アクセントカラーが映える。 斜めのラインと素材の切り替えがリズミカルな家 DATE 2024.09.26

アクセントカラーが映える。
斜めのラインと素材の切り替えがリズミカルな家

一度見たら憧れる、おしゃれでこだわりが詰まった家。でも、「そんな家ってどうやったらつくれるんだろう」「建築のプロじゃないとつくれないのでは?」と感じている人もいるはず。“あの人の家づくり手帖”は、個性的な家をかたちにした経験者から具体的な家づくりアイデアを伺います。

今回訪ねたのは、都心にある86㎡のマンションの一室をフルリノベーションした、冨永識さんの住戸。さまざまな素材を使い、カラフルだけれど統一感があります。友人でもある建築家・赤池一仁(ARED ARCHITECTS)さんとともに作り上げた、家族4人が快適に暮らすためのアイデアについて伺いました。

駅から徒歩10分以内、こだわったのは立地と広さ

家族構成は夫と子ども2人。夫とともにそろそろ自分たちの好きなテイストを生かした資産を持ってもいいかも、と思い始めたのが、冨永さんたちが家探しを始めたきっかけでした。約2年前から物件を探し始めましたが、当初はなかなか決まらず、いったんストップしたことも。それからしばらくして再び本格的に不動産会社とやりとりし、2023年、ようやく自分も夫も納得できる物件に巡り合いました。

「それまでは一方がいいと思っても、もう一方はあんまり……という物件ばかりで。ここは初めて2人ともがいいいね、と意見が合ったところなんです。そういう部屋は貴重だと友人からアドバイスされ、そこからはとんとん拍子に決まっていきました」

家を探す上でもっとも重要視したのが立地と広さ。
「まずは広さを最優先に85㎡以上を探していました。次に都心に近いこと。ここは東京・渋谷からも近くて、最寄駅からも徒歩10分以内。また、価格もできるだけ抑えたかったので、その分、築年数にはそこまでこだわりませんでした。ここは築47年ですが、マンション自体はきれいに保たれていました。ヴィンテージマンションの場合、管理体制がしっかりしているかはマストなチェック事項だと思います」

もともとフルリノベーションすることは決めていて、見積もりを出してもらっているなかで、大学時代からの友人である建築家・赤池一仁さんに相談。そのまま設計をお願いすることになりました。

「リノベーションする際に参考にした家は特にはないのですが、リノベのテレビ番組やInstagramの写真などはよく見ていました。イメージを受け取っていた感じです」

家づくりアイデア①
リビングの広さにこだわった、すべてが見渡せるワンルーム
≪キーワード≫
 #リノベーション #ワンルームアイデア #透けるカーテン #ワークスペース

リノベーションするにあたり、ほぼワンルームにするというのは最初からの希望だったそう。
「子どもが自分の部屋を欲しいというのは限られた期間でしかない。なので、そのためだけの部屋を作るのはもったいないと思ったんです。それよりもできるだけリビングを広くしたかった。そこで、廊下を作らず、寝室とリビングはガラスの引き戸で分け、子どものプレイスペースも透けるカーテンで仕切るようにしました」

リビングを広くするため、元々キッチンがあった場所から今ある位置に移動。バスルームやトイレなど水回りをできるだけ玄関側に寄せて、ベランダ側の空間を広く使えるようにしました。

さらに、通常は日が入りにくい玄関側に持ってくることが多い寝室も、あえてベランダ側に。そうすることで廊下をなくすプランが実現しました。

寝室との境の扉はガラスに、子どもが遊ぶスペースには透けるカーテンを設置することで、キッチンにいても全体が見渡せるつくりに。

「子どもたちがどこにいるかが一目でわかるので、安心できます」

もう一つ、特徴的なのが玄関の土間に、夫のワークスペースを作ったこと。リモートワークが定着した今、小さな個室を作ったり、リビングの一角にデスクを置いたりする提案が多くなっていますが、せっかく書斎を作っても使わない時間が多かったり、リビングの一角だといろいろな邪魔が入ったりすることも。それならばいっそ、土間にデスクを置いてみては、というアイデアでした。

「ベビーカーなどを置きやすいので土間を広くすることも最初から考えていました。思いついてここをワークスペースにしてみたら、プライベートな空間とも区切れるし、狭いのも落ち着くようで、結果的に正解でしたね」

家づくりアイデア②
斜めのラインで空間にワルツのリズムを作る。
キッチンとつながるリビングダイニング

≪キーワード≫
  #空間を斜めに区切る #ビニル床タイル

ワンルームとはいえ、のぺっと平坦な感じがしないのは、空間に斜めのラインが入っていることにあります。この22°の斜めラインは、彩光を考えて採用したものでした。

「まず、寝室の扉を閉じてしまうとリビングに入る光が、玄関側から向かって右側の窓からだけになってしまいます。それもあってガラス扉にしたのですが、まっすぐのラインだと光もあまり入らないし、広がりがなくなってしまうんです。それで斜めにしてみたらどうかな?と。やってみたら、光も入るし、抜け感もよくなった。彩光と広がり感の確保が斜めのラインにした大きな理由です」

床も同様に斜めのラインで異なる素材が使われています。
「これにも理由があって、水回りはメンテナンスのしやすいビニル床タイルにしています。キッチンをこれにすることは決まっていて、ダイニング下まで伸ばすことで、子どもの食べこぼしをさっと拭けるな、と思って、子どもが座る場所までビニル床タイルにしました。それがちょうど斜めに走るラインになったんです」

また、この斜めラインがワルツのリズムを作っていると、建築家の赤池さん。
ワルツは三拍子の舞曲で、軸の音楽があって成り立っています。生活にも朝、昼、晩など隠れた三拍子がありますが、その三拍子が彩り豊かに踊り出すステップとして“斜めの空間軸”は真新しい“譜面”となる感じがしました。そして、“音符”として様々な素材を扱い機能を超えた造形を与えることで、より魅力を引き立てることができます。」

家づくりアイデア③
高級感ある素材と落ち着いたトーンの色をミックスする。
≪キーワード≫
 #ホテルライク #モザイクタイル #差し色 #躯体現し

もうひとつ気づくのが、さまざまな素材が使われていること。床材はビニル床タイルとフローリング。ビニル床タイルは60cm角と大判で四面に面取りのカービングエッジ処理が施されているので、立体感があり、高級感のある仕上がりに。フローリングはオーク。〈エーディーワールド〉の“ノースショア”と呼ばれる材で、なるべく節のないものを選んだといいます。

玄関には深緑色のモザイクタイルを使用。もともとモザイクタイルを使いたいという希望はあり、深緑色にしたのは赤池さんの勧めでした。
「天井の色に少し薄いピンクを混ぜているんです。これをベースに考えると、アクセントカラーは補色関係にある深緑が合うと思いました。」 と、赤池さん。

薄ピンク色の天井も赤池さんの提案。天井を抜いて躯体現しにしたものの、端材を組み合わせたような造りだったことから、コンクリートのゴツゴツ感を緩和するため暖かさのある色味を選択。また、光が当たると反射する砂粒入りの塗料にすることで、ニュアンスも引き出していま す。

ここで、天井を抜いて躯体現しにする際の注意ポイントも教えてくれました。
「天井を抜くと配線などがぐちゃぐちゃに入っていることがあります。ここでは一部、天井を張って、そこに配線などを収めました。抜く前に配線の処理の仕方も考えていたほうがいいと思います」

床や壁は既存に増し張りをすることで予算を軽減。壁の梁は躯体現しにして、その下の壁は増し張りに。その境界をきれいにおさめるため、木の棚が取り付けられています。そして、その小口をペイントして色をプラス。

その色を拾うように子どものプレイスペースと収納棚のカーテンは透ける素材の赤と黄色を選びました。
「透ける素材なので、そこまで強い印象になりません。もし、色の入れ方が難しいと思っている方がいたら、透けるものや小口といった小さな場所にアクセント的に色を加えるのがお勧めです」と、冨永さん。

「そして少し彩度を落としているのも馴染みやすい理由かもしれません」と、赤池さん。「トーンを抑えて落ち着きのある色を使えば失敗は少ないと思います」

キッチンにはイタリアの石を模したタイルを張っています。こちらも冨永さんの要望。
「細い小さいタイルを使うことも考えていたのですが、模様がある大きめのタイルを使うと高級感が出るので、せっかく自分の好きにできるなら、とチョイスしました」

そして、このタイルが部屋が散らかるのを防いでくれているとも言います。「小さな子がいると、どうしてもぐちゃぐちゃになってしまう。けれど、きれいなものがあることで、スタイリッシュな生活を諦めないで、と鼓舞してくれます。内装ってモチベーションにもかかわると思うんです。ホテルライクな住まい方をしたいという目標もあったので、このタイルを見るたびに頑張れ、と応援してくれている気がしています」

ひとつの部屋のなかにさまざまな素材があるのは子どもの成長にも好影響を与えるのではないか、とも冨永さんは考えています。
「知らず知らずのうちにいろんな素材に出合えるのは情操にもいいのかなって、図工室のようなイメージですね」

もっと知りたい、冨永さん宅のアイデア
ガラスの室内ドアは床面にレールがないタイプを選ぶことで、よりスタイリッシュな空間に
玄関とワークスペースは緑のモザイクタイル張りに。弧を描いた段差が、アクセントにもなっている
寝室は、ウッディでナチュラルな雰囲気に。サビ加工したアイアンのアートピースが印象的
小口のみ塗装仕上げをしたルーバー。ブルーグリーンの壁色とリンクしている

動線にも気を配り、ストレスのない空間に

また、ワンルームにしたことで快適な動線も確保。玄関からクローゼットを通って、キッチンへ直接行ける回遊性のあるつくりになっています。

「食材を買って、いちいちリビングを回り込んで冷蔵庫にしまうのは面倒。帰宅したら上着を脱いでクローゼットにしまい、そのままキッチンへ行ける。この動線はとても便利です」

ゼネコンの設計部で働く冨永さんの初めての自邸は、色も素材も間取りも、好きなものが思い切りよく詰め込まれています。子どもたちが成長するごとに変化するかもしれないと言いつつ、今の暮らしに大満足されている様子。リビング、ベッドルーム、子ども部屋、書斎がそれぞれ個室になっているという通常の間取りのルールを取り払ったアイデアは、多様なライフスタイルの可能性を感じさせてくれます。
Photo/中野理  Text/三宅和歌子 illustration/kozo
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