一度見たら憧れる、おしゃれでこだわりが詰まった家。でも、「そんな家ってどうやったらつくれるんだろう?」「建築のプロじゃないとつくれないのでは?」と感じている人もいるはず。自分の理想をかたちにした経験者から、具体的な家づくりのアイデアを伺う企画です。
家づくりを考えたことのある人なら思い浮かべる、広々と開放的なLDK。その憧れをリノベーションによって実現させたのが、今回、ご登場くださる入江卓郎さん、恵子さんご夫妻。しかも、リノベーションの舞台は一般的な、延べ床面積70㎡のマンションです。
- 家ができるまで
ワンフロアの開放感とDIYの余白。
はじめの一歩は、譲れない希望から - 家づくりアイデア①
可動式の家具が叶える、暮らしの可変 - 家づくりアイデア②
2種類の床がもたらす、ゆるやかな変化 - 家づくりアイデア③
借景を際だたせる、DIYのひと手間
ワンフロアの開放感とDIYの余白。
はじめの一歩は、譲れない希望から
「自分たちの家を持つにあたって、戸建ての新築も中古も、新築のマンションも、一通りを見て回ったんです。どんな形にするにせよ、念頭にあったのは広々としたLDK。ワンフロアの広い空間をつくることは、妻も僕も絶対に譲りたくなくて」
結果的に中古マンションの一室を購入。広々としたワンフロアを実現するためにその一室を選んだ理由は、一般的な3LDKの間取りでありながらも、トイレとバスルームが廊下の片側に集約された構造だったから。
「ワンフロアを広く採りたいのに水場が左右に分かれていては、すこし手間がかかりますよね。でも、左右のどちらかに集約されていれば、水場を移動させる工事は不要。もともとの3LDKのうち、2つの個室の壁を抜けば、それだけで開放的なワンフロアを確保できます」
リノベーションの手間を減らしつつ、コストを下げて理想の住まいを実現できたのも、家探しの段階から、しっかりと理想像を思い描けていたからこそ。そして、住まいのベースが決まれば、次にすべきはリノベーションを手掛ける設計事務所のリサーチです。
「僕たち夫婦は「つくる」のが好きです。だから、自分たちでできるところは自分たちで手を加えながら暮らしたい。そう思い、“何でもやります!”ではなく、DIYの余白を理解くださるテラバヤシ・セッケイ・ジムショにお願いしました。」
そう。この住まいを完成させたのは、リノベーションと卓郎さんによるDIYのタッグ。家探しも設計事務所選びも、住んだ先を見据える姿勢が、家づくりを成功させる秘訣です。
家づくりアイデア①
可動式の家具が叶える、暮らしの可変
≪キーワード≫
#DIY #ヌック #パーテーションアイデア #ソファ #リノベーション
視界が抜けるように広々とした開放的な住まいに憧れるけれど、黙々と趣味に没頭できるようなおこもり感も欲しいし、生活道具や雑貨をしまうための収納も諦められない…。多くの人が抱えるジレンマを解消させたのは、何を隠そう、卓郎さんお得意のDIY。
「家のあちこちに自分たちで手を加えていますが、今のところの一番の大作が、可動式のヌックかもしれません。窓の配置はリノベーション前から変更せず、窓枠のサイズに合わせて設計。ふだんは窓枠に収めておいて、気の向くままに移動させています」
ヌックとは“居心地のいい、こぢんまりとした空間”のこと。ヌックを造るには部屋の壁に大枠のニッチを設えるのが一般的ですが、卓郎さんはこれを可動式に。窓枠に収めるというアイデアにより、リノベーション前の採光性を損なうこともありません。
「広々とした空間と収納の増設を両立させるため、ソファがわりにセットしたクッションの下に引き出し収納をプラスしています。これなら収納にもなるし、ソファにもなります。 また、可動式にすることによって、パーティーションの役目も果たしてくれるんです」
ヌックのソファに腰かけ、憩いの時間を過ごすのはもちろん、ヌックを動かすと、それが空間をゆるやかに仕切るためのパーティーションに。これなら広々としたワンフロアの開放感を維持しながらも、黙々と趣味に没頭できるひとときも創出できます。
家づくりアイデア②
2種類の床がもたらす、ゆるやかな変化
≪キーワード≫
#コンクリート調の床 #ラワン合板 #フローリング
LDKに敷かれたバイカラーの床も、空間をゆるやかに仕切るために一役買っている様子。土間のごとくコンクリート調の床は、夫婦がDIY やデザイン制作を楽しんだり子どもが遊ぶスペース。こちらの床も、リノベーションの完了後に夫婦で一緒に塗装したといいます。
一方、ナチュラルな印象のフローリングには、ローテーブルとソファをレイアウト。こちらでは大きな窓から差し込む陽光を感じながら、家族団らんのひととき。床の印象を変えるだけで、ワンフロアでも気分を切り替えられる。そのことを示すお手本です。
「ただ、最初はコンクリート調ではなく、本当の打ちっぱなしにするつもりだったんです。でも、マンションの構造的に難しく、なおかつ、設計事務所の方から“裸足で歩けないし、コーティングをしても冬場は冷たくてたまらないよ”と教えていただいて」
かくして、ラワン合板の床材にコンクリート調の塗料を塗るという選択に至り、その床にひと工夫をプラス。床材の一部を取り外せるように造作し、DIYの作業時に用いるコンセントを収納。ここは開放的なリビングの一角にある、立派な作業スペースです。
家づくりアイデア③
借景を際だたせる、DIYのひと手間
≪キーワード≫
#窓からの借景 #DIYアイデア #框 #窓枠
「水場が住まいの片方にまとまっていたことともう一つ、この家に決めた理由が窓の外の景色です。なによりも、木々の緑が気持ちいいですし、部屋に入ってこの景色が目に飛び込むのが気に入っています」
家選びの決め手にもなった景色を際だたせているのも、卓郎さんのDIYによる様々な工夫。窓をぐるりと囲む本棚もDIYによるものです。みずみずしい木々の緑とウッディなベニヤの色調が調和し、収納でありながらそのコントラストによって、窓の外の景色がより際立ちます。
窓といえば玄関側にある、楕円の木製窓にも注目。これもDIYがお得意な卓郎さんのアイデアです。一般的なサッシに楕円形にくり抜いたベニヤ板を貼り付けた、単純な構造とのことですが、そのシンプルさながら、高いデザイン性が。もしかすると、住まいをより心地良くするために必要なのは、技術以上にアイデアなのかもしれません。
既成ではない、“余白と可変”を楽しむ家
得意のDIYを持ってして住まいに設けた余白を楽しみ、その楽しみを暮らしの利便性につなげている入江さんご夫妻。夫の卓郎さんは「URM(ウルム)」という名のアイウェアブランドを手掛け、オーセンティックでありながら、今までなかったエッセンスを加えたアイテムを生み出しています。そして、紹介したように入江さんの住まいもまた、部屋の形はスタンダードでありながら、部屋の仕様は既成の考え方にとらわれることのない造りに。
そして、その造りを現実にしている卓郎さんのDIYはリノベーションの完了から5年ほどが経った今も続き、次なるテーマは“家族が何でもできる大きなテーブル”。
「子どもの勉強机と食卓を兼ねつつも用途ごとに段差を付けて、どちらも違和感なくできるような、そんな構想を練っています」。そう聞くと、既製や既成に頼りすぎることなく、自分たちの手で変えられる“余白のある家”の魅力に気づかされます。
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photo/宮前一喜 text/大谷享子