一度見たら憧れる、おしゃれでこだわりが詰まった家。でも、「そんな家ってどうやったらつくれるんだろう」「建築のプロじゃないとつくれないのでは?」と感じている人もいるはず。“あの人の家づくり手帖”は、個性的な家をかたちにした経験者から具体的な家づくりアイデアを伺う企画です。
今回、登場いただくのは、埼玉県ののどかな住宅地にマイホームを構えるAkaneさん一家。ご夫妻が「ここは終の棲家!」と口を揃えるまでに妥協なく、満足度の高い住まいはいかにして完成したのか。新築でありながらヴィンテージの趣が色濃く漂い、同時に生活動線もしっかり考慮された、長く暮らし続けたくなる家づくりに迫ります。
- 家ができるまで
上手に引き算しながら、ウソのないヴィンテージに。 - 家づくりアイデア①
高く、広く。味わいと開放感を両立させる羽目板の壁と天井。 - 家づくりアイデア②
ナチュラルにウッドが引き立つ、異素材ミックスのキッチン。 - 家づくりアイデア③
ぴたっと生活に寄り添う、1階のファミリークローゼット。
上手に引き算しながら、ウソのないヴィンテージに。
Akaneさん一家のマイホームが完成したのは2023年7月。ただし、家づくりを考え始めたのは、それから3年も前のこと。なぜなら、ご夫妻が心を奪われた工務店は家族経営。アットホームで丁寧に一軒ごとに時間をかけ、年間に手掛ける戸数はわずか12軒。
「しかも、当時はコロナ禍の真っ只中。ウッドショックも重なって、私たちが予想していた以上に時間がかかる、と。それでも絶対に、この工務店にお願いしたかったんです。新築なのにヴィンテージのような面持ちが、私の理想にぴったりだったので」
そう、Akaneさんご夫妻が大事にしたのが、“ウソのないヴィンテージ”の趣。新築でありながらも人が長く暮らしてきた気配を感じられる、温もりある住まいの姿を実現させるため、ウッドショックにもひるむことなく、工務店と共にじっくりと素材を吟味。
アンティークの板材やユーズドの足場板、時にはエイジング加工のされた素材も織り交ぜながら、コストを上手に引き算。ご夫妻の理想を的確に伝えるべく、工務店とのイメージ共有には何枚もの画像を用い、「この画像のここが理想!」と書き込みも入念に。
もちろん、のびのびと暮らすための間取りも熟考。その結果、生活動線と一体化するようなクローゼットを備えた吹き抜けのLDKは、何とも開放的。一方、2階に集約した個室はシンプル・イズ・ベスト。簡素を徹底した2階もコスト減に貢献しています。
Akaneさん宅から紐解く、家づくりアイデア
家づくりアイデア①
高く、広く。味わいと開放感を両立させる羽目板の壁と天井。
≪キーワード≫
#吹き抜けリビング #漆喰壁 #3連窓 #羽目板 #ヴィンテージ
一家のマイホームは吹き抜けの2階建て。庭に面した漆喰の白壁に大きな3連窓を設え、日当たりも開放感も抜群に。同時に、階段に面した板壁も開放感にひと役買っています。
「ヴィンテージの雰囲気を強く出すため、節の表情の強い古材を一面に張っています。この古材を縦張りにしたのは、工務店さんのアイデア。縦張りにすることによって空間の印象が縦に伸び、天井がより高く感じられますよね。このアイデアには大感謝です」
一方、玄関からダイニングキッチンの天井には、アンティークの古材を横張りに。すると、空間が横にのびのびと広がるように見え、開放感と同時に広さまで際立ちます。
家づくりアイデア②
ナチュラルにウッドが引き立つ、異素材ミックスのキッチン。
≪キーワード≫
#キッチン #モールテックスの天板 #アンティークの板材 #タイル壁
「私たち夫婦は、ちょっと凸凹です(笑)。ヴィンテージが大好きな夫に対して、私はナチュラルなインテリアが好み。さらには身長が高めの夫に対して、私は低身長。キッチンには特に、こうした夫婦の凸凹をフラットにするための工夫が詰まっています」
旦那さまの好みであるヴィンテージの趣を一手に引き受けているのが、カウンターの腰板として張られたアンティークの板材。実はこれ、100年モノだそう。その味わい深い腰板を囲むようなモールテックスの天板と脚に、ウッドの表情が引き立ちます。
一方、キッチンの壁にはホワイトとブラウンのタイルを貼り、奥さま好みのナチュラルな印象に。どちらの色のタイルもあえてフラットな質感は選ばず、緩やかに波打っていたり、凹凸があったりする素材を選び、ヴィンテージとの統一感もしっかりと意識。
そして、キッチンの高さは奥さまの背丈に合わせ、やや低めの設計にした一方、モールテックスのカウンターは標準の高さに。素材もサイズも画一的にはならず、家族にフィットするようなセレクト。この細やかな視点が、後悔のない家づくりのポイントです。
家づくりアイデア③
ぴたっと生活に寄り添う、1階のファミリークローゼット。
≪キーワード≫
#クローゼット #磨りガラス #土間玄関 #オープン収納
玄関を開けて最初に目を奪われるのが、この衣装収納エリア。玄関土間の壁一面にシューズラックが造作され、クローゼットに設けられた内窓の素材は磨りガラス。その手前にもオープンラックを備え、まるでアパレルショップのよう。
「朝起きたら、何はなくとも1階のリビングに降りますよね。そのため、“クローゼットは1階に”が絶対条件。その条件を伝えたところ、玄関と隣り合わせにクローゼットのある大胆な間取りに。シューズラックもオープンラックも、工務店さんのアイデアです」
生活動線に即したシューズラックの配置はもちろん、クローゼットも小物を収納できるラックも1カ所に集約していることから、外出前の身支度に無駄はゼロ。さらには内窓の磨りガラスは程よく内部を隠し、デザイン性だけでなく機能性も併せ持ちます。
もっと知りたい、Akaneさん宅のアイデア
LDKを充実させることで、長く楽しく暮らせるように
新築でありながらも経年の深みを感じさせる、渋くもデザイン性の高いAkaneさん一家のお宅。その深みの一方、吹き抜けの開放感を際立たせる工夫も随所に盛り込まれ、そこは長く暮らし続けるのにふさわしい、気持ちのいいマイホームです。
「とにもかくにも、1階に力を入れました。なぜなら、今は小さな娘も息子もいつかは独立します。すると、それぞれの個室を充実させても、将来的には宝の持ち腐れになってしまいますよね。反対に家族が一緒に過ごすLDKにお金をかければ、私たち夫婦が老いて2階に上がるのが億劫になっても、充実した暮らしが続くかな、なんて(笑)」
Akaneさんご夫妻にとって、ここは終の棲家。住まいのどこを充実させ、どこでコストを引き算するのか。お若いご夫妻が老後のことまで考えながらマイホームを完成させられたのは、じっくりと家族の暮らしに向き合う3年の期間があったからかもしれません。
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photo/宮前一喜 text/大谷享子 illustration/kozo