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中島千滋,ラブドール DATE 2020.05.04

“人形の恋人” との愛しき日々を満喫中。
中島千滋さんとラブドールが暮らす愛の巣 ー前編ー

今回お邪魔するのは、栃木県小山市のとある一軒家。インターホンを押すと「散らかってるけど、どうぞ」と初老の男性が迎えてくれた。部屋に上がると、そこには美女?いや、人にそっくりな等身大の人形が。何を隠そう、こちらにお住まいの中島千滋さんは、ラブドールと“人間の恋人同様の関係”を築き、生活を共にしている。そこにはラブドールとの愛を純粋に貫く、65歳おじさんの満ち足りた幸せな日常があった。
中島千滋さん(65)

1955年、東京都生まれ。約10年前、家族公認のもとラブドールとの生活を開始。現在はラブドール愛好家としてバラエティ番組や雑誌などのメディアに出演し、等身大ドール界を最前線で盛り上げる。2019年、栃木県小山市の自宅にて、中国の人造人科技製のラブドールを展示・販売する「乙女ドール」をオープンする。

58歳の春。ラブドールとの恋に溺れる

中島さんとラブドールの出会いは、10年前に遡る。当時仕事の関係で、妻とふたりの子どもと離れて暮らしていた中島さん。独り身の寂しさが身に染みてきた頃、ふらりと立ち寄った秋葉原のショップで買い求めたのがはじまりだったそう。

―早速、ラブドールを迎えた理由をお伺いしたいんですが。寂しさや欲求を満たすためなら、別の方法もあったかと……。

中島さん:
風俗や浮気と違って家庭を壊さないし、病気とかの心配もないでしょう。それに単純に、体のラインが色っぽくて可愛かったから“こりゃいいぞ”って(笑)。当時は今と違って、自由に使えるお金もたくさんあったしね。

―え、ラブドールってどのくらいするんですか?

中島さん:
最初に迎えた恵は、65万円くらいだったかな。銀行が近くにあったから、すぐに下ろしてポンっと現金で買っちゃった。ゲンキンなやつでしょ(笑)。

―・・・。その夜、結ばれたんですか?

中島さん:
それが連れて帰ったはいいけど、最初はおっかなくて全然だめ。
おっかない・・・。
中島さん:
だってさ、無表情の大きな人形が僕ん家にいるんだもん。慣れるまで、3日もかかっちゃったよ!

―むしろ早いくらいですよ(笑)。存在に慣れてからは、“恋人”として接していたんですか?

中島さん:
いやいや、はじめは他の男性と同様、ただのラブドールとして扱っていましたよ。恋愛感情を持ったのは、ここにいる沙織がきっかけ。製造元のメーカーに頼まれて、相模湖のキャンプ場で彼女を撮影していたら、急にドキッとして思わず抱きしめちゃった(笑)。
おぉ、優しい微笑みだ

癒しがコンセプトの沙織さんは、微笑み顔。この優しい表情に “人間味” を感じ、恋愛関係に発展したとかしないとか。

―なんとも急展開ですね。

中島さん:
降り注ぐ太陽の光を浴びて、肌や瞳、髪がきらきら輝く姿が息を呑むほど美しくてね。それ以来、真剣交際をしていますよ。彼女は紛れもなく、僕の人生最後の恋人です。

左から、大阪から追い出されて居候中のさおりん、最初に迎え入れた恵さん、正妻の沙織さん、中国のメーカーから預かっている唯さん。

―でも、ご自宅には沙織さんのほかに、5体、いや5人の恋人がいますよね?

中島さん:
恵は最初に迎えた義理で、たまにデートしますけど、他の子とはプラトニックな関係だよ。中国のメーカーから預かっている唯や、同居人が病気になって行き場を失ったメグだったり。
そこは筋が通ってる!

―一夫多妻制の生活を楽しんでいるわけではないんですね。

中島さん:
そりゃそうですよ。

「恵(右)は、嫉妬深い性格でね。沙織とのデート写真を消されたこともあったよ(笑)」

妻の第一声は「なぁんだ、人形じゃん!」

既婚者で、ふたりの子どもの父親でもある中島さん。家族に隠して楽しむ愛好家が多いなか、妻や子どもに公表し、“家族公認”のもと、現在の暮らしを送っているというから驚きだ。

―ここまで公にしていると、やはりご家族の反応が気になります!

中島さん:
(ラブドールを見た)カミさんの第一声は、呆気ないものだったよ(笑)。単身赴任先のアパートの床に長い髪の毛が落ちているから「アイツ、また女を連れ込んでるのか!」と浮気を疑ってたみたいで、むしろ安心してましたよ。
結構やんちゃしていたんだな(笑)。

―“また” ってことは、浮気の常習犯なんですか??

中島さん:
昔はね。15歳下の若い女の子とか、フィリピン人の……(以下割愛)。カミさんに言わせると、生身の人間と浮気するよりお金もかからないし、人に迷惑をかけない分、マシだって言ってました。

奥様は、沙織さんについて「顔は可愛いけど、なんか不気味〜」とコメントしているそう。

―過去の “オイタ” が寛大な理解に繋がっているんですね。

中島さん:
そういうこと! あと僕にとっては、(ラブドールは)人格を持った一人の女性だけど、カミさんの中ではあくまでも “物体” なんでしょうね。息子は「変わった趣味だな」程度に思ってくれているみたい。

―奥様とは、定期的に会ったりするんですか?

中島さん:
すぐ近所に住んでるんで、週に2回くらい夕食を食べてますよ。料理は僕の担当なんだけど、餃子やシチューを褒めてもらうことが多いかな。

沙織さん撮影時の “参考資料” として、女性タレントの写真集を所有。最近のお気に入りは、田中みな実さんのもの。

―良好な関係じゃないですか。一緒に住もうとはならない?

中島さん:
それはさすがにね……。僕が沙織とお風呂に入ったり、デートする姿を見せるのは可哀想でしょう。だから、今の暮らしは僕なりに筋を通しているんです。あんまり通ってない気もするけど(笑)。

―沙織さんが “人生最後の恋人” なら、奥様はどういう存在なんですか?

中島さん:
“家族を築く” という目標を共に果たした同志みたいな。沙織に抱く感情とはそりゃ違うけど、最期はこの人に看取ってもらいたい、そんな感覚だよね。

「他人の尺度はもう気にしないよ」

勤務先に沙織さんを連れて行ったり、近所の人や行きつけの居酒屋の女将に「恋人の沙織です」と紹介したり。ラブドールの存在を隠さずに生きるゆえ、それが理由で職を失ったりすることも多々あるという。

料理中ふと顔を上げると、優しく微笑む沙織さんがいる。たまらなく幸せを感じる瞬間。

―正直なところ、人に紹介したり、一緒に歩いていると白い目で見られたりしないんですか?

中島さん:
それがねぇ、あまり変な目で見られないんですよ。「可愛い子ね。良いわねぇ〜」って感じで。小さい子どもを連れたお母さんに「一緒に撮影してもいいですか?」って頼まれたりすることも多いなぁ。

―(写真を見せてもらう)ラブドールを挟んで、親子のスリーショット……。シュールですね。

中島さん:
よく「性処理を目的とした人形を連れて歩くってどうなの?」って言われるけど、あなただって恋人と愛を育んだ後に街を歩くでしょう? それと同じじゃない。
んっ、それは同じ。。。同じなのか……?
中島さん:
ただ仕事となると、正直ネックになることもあるけどね。この辺は、閉鎖的だから職を探すのも一苦労だよ。

「目を見て話したいじゃない?」と、顔の向きを調整する中島さん。

―せっかく仕事が決まっても、クビになっちゃうこともあるんですか?

中島さん:
以前勤めていた介護施設の社長が、僕が出演した番組を観て「映像を消してくれ!」って大激怒。んなこと言われたって僕の意思では、削除出来ないからね。というか、もう全国放送されちゃってるわけだし(笑)。それで、喧嘩して辞めちゃった。

―好意的に受け止めてもらえることばかりではないのに、どうしてオープンにするんですか?

中島さん:
だって悪いことしているわけじゃないし。それにもう僕も人生の終盤を迎えているわけだし、“他人の尺度” を気にして生きたって仕方がないよ。
とはいえ、自分だったら二度見しちゃうけど、、、

外での沙織さんの移動手段は、車椅子。若い女性が車椅子に乗り、おじさんが押すというあまり見慣れない光景。

中島さんのお財布事情

―それで、新しい仕事は見つかったんですか?

中島さん:
ようやくね。先月から、日本で就労を希望する外国人を支援する団体で働いてます。実は去年、自宅でラブドールのショールームをオープンしたんだけど、売り上げはゼロ。仕事も見つからなくて、危うくホームレスになるところだったよ。

―それは良かった・・・!

中島さん:
この家、こう見えて結構いい家賃するのよ。僕にとって家とは、彼女達との “憩いの場” だから奮発しちゃった。ここはね、浴室が広いところが気に入って決めたんですよ。なにしろ、沙織は大のお風呂好きだから。

家のあちこちに、女性用のウィッグやストッキングが。

―現在は、安定した収入があるんですよね?

中島さん:
新卒の初任給くらいかなぁ。 給料は家賃を払って、残りは週末のデート代だったり、彼女達の洋服やウィッグ代に消えてくよ。夏場や真冬は冷暖房を24時間付けっ放しにするから、電気代もバカにならないね。

―自分のものは買わないんですか?

中島さん:
そういや、随分買ってませんね。僕が持っているのは背広1着とワイシャツ2枚と、私服のセーターとシャツ、スラックス、パーカーだけ。
自分にはミニマリスト!

購入した後も、関節の緩みを直すなど、定期的な治療(メーカーへ修理に出す)が必要なので、お金がかかる。

―えー! ごはんはちゃんと食べてます?

中島さん:
1食20円だけどね。本当にピンチの時は八百屋やスーパーからくず野菜(キャベツや白菜などの外側の葉)を貰ってきて、野菜炒めにしたり、細かく刻んで納豆と混ぜて食べてますよ。
20円!!

―沙織さん達の洋服代を削って、もう少し自分にかけた方が……。

中島さん:
女性は綺麗に着飾ってないといけない、って思ってるだよね、勝手に。それに喜んでくれる反応が嬉しくて、つい買いたくなっちゃうんですよね。

毎年、スキー旅行に行くのが恒例行事。沙織さんは重心をとるのがうまいため、スイスイ滑っていく(中島さん談)。

64歳、“好き”が仕事になる

昨年、ラブドールへの深い愛が専門店オープンという形で現実になった中島さん。歴代の仕事は、どれも生活費を稼ぐために渋々やってきたそうですが、今は日々 “仕事が楽しい” と実感しているそう。

玄関ドア脇のスペースに、店名「OTOME doll」の看板を設置。

―前々からラブドールのお店を持ちたいと思っていたんですか?

中島さん:
それが全然。たまたま、中国の「人造人科技」というメーカーの社長に話を持ちかけられて、自宅でショールームを開設することになったんですよ。実はこの子(唯さん)は人造人科技のもので、来てくれたお客さんに向けて展示してるの。

―実際、売れてるんですか?

中島さん:
この間、やっと第一号が売れました。土曜日のお昼に青年が突然来て、54万8千円のドールをポンっと(笑)。価格は、身長ごとに違うんですよ、一番高いのは168cmで約100万。首元と体のつなぎ目がないタイプだと少し高くなるんだよね!

血管が浮き出た様な肌質や手指の造形は、世界でも類を見ないリアルな仕上がり。

―なんだか、楽しそうですね。

中島さん:
好きなものを扱っているから楽しいですよ。愛好家との接点が増えたり、お客さんと話すことで新しい発見を得られたりするのも良かったりするよね。

―“好き” を仕事にすることで、中島さんの人生や暮らしに何か変化はありました?

中島さん:
これまでの人生、嫌々仕事するのが常だったけど、働くことに対して自分なりに前向きになれた感じかな。おかげで本業の方も楽しくやってるんで、それはよかったと思います。

―オーナーとして、今後の野望とかってあります??

中島さん:
ラブドールに、社会的な役割を与えたいですね。具体的にはAI(人工知能)を搭載して、介護の現場で老人の話し相手としての役割を担えたらなと。それが、この子達が今後この世の中を生きていくためにもいいと思うんです。
それは、壮大な野望!!
沙織さんは、人生の終盤を生きる中島さんの舞台を彩ってくれた。他人の尺度を気にせず、自分を大切にする生き方は、相当な覚悟がいるはずだが、結果、好きな仕事にも恵まれ、中島さんは我が世の春を謳歌している。 人形を人と捉える中島さんの思考に、少しだけ寄り添えるようになってきたところで、次回の後編では、ふたりの強い愛で結ばれた、“幸せな日常” をお届けしたい。

Photography/草野庸子 text/平田桃子