丘の上に立つカリフォルニアハウス。
「海が見える家」のつくり方
一度見たら憧れる、おしゃれでこだわりが詰まった家。でも、「そんな家ってどうやったらつくれるんだろう」「建築のプロじゃないとつくれないのでは?」と感じている人もいるはず。“あの人の家づくり手帖”は、個性的な家をかたちにした経験者から具体的な家づくりアイデアを伺います。
今回訪ねたのは、インテリアデザイナーで、高校生からサーフィンを楽しむ櫛田昌隆さんのご自宅。神奈川県・湯河原の海が見渡せる丘の上に立つ、カリフォルニアスタイルの家はどのように完成したのか。「海が見える家で暮らしたい」という願いを叶えた、こだわりの家づくりに迫ります。
- 家ができるまで
海が見える家で暮らしたい。2軒目のマイホーム - 家づくりアイデア①
バルコニーとルーフトップ、窓から眺める絶景 - 家づくりアイデア②
カラーが異なるドアと壁で、空間を切り替える - 家づくりアイデア③
湿気が上がる、海のそばの家ならではの工夫
海が見える家で暮らしたい。2軒目のマイホーム
湯河原の海が見渡せる丘の上にこの家が建ったのは2022年12月のこと。櫛田さん家族にとっては2軒目のマイホームです。2017年の夏に、ビーチテイストの一軒家を湘南に建てて、東京から移住。そこからわずか4年で引っ越しを決めたその理由は?
「コロナ禍、海に行けなくなって妻が『海が見える家で暮らしたい』と言い出したんです。ローンも30年以上残っていたし老後かなと思っていたけど、『あなたはそうやってすぐ先延ばしにする』という妻の言葉に火が付いて(笑)。その日にネットで土地を探して、後日実際に足を運んで、この土地を購入しました」
結果的に、スタイルのある湘南の家は建てた当初よりも高値で売却できることに。湘南の家と不動産売却を依頼した工務店と再びタッグを組んで、2軒目の家づくりがスタート。コンセプトは、“カリフォルニアの丘の上に立つ家”。
「20歳の頃にアメリカを横断して以来、西海岸のビーチとか、丘の上に立つ邸宅に憧れがあったんです。ここは西海岸ではなく湯河原だけど(笑)椰子の木を植えて、カリフォルニアスタイルの家をつくろうと、インテリアを含め勉強しました」
雑誌のページをめくって情報を集め、平面図をもとに自分で模型をつくりながら熟考。予算を抑えるためにIKEAで資材を調達したり、家具の設計からDIYをしたり。湘南の家の反省点も活かしながら、海のそばの家ならではの実用的な部分にも趣向を凝らしました。
櫛田さん宅から紐解く、家づくりアイデア
家づくりアイデア①
バルコニーとルーフトップ、窓から眺める絶景
≪キーワード≫
#バルコニー #ルーフトップ #ドレーキップ窓 #吹き抜けリビング
玄関から扉を開けて、真っ先に目に飛び込んでくるのが、圧倒的なオーシャンビュー。ダイニングと地続きにあるバルコニーから入ってくるのは、穏やかな風と波の音。普段から窓を開け放って、裸足で外へ出てお酒を嗜んだりテーブルを移動して朝食を食べたり、ひさしのあるバルコニーはもはや部屋の一部。
吹き抜けのリビングには天井まで届く大きな窓。日本では珍しい木製サッシで内開きの「ドレーキップ窓」を設えました。
「手入れがしやすく断熱性もあって、この窓はめちゃくちゃ気に入っています。開放感があって朝晩は気持ちがいいんですが、日中は陽が入って暑いので、映画館で使う暗幕・ロールスクリーンをつけて遮光できるようにしていて。プロジェクターを映せば大画面で映画も楽しめます」
「景色もインテリアの一部」だという櫛田さん。海側に面した1階の各部屋の腰壁の窓は、通常より20cmほど高くして、近隣の家が視界に入らず、海と空の景色だけが見えるようになっています。窓が切り取る景色は絵画のよう。
防水・断熱のため床に鋼板を施したルーフトップには、ジャグジーを設置。夏は水を注いでプールに、冬はお湯を沸かしてお風呂に。
「屋上は子どもたちの遊び場です。熱海や湯河原の海から上がる花火が見えるし、毎朝波をチェックして、妻と交代でサーフィンに行くんですが、お互いの姿がここからわかるんですよ」
家づくりアイデア②
カラーが異なるドアと壁で、空間を切り替える
≪キーワード≫
#色壁 #カラードア #タイル壁 #乱形石壁
櫛田さん宅は、ドアとクロスのカラーが部屋ごとに異なり、それぞれの空間が違った雰囲気をまとっています。それでも全体に統一して流れるのは、遊び心があるカリフォルニアの空気。
ドアは、玄関に連なる2階はビタミンカラーで明るさをプラスし、寝室と子ども部屋、個室が並ぶ1階はアースカラーで落ち着いた雰囲気に。玄関は粘着シートを貼って、室内は塗装で塗り分けました。中でも目を引くのが黄色いドア。
「ここは地図上だとわかりにくいんですが、『黄色いドアの家』と伝えると宅配業者もすぐに見つけられる。来客があるときも『トイレは黄色ね』とドアの色を伝えていて、便利なんです。目印と空間の切り替えに色は変えていますが、雑多な印象にならないようトーンは合わせています」
リビングの壁の一面には、薪ストーブの防火も兼ねて、ブラジル産の乱形石「クォーツストーン」を施しています。キッチンの背面にはミッドセンチュリーを参考に、幾何学模様のタイルを並べ、薄いブルーのタイルをアクセントに。
2階の天井は耐候性のある天然木・レッドシダーを板張りに。距離が近いダイニングはクリア塗装、吹き抜けのリビングと梁があるキッチンは白を塗っています。
家づくりアイデア③
湿気が上がる、海のそばの家ならではの工夫
≪キーワード≫
#ラップサイディング #ルーバー #回遊動線
海のそばに立つ家だからこその実用的な工夫も満載。まず、外壁は西海岸の木造建築でもよく使われる、塩害にも強い「ラップサイディング」のホワイトを採用。
年中夫婦でサーフィンを楽しみ、子どもを連れて海に行くため、玄関から浴室に直結できる回遊動線に。洗面室にある時計付きの鏡は、時間に追われがちな朝に役立ちます。
常に風が抜けるように、北側と南側に開く窓を取り付けて、シーリングファンを回して空気を循環させています。湿気がこもりやすいので、クローゼットの扉はルーバーに。
「海のそばの家は、湿気がこもったまま放っておくとカビが生えちゃうんです。収納扉をルーバーにしたことで、今のところ問題もなく、快適です」
もっと知りたい、櫛田さん宅のアイデア
日々の快適さを土台に、憧れの暮らしを続ける
海が見える家を設計をするうえで、櫛田さんがこだわったのは意外にも、収納場所をちゃんと確保すること。
「一般的に家庭には2,000点の小物があると言われていて。収納場所がないから散らかっちゃうんですよ。“ものを使う場所に収納場所がある”ことにはこだわりました。例えば、リビングとダイニングそれぞれにティッシュBOXとゴミ箱を備え付けています。ベンチの下は収納になっていて、子どもが散らかしたおもちゃや仕事道具をささっと片付けられるんです」
日々の快適さが土台にあってこそ、海が見える憧れの暮らしは長く続いていくのかもしれません。
「徒歩1分の距離に砂浜があるので、家にいるか海にいるか。湯河原には山も川もあって、カブトムシもいるから、子どもたちにとっては最高の環境です。家で景色を眺めていても、空の色も波の音も日々変わるので、全然飽きないんですよ。引っ越してから、家にいる時間とお酒の量が増えました(笑)」
人生2度目のローンというハードルをひょいと飛び越えた櫛田さんの自宅には、快適に過ごすための実用的な工夫と、憧れの「海が見える家」をとことん味わうための遊び心が溢れていました。
photo/宮前一喜 text/徳瑠里香 illustration/kozo