キッチンを中心にリノベーション。脳裏に描いた“夢の住まい”を再現した家づくり術
一度見たら憧れる、おしゃれでこだわりが詰まった家。でも、「そんな家ってどうやったらつくれるんだろう」「建築のプロじゃないとつくれないのでは」と感じている人もいるのでは。“あの人の家づくり手帖”は、個性的な家をかたちにした経験者から具体的な家づくりアイデアを伺う企画です。
今回登場いただくのは、家族と暮らすご自宅のリビングの一角をアトリエとして使用し、ニット作品を生み出している井上久美子さん。家主の理想を夢いっぱいに詰め込みながらも、その手法は現実的。参考にしたいポイントが満載の家づくりにフォーカスします。
- 家ができるまで
自分の理想と人の理想は違うから、意思疎通を大切に。 - 家づくりアイデア①
理想のキッチンを実現するため、個人輸入もいとわない。 - 家づくりアイデア②
惚れ込んだ家具は、“それありき”の設計を。 - 家づくりアイデア③
一気に印象を変えたいときは“色壁”が味方に
自分の理想と人の理想は違うから、意思疎通を大切に。
井上さん一家が現在の住まいに引っ越したのは、2020年初夏のこと。築18年ほどのマンションの一角を購入し、大方をリノベーション。リノベーションの選択をした理由はニット作家として活動する久美子さんも、デザイナーである夫の智博さんも「新しさより古さに魅力を感じる」から。
「リノベーションを前提に、新居の絶対条件がルーフバルコニーでした。というのも、私は植物が好き。以前の住まいから観葉植物を育てていましたが、どうにも日当たりが悪くて。でも、さんさんとお日様が注ぐルーフバルコニーがあれば、思い切り植物を育てられますよね」
理想の住まいを射止めるまでに要した期間は、なんと丸一年。ルーフトップバルコニーばかりか、ダイニングキッチンに面したベランダまで備えています。
「内見の瞬間に“ここだ!”と思いました。それなのに他の方との契約が決まったという、断りの連絡が入ってしまって…。落胆したものの、妥協はできません。妥協せずに物件探しを続けていたところ、断りの連絡から半年後だったかな? 売却されたはずの住まいが、物件サイトに上がっていたんです。感激したのも束の間、すぐに契約を決めました(笑)」
コロナ禍による施工の遅れはありつつも、リノベーション会社との打ち合わせはトントン拍子。なぜなら、「どんな間取りや内装にしたいのか、イメージが固まっていたから」。
ご夫妻はイメージソースとなるインテリア雑誌の切り抜きをプリントアウトし、設計士との綿密な意思疎通を図ったといいます。同時に、一部の設備はご夫妻自らが個人輸入。上手にコストダウンをしながら間違いのないアイテムを手配し、実際の施工時に装備漏れが生じることのないよう、しっかりリストまで自作したというから脱帽です。
そうして完成した住まいは、上質さとリラックスムードを見事に両立。広々としたベランダの開放感も相まって、家主のこだわりと暮らしやすさがのびのびと同居しています。
さらにはアンティーク調だったり、北欧テイストだったり、シックだったり、スペースごとにころころと変わる表情も印象的。統一感がありながらもメリハリある住まいの表情に、理想に対する“確固たるイメージ”を持つことの大切さを教えられた気がします。
井上さん邸から紐解く、家づくりアイデア
家づくりアイデア①
理想のキッチンを実現するため、個人輸入もいとわない。
≪キーワード≫
#キッチン #パントリー #ヨーロッパテイスト #シーザーストーンの天板 #タイル
久美子さんが「何よりもこだわりました」と話すのが、こちらのキッチン。日当たり抜群のベランダに面し、いかにも開放的。「本当はアイランドスタイルにしたかったんです。でも、耐震の関係上、それは難しくて」と振り返りながらも、可能な限りの理想を凝縮しています。
お子さんと一緒に料理を楽しめるように調理スペースを広く採り、キッチンの奥にはパントリーも完備。複数のカップボードを設え、お気に入りの器の収納場所にも困りません。ヨーロッパテイストを基調に、キッチンの水洗は個人輸入。ホワイト・ブラック・ストーンから成る、モダンかつシックな印象に仕上げています。
「特にコストをかけたのは、シーザーストーンの天板。なかなかのお値段でしたが、ここの素材は絶対に妥協したくなくて。そのぶん、トイレとバスルームのリノベーションは譲歩。十分に使える状態でしたし、住みながら手を加えていくのも悪くないかな、と思って」
理想の住まいの実現は、確かに予算とのせめぎ合い。だからこそ、時には譲歩の姿勢も大切に。明確な優先順位と、住みながら手を加えるというフレキシブルな考え方が理想のキッチンを実現させ、後悔のない家づくりを叶えています。
家づくりアイデア②
惚れ込んだ家具は、“それありき”の設計を。
≪キーワード≫
#インテリア #ヴィンテージ #チェスト #造作キッチン #レイアウト #寸法
「引っ越すならこんな家にしたいよね、こんな家具を入れたいよね、なんて会話が日常茶飯事。日ごろから当たり前のように夫と話していたので、特に揉めることもなく(笑)。リビングにレイアウトしたヴィンテージのチェストも、夫婦そろってのお気に入りです」
そう。造作かと錯覚してしまいそうなチェストは、実は購入品。シンメトリーのデザインが美しくも独特なチェストがここまで部屋になじむ理由は、“家具ありき”の設計をしているから。キッチンのカップボードと違和感なく接しているのも、設計の妙があるからです。
「設計士さんへの参考資料として夫が製作した完成予想図にも、このチェストが組み込まれていて(笑)。やっぱり、普段からインテリアの話を重ねているからですよね。私としても納得のレイアウトでした」
家づくりアイデア③
一気に印象を変えたいときは“色壁”が味方に。
≪キーワード≫
#アトリエ #色壁 #ピンク壁紙 #子供部屋 #ブルー壁紙
ニット作家として活動する久美子さんのアトリエは、リビングの一角。壁の一部を深く削るようにしてスペースを確保したように見えますが、実はここ、リノベーション前は押し入れだったそう。かつての押し入れを活用し、毛糸が詰まった棚は夫・智博さんのDIY。
「昔から“自分だけの小さな基地”のような空間に憧れていたんです。自分だけの場所だからこそ、壁の色もとことん、自分好み。明るすぎず暗すぎず、絶妙にくすんだピンクの壁紙は国内メーカーにはなく、ここの壁紙はオランダのメーカーのものを選びました。壁紙の色はもちろん、白壁との境に設けたゴールドのあしらいもお気に入りです」
リビングは生活の拠点となる場所。それでも「このスペースのおかげで、気持ちのオン・オフの切り替えがしやすいんです」と久美子さん。それにはきっと、地続きの空間であっても印象をがらりと変化させる、色壁のエッセンスが影響しているはず。
そして、キッズルームにはブルーの壁紙をチョイス。多くの人にとって、子どもの玩具とセンスある部屋の表情を両立させるのは、なかなかの悩みの種。しかし、爽やかさと落ち着きが同居するブルーの壁紙にビビッドな玩具が映え、北欧モダンの趣さえ漂っています。
もっと知りたい、井上さん邸のアイデア
こだわりを実現するため、優先順位を明確に。
「今の住まいに引っ越して以来、友だちを招く機会が増えたんです。これは間違いなく、開放的なキッチンのおかげ。外の景色を眺めながら気持ちよく料理ができるし、キッチンが広ければこそ、大人数の料理を作るのも苦になりません。それに、子どもと料理をするにも広々。子ども2人と一緒にギョウザを包めるのも、こだわりのキッチンのおかげです(笑)」
そして、こだわりのキッチンを実現させるために譲歩したトイレとバスルームのリノベーションは、今後の楽しみへと変化。「どんな風に改装するか、考えなくちゃ!」と声を弾ませる久美子さんの様子に、これからも続く家づくりの楽しさを垣間見ました。
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photo/宮前一喜 text/大谷享子 illustration/kozo