Dolive Doliveってなに?

二手舎,二手舎京都 DATE 2022.11.25
「家は買わなくてもいいし、形だって、誰と住むのかだって自由」。暮らしのカタチが多様化している今、家の使い方自体を見直す人が増えているみたい。そこであなたも、家との付き合い方、住み方、暮らし方を、もっと柔らかい頭で「シン解釈」してみるのはどうだろう? 誰かのユニークなライフスタイルをヒントに、あなたの「こんな暮らしもいいよね」を見つけてみませんか。

今回シン解釈するのは

築80年の織り工場をほぼそのまま古書店・ギャラリー 兼自宅にして働くアマンダさんの暮らし。

台湾出身のアマンダさんが見つけた、
京町家で働き、暮らすおもしろさ

京都、上京区の細い路地の奥。Google Mapを頼りに訪ねても、パッとは入り口がわからない不思議な場所に古書店・ギャラリー「二手舎 京都」はあります。2012年に東京でスタートした古書店「二手舎」の京都店で、東京店と同じく、オンラインでの販売をメインに、企画展示や出版などを行っています。京都店オーナーは台湾出身のアマンダ・ローさん。アマンダさんがフリーランスの仕事で京都を訪れた際、現在の店舗となっている築80年の京町家に一目惚れ。その時、長年仕事で関わっていた「二手舎」の京都店をオープンするアイデアが浮かんだといいます。

「内見に来たとき、まず入り方が面白いなと。外観は高雄(台湾南部の都市)のおばあちゃんの家みたい、と思って。あとは、間取りが田んぼの田の字になっていて、すごく気に入りました。台湾では田んぼをたくさん持っているのが昔から豊かさの象徴だったので、最高の間取りなんです。入った瞬間に、この部屋はこういうふうにしたいっていうアイデアが湧いて、『二手舎 京都』にできるかもって思ったんです。そう言ったら、二手舎のオーナーには『え? ここ大丈夫? 潰れない?』って言われたんですけど(笑)。でも、声が聞こえたというか、呼ばれた気がします」

「できるんだったら、好きにすれば」というオーナーの返事を受けて、フリーランスの仕事も継続しながら、京都店の準備を進めたアマンダさん。2020年10月には開店準備を整え、“予約制の貸切本屋”という珍しい業態でオープンしました。

「基本的には2時間の予約制で有料です。もっと長時間でも貸切ができて、お客様の滞在中に私はお茶やお菓子を出します。打ち合わせをしたり、勉強したり、予約後の使い方は自由。毎月20日はオープンデイにしていて、予約がなくても入れる日にしています」

「二手舎 京都」として生まれ変わった京町家ですが、内装も外装も基本的にはそのまま使っているそう。「京都の典型的な町屋だと細長い家がほとんどなんですけど、ここはもともと機織り工場で、玄関入ってすぐのスペースが全部工場でした。たぶん住みやすいように他の部屋は一段上げて畳になっていて。天井が高かったり、インダストリアルな所もあって、このミックスしている感じがすごく気に入ってほとんどそのまま使っています」

さらに、ここが書店の在り方として面白いのは、アマンダさんがお店に住んでいる、ということ。お客さんに開放している1階は、そのままアマンダさん宅のリビング、キッチン、書斎としても機能しています。1階の奥にあるキッチンは、お店のスタッフも出入りしますが、アマンダさんがふだんのご飯を作る場所でもあります。

「日本の古い家に初めて住んだので、最初は掃除の仕方もわからなかったんですが、暮らすうちにわかってきたことがすごく多くて。ここで暮らすと、季節をすごく感じるんです。春は春風が吹くとか、5月になると夕焼けが長く入るとか、夏はこっちに日が当たるとか。そういう感覚は東京暮らしのときは感じなかったんですね。古い家だからこそ、暑い時にこっちから風が来て、ドアを開けると風が通るみたいな、昔の人の暮らしの知恵が生きてる。だからこういう建具のスタイルにしてるんだとか、だからここが土間で、ここを畳にしてるんだっていう理由が、暮らして2年目くらいで、だんだんわかるようになりました」

2Fのアマンダさんの寝室

オンもオフもパブリックもプライベートも
カルチャーもミックスで

入居した時に残っていた前の住人の痕跡や、さらにその前の歴史を尊重しつつ、新しいアイデアをミックスさせた空間になっている「二手舎 京都」。

「コロナでフリーランスの仕事が延期になったりして1年くらい大変だった中で、少しずつ作りました。休みの時にはソファで横になってネットフリックスを観たりもするけど、ふだんはお客様が入って来るから、常に仕事場っていう意識をしています。お客様がいるときは、仕事をしながらお客様がこの空間をどう使っているのかを観察。ここにはあんまり座らないなとか、ここに本があるのに見えづらかったのかなとか、そういうのを見て、頻繁に模様替えをします。だからここは自分の居場所というより、いろいろな人たちの体験や経験、センスと、私が台湾にいた子どものときの記憶とか、私自身の体験などがミクスチャーの状態になっていると思います」

家具は知人からもらったものとアマンダさんが東京から持ってきたもの、新しくフランス人の建築家に作ってもらったものなどを混ぜて使い、照明は付き合いの長い東京にある古道具屋のオーナーさんがセレクト。扉には台湾の習慣である「福」の字を貼ったりと、本当にいろんなものが混ぜこぜ。

東京でギャラリーに勤めていた頃から、アーティストとお客さんの間の橋渡しをしてきたアマンダさんの“何かと何かをつなげて新しいものを生み出す“マインドが空間作りにも生かされています。あらゆることへの境がない感覚は、アマンダさんの時間の使い方にも影響している様子。

「昼間は仕事で出かけたりして、1日の隙間のどこかのタイミングで、急に展示の設営をしはじめたりします(笑)。その後お風呂に入って、出たら今度は壁の模様替えするとか、24時間のオンとオフがミックスされた暮らし方になってますね。ここに暮らし始めてから、この2年間はそんな感じ」

さらに、ここ最近、茶道を習い始めたことが”つなげる感覚”をより強くしてくれているとアマンダさん。

「実は、二手舎がオープンした時に古道具屋のオーナーさんが選んでつけた照明が日本の茶筅(抹茶を点てる道具)にインスパイアされてつくった作品なんですが、茶道を始める前は茶筅って何かすら知らなくて。その後お茶を習い始めて、茶筅を買い、改めてこの照明を見た瞬間に、なぜかわからないけど涙が出たんです。そのとき初めて、なぜこれが柔らかい光のデザインになってるのかやっとわかった気がしました。お茶を点てるときの、あのあったかいフワッとした感じのことじゃないかなって」

「他にも、茶道で覚えたいろいろなことが、私の暮らしに少しずつリンクしてきた感覚があります。お茶道具を扱うようになって、ふだん料理をするときも器を丁寧に使いたいって思うようになりました。茶花も「覚えなきゃ」って思っていたけど、二手舎で暮らしているうちに、自然と季節の花を飾るようになってきたりして」

「お稽古で畳のスペースだけでもお茶の空間が作れるということがわかったから、空間の作り方を二手舎にもミックスしたくなったりして、そういうのを考えるのが今すごく楽しいです。二手舎のお客さんが本を読みにくるときに、茶室に入っていくような感覚を混ぜたらどうだろう、とか、いつもお客さんに出す台湾のお茶に日本のお茶道具をミックスしたらおもしろいなとか。パーツごとになっていたアイデアが、集まってきて、だんだん自由にアレンジできるようになってきたのかもしれないです」

「家は自分の家でもあるし、みんなの家でもある。気づかなかったことに気づいたり、癒されたりする空間になればいい」

大学生の時に日本に来てから18年経った今、京町家に暮らし、茶道を習ったことで、すごくワクワクしているとアマンダさん。

「実はコロナ禍で初めて料理をするようになったんですが、お茶を始めてからますます料理がおもしろくて。あまんだ食堂っていうハッシュタグをつけて作った料理をインスタにアップしていて、次はそれを本格的にビジネスにもっていきたいんです。日本の懐石に台湾のお茶の文化をミックスさせて、もっとリラックスできる食堂みたいなプロジェクトをやってみたい。あとは服も好きだから、本とファッションの展示をしたり。そうやって、家自体をビジネスにしたいんです。私はここで暮らしているけど、すべてのものを体験できて、売っていて、使えて、暮らせるっていうマルチな空間にしたくて。オンとオフを完全になくして、みんなで一緒に楽しめたらいいなと」

「今も『二手舎 京都』は、お茶のおかわりも自由でお客さんが勝手にうろうろできる空間にはなっています。ときどき全然知らない人同士で友達になったりして。そういうのがおもしろいし、それが本当の家の意味なんじゃないかな、と思って。家は自分の家でもあるし、みんなの家でもあるんです。気づかなかったことに気づいたり、癒やされたりする空間になればいいなと。ここを改装してないのもそれが理由。手を加えてないからこそ気づいたことが多かったから。昔からすでにある空間、暮らし方、やり方をまずはフランクに受け取って、そのあと自分なりに変えていく、そこから新しいことに気づくような場所を作りたいです。古いものの価値を新しく発見するのって、古本にも似てますよね」

台湾には、歓迎の印として最初からお客さんに家の中を全部見せるカルチャーがあるそう。アマンダさんが切り盛りする「二手舎 京都」も、これからますます、全部を見せて、全部をシェアする、新しいものが生まれる”家”になっていくのかもしれません。

Photography/安川結子 Text/赤木百(Roaster) Illustration/蔵元あかり(Roaster)