の功さんは、畑仕事と養蜂も日課です。「庭の半分くらいは果樹と野菜畑なんです。とにかく毎日忙しい!」と笑みがこぼれます。
「子供たちが学校に行ってから、海に出かけられそうならサーフィンをして畑に出て、仕事をして、 という毎日です。果樹の管理もありますし、引っ越してきた翌年から養蜂もはじめたので、何かしら暮らしに紐づいたことを常にやっていますね」
「家の南西側にあるスペースは、サーフトリップで訪れた宮崎にあるカフェから影響を受けて設置しました。パン屋の営業日はお客さまに庭や向こうに見える海を眺めながらくつろいでいただいています」
裕子さんのパンと、功さんの畑仕事もひとつながり。
「いつか、パンに使う季節ごとの副材料の多くを自家製にできたらいいなと。その気持ちが畑仕事のモチベーションになっているんですよ。好きなことをしながら、目標を持って自然と暮らす。この家ができたことで、そんな理想の生活が叶いました」
もし根岸さん家族が、SEAWARD HOUSEで暮らしたら?
念願のファームハウスを建てて、海がそばにある暮らしを実現した根岸さんご家族。そんな彼らに、Doliveと雑誌『OCEANS』がつくった家『SEAWARD HOUSE』での暮らしを想像していただきました。
海をキーワードにデザインしたSEAWARD HOUSEは、海を身近に感じる一軒家です。機能的なエントランス周り、見せる収納を活用した意外な発想のリビングルーム、開放感満点のデッキスペース。あらゆる場所に快適な暮らしを叶える“Feel So Good!” が詰め込まれています。さて根岸さん、もしご家族で暮らすとしたら、どんなふうに過ごしたいですか?
「こんなセカンドハウスがあったらいいなぁ」と前置きし、SEAWARD HOUSEで過ごす1日が頭の中を巡ります。
「建てるとしたら、たまに特別な長い波が割れるシークレットポイントを眼下に見下ろす丘の上が理想ですね。アフターサーフの食事は、仲間や子供たちと手分けをして、海から海の幸、山から山の幸を採取してきて、食材の準備はOKみたいな」
「リビングの見せる棚にコレクションしているお気に入りのお皿たちをテーブルに広げて、料理の得意な友人が、シンプルだけどお酒がすすむおつまみを用意してくれる。ワインが好きな友人はとっておきのナチュラルワインをグラスに注いでくれて。子どもたちは早々に食事も済ませて、みんなで外のデッキで焚き火を囲んで、何がおもしろいのか、顔を見合わせてはしゃぎあっている。みたいな、大人はお酒を楽しんで、子どもたちも遊べたりしたら楽しそうですよね」
「少しずつ空はオレンジ色に染まって、遠くの街のあかりがポツポツと灯り始める。他愛もないけど、幸せな夏の始まりの夕暮れ。これ、ぜんぶ妄想ですが……(笑)」
SEAWARD HOUSEに掻き立てられ、妄想がぐんぐんと広がっていったよう。根岸さんの人生のテーマとも言える“海とともにある暮らし”。そのあくなき思いは、まだまだふくらんでいきそうです。
photo/宮前一喜 text/金城和子 illustration/kozo