Dolive Doliveってなに?

DATE 2020.08.13

空き瓶にロマンを映す 6万本の瓶に人生を捧げたびん博士 ―後編―

6万本の空き瓶を収集し、自宅の庭に瓶専用の展示場まで建ててしまったびん博士。現在は、瓶の歴史を後世に残すため、図鑑の制作作業に追われている。瓶コレクター以外にも、大学で講義し、音楽の活動もおこなうアクティブなびん博士だが、その活力はどこから湧いてくるのか。そして、未公開の新たな趣味もDoliveだけに見せてくれました!
庄司太一さん(72)

通称びん博士。武蔵大学で教鞭を取る傍ら(昨年定年退職)、音楽の活動も行う。40年をかけて瓶を集め、現在は『原色日本壜図鑑』の執筆作業に追われている。瓶に関する書物『びんだま飛ばそ』『平成ボトルブルース』を出版する他、オフィシャルブログびん博士の精神界通信も更新中。

図鑑少年が瓶を集めたら?

―小さい頃はどんなお子さんだったのですか?

庄司さん:
“図鑑少年”と呼ばれるくらい、昆虫や生き物の図鑑を眺めているのが好きでした。

―なんだか庄司さんらしいですね。

庄司さん:
昆虫図鑑から動物図鑑、植物図鑑、貝類図鑑まで、生物系の図鑑は網羅してましたね。

全長3cmほどの小さい瓶たち

―それはご両親が?

庄司さん:
覚えていませんが、親父は歴史家で、いとこは生物学者でした。そういう血は受け継いでいるのかもしれません。
ご自身も大学で教えているって、すごい家系!
庄司さん:
瓶は産業考古学として片付けることもできるのだけれど、収集している途中で図鑑が作れるかもしれないないと思ってしまったんです。それが大変なことになるとも知らずに......。

びん神さまからのお告げ

“瓶をたくさん集めたい”というシンプルな動機が、気づけば “図鑑を作るために集める”という目的に変わっていったという。

―壜図鑑を制作途中だとお伺いしました。

庄司さん:
今はラムネ瓶をまとめているところです。ラムネ瓶だけでも、200種類は撮影したかな。
えっ、ラムネ瓶だけで...。

―この中からラムネ瓶を探すだけでも...!

庄司さん:
そう。写真撮るだけでも、気が狂いそうでした(笑)。さらに、一つ一つに解説も書くんですから...。

―考えただけでもゾッとします。

庄司さん:
最初は面倒くさいと思っていましたが、日本ガラス瓶協会の方々や、業界の関係者が期待してくださっているので頑張らないとですね。すべて0から調べ直して書いているの で、歴史的な図鑑になると思いますよ。

―それは、すごい!

庄司さん:
それに、これが最後のチャンスかもしれないなとも思っています。

原稿を書く時に使用しているワープロ

―最後のチャンス?

庄司さん:
瓶の歴史を語れる人はもう亡くなられている方が多く、後世に残せるのは今しかない。大袈裟かもしれませんが、今やらないと瓶に関する図鑑はもう一生できないのではと 思っています。

―なるほど...。

庄司さん:
それに、瓶ブームも来ているので。時代に後押しされているという感覚はあります。びん神様が私に“図鑑を作れ”と言っているのかな、なんて。

びん博士の将来の夢

ご自宅の2階の作業部屋

―びん博士以外の肩書きもお持ちなんですよね?

庄司さん:
最近はライブがあまりできていませんが、音楽活動しています。

―おいくつで始めたのですか?

庄司さん:
50歳くらいですかね。弟が32歳で他界してしまったんだけど、天才的なミュージシャンでした。弟の形見のギターを手に取って、始めてみたら結構弾けちゃって(笑)
そんな簡単に弾けるものなのか(笑)

―作詞作曲はご自身で?

庄司さん:
そうです。「空き瓶の歌」っていうのを作って、NHKのラジオ番組で歌ったことがあるんですけどね、全国からたくさん問い合わせが来ました(笑)。
まさかのNHKデビュー済み!!

―どんな内容の歌なんですか?

庄司さん:
借金ができてしまい、人生で一番苦しい時に作った歌です。太陽の光でキラキラする空き瓶を見ていると心が救われて、ただのんびり生きていければ、それでいいんだと思えたんです。歌詞に励まされたという方は多かったですね。

―聞いてみたいです!

庄司さん:
歌ってみましょうかね。

瓶が揺れるほどの熱唱が3分ほど続く

―ありがとうございます!

庄司さん:
今歌ったのは民謡ですが、ライブではパンクロックをやっているんです。
えっ、パンクまで

―また聞かせてください...!他にご趣味はありますか?

庄司さん:
これはまだ未公開なんですけどね、実は廃材を使ったオブジェを制作していて。これについても本にまとめたいなと思っています。
これまた、本格的だな!!

―これの材料って?

庄司さん:
捨ててある廃材、つまり家電製品の部品などです。瓶と一緒にコツコツ集めてきたものを使っています。

―不思議ですが、なんだかかわいいですね。

庄司さん:
すべてにタイトルをつけていて。これは『夏場に扇風機として役に立ちたかった 崩壊天然パーマ機』と言います(照笑)

―どうやって思いつくのですか?

庄司さん:
廃材を観察していると、この部品は目に見えるなとか、これは手と足に見えるなというように、ふと何かに見える瞬間があるんです。

価値がないからいい

―瓶の鑑定もなさっているんですよね。

庄司さん:
依頼が来ればやります。断れない性格なもので......。でも複雑な気持ちではあります。

―なぜですか?

庄司さん:
遺跡調査の場合はいいのですが、値段を聞かれると困ります。高値で売られるのは、本当は嫌ですね。

―元々は不用品ですものね。

庄司さん:
著書『びんだま飛ばそ』を出版して以来、瓶に値段がつくようになってしまって......。ラムネ図鑑を制作中ですが、もうすでに5万円とかでラムネ瓶が売られてしまってるんです。
そんな値段になるんだ!
庄司さん:
瓶には日常にさりげなくある、ホッとする存在であってほしいのです。

私の辞書に「飽きる」という言葉はない

―生まれ変わっても瓶を集めますか?

庄司さん:
来世はもういいかな(笑)。でも、瓶に対しての気持ちは持ち続けていると思いますね。
いいんだ(笑)

―瓶に飽きたこととかないんですか?

庄司さん:
ないですね。本当に私は飽きない。

―それってすごいことです。

庄司さん:
あまりにも多くの瓶を見ていると、疲れて吐き気を催す時期はありましたけどね(笑)
庄司さん:
正直、自分でもびっくりしているんです。集めれば集めるほど瓶がこんなにも手強くて、面倒臭いものだとは思っていませんでしたから。

―でも嫌いにはならない。

庄司さん:
はい。一方で今まで誰も知らない、新しい世界が隠れているんだとワクワクしている自分もいるんです。
庄司さん:
講義みたいに偉そうに話しちゃったけど、究極はみんなが面白がってくれればいいと思っています。こんなにいろいろな瓶があるんだ、くらいに。
取材の最後に述べたのは、奥さんやまわりの人への感謝の気持ちだった。
庄司さん:
何回も瓶のことで家内と喧嘩をして、逃げ出されそうになったことはありますよ。でも、困ったことはない。結局は家族もが応援してくれていたから。本当に感謝するのみだね。
強い想いを持ち続ける人は、まわりを巻き込むパワーがある。「物理的な迷惑をたくさんかけているかもしれない」と庄司さんは言った。確かに家がゴミ屋敷になってしまうほどの瓶に、奥さんは不満を感じているかもしれない。しかし、みんな心から庄司さんを応援している。行動力にエネルギーをもらえるし、瓶に対する純粋な愛が伝わってくるから。そんな庄司さんの人生をかけたチャレンジを応援したい。

Photograpy/本多康司