雑貨やコスメ、本...プチ収集癖がある人はたくさんいるけれど、この人を超えるコレクターはいないんじゃないかな。瓶に魅了され、6万本以上の瓶を集めた庄司太一さん。通称 びん博士。瓶を収納するために、ご自宅の庭に2階建ての展示場まで建ててしまったのだから驚きだ。人生の3分の2を瓶に捧げたびん博士とは、一体どんな人物なのだろう。
庄司太一さん(72)
通称びん博士。武蔵大学で教鞭を取る傍ら(昨年定年退職)、音楽の活動も行う。40年をかけて瓶を集め、現在は『原色日本壜図鑑』の執筆作業に追われている。瓶に関する書物『びんだま飛ばそ』『平成ボトルブルース』を出版する他、オフィシャルブログびん博士の精神界通信も更新中。
びん博士が「瓶の投げ込み寺」と呼ぶこの建物。中には6万本以上の瓶が収納され、人が 一人通れる通路以外は、すべて瓶で埋めつくされている。瓶が綺麗に見えるよう、自然光がたくさん入る設計がこだわりなんだとか。「ボトルシアター」という名で一般開放もおこなっている。
瓶中毒
―いつから瓶に興味を持ち始めたのですか?
- 庄司さん:
- 20代かな。昔ながらの技法で作られた瓶を初めて手に取ったとき、小さい頃の食卓にあった瓶の記憶がふと蘇ったんです。とてもノスタルジーな気持ちになり、心が温かくなりました。
―郷愁にかられたわけですね。
- 庄司さん:
- こんな気持ちにさせてくれる瓶をたくさん集めて、並べたらどんな気分になるのだろうと。
―最初は、見て楽しむためだったんですね。
- 庄司さん:
- はい。眺めているだけで満足だったんですけどね......。
―本格的に瓶を集め始めたのは?
- 庄司さん:
- 大学院卒業後にアメリカ留学した時です。日本では捨てられてしまう瓶が、アメリカでは値段がつけられて、売られていました。それが衝撃で。
アメリカ留学でハマったんだ!
―それで、瓶にも価値があるんだと!
- 庄司さん:
- ガラス瓶のヴィンテージという価値観を初めて知りました。『OLD BOTTLE PRICE GUIDE BOOK』という本のタイトルは、今でも覚えています。
- 庄司さん:
- 大学院では英文学を学んでいたので、瓶にハマりかけて、いけないいけないと思っていたのに、どんどん瓶の泥沼にハマっていくわけです(笑)
使用済の瓶しか興味がない
―片っ端から、瓶を集めたという感じですか?
- 庄司さん:
- 惹かれる瓶には2つの要素がありまして、大量生産されたものではなく、人工吹きという職人の手作業によりつくられたもの。それと、瓶は瓶でも空き瓶であるということです。
―人工吹きのものって、やはり全然違いますか?
- 庄司さん:
- ガラスの中に小さい気泡が入っていて、機械では出せない風合いがありますね。歪みや色ムラなどもあり、一つとして同じものはありません。
―現代の瓶には興味がない?
- 庄司さん:
- びん博士と名乗っている以上、新しいものもチェックはしていますが、大量生産されたものは個性的ではないと思ってしまいます。歪みや色ムラのあるものは、センサーではねられてしまうので。
―空き瓶に惹かれるのはなぜでしょう?
- 庄司さん:
- 薬瓶や牛乳瓶など商品として人間の生活に役立った後、瓶は無用なものになるでしょ。
―はい。
- 庄司さん:
- そうして社会のしがらみから開放された瓶を見ると、フリーダム、つまり自由を感じるんですよ。人間も名誉や権威なんて気にしなくていい、生きているだけでいいんだと思わされるんです。
深い話になってきたぞ。。。。
―そういう考えは、何かの影響なのでしょうか?
- 庄司さん:
- 大学生の頃、小難しい文学や美術史を勉強していたのですが、元々シンプルでブルージーな思想には興味がありました。無用だと思われているものに価値を見出したいのかもしれません。
―なんだか瓶にご自身を重ねているようにも見えます。
- 庄司さん:
- そうかもしれませんね。こんなこと言ってると、また病気だって言われちゃうんですよね(笑)あまり濃い話をすると引かれてしまいそうなのですが、これが私の本音なんです。
ゴミ捨て場は空き瓶の宝庫
―瓶はどこで手に入れているんですか?
- 庄司さん:
- 昔はアンティークショップなどありませんでしたので、ゴミ捨て場で拾うことが多かったです。
―なるほど。
- 庄司さん:
- 全国のゴミ捨て場を漁りました(笑)。地方なんかは、共同のゴミ捨て場があって、全部そこに集まっているんです。土の中に埋まっている場合もあるので、掘り出したり。まさに空き瓶の宝庫でした。
さすがにちょっと怖いな(笑)
―収集にはもってこいですが、かなりの不審者ですね(笑)
- 庄司さん:
- ゴミを漁っていて警察に呼び止められたこともありますよ。「瓶を集めてます」って答えると、さらに怪しまれたりしてね(笑)
職人のミスさえ愛おしい
瓶を集めているうちに、瓶は人間の生活と深く結びついていることに気づいたという庄司さん。
―中でもお気に入りの瓶はありますか?
- 庄司さん:
- 大量生産では真似できないような形や歪み、職人の遊び心が見える瓶に惹かれます。ちょっとしたミスなんかがあると、さらにかわいいんですよ。
哺乳瓶/明治40年代
白鶴の瓶/大正
- 庄司さん:
- ほら(哺乳瓶の文字を指差して)、MADE IN OSAKAと書きたかったんでしょうが、MODE IN OSAKAになっちゃってるんですよ(笑)
―ほんとだ!間違えてる!
- 庄司さん:
- 白鶴の瓶なんかは、とても贅沢ですよね。ひょうたん型というのも珍しいのですが、この縦線も型を作った職人の手作業なんですよ。
―逆に今後、手に入れたい瓶とかありますか?
- 庄司さん:
- 昔はたくさんあったけど、今はそういう次元にはもういないですね。瓶の歴史本をつくるための資料を求める段階に入っていますので。
フマキラーの瓶/昭和10年代
コカ・コーラの瓶/昭和70年代
それにしても、この量の瓶、地震きたらやばいな。。。。
―ちなみに、地震が来たら大変ですね......。
- 庄司さん:
- かなりの数の瓶が割れてしまったことあるんです、地震で。しかも貴重な瓶だったので、もう落ち込んじゃって。そりゃあ立ち上がれないくらいのショックでした...。
―悲しいですね...。地震対策はしているんですか?
- 庄司さん:
- それ以来、仕分けてボックスに収納するようにはしているんですけどね。この有様です......(苦笑)
すっ、すごい。。。。。
地方の大学に勤めないかと依頼が来た際、それを拒んだという庄司さん。東京にいれば、骨董市などで瓶を集めることができるが、地方では瓶を集められない。そう考えてしまったと き、瓶に人生をかけているのだと気づかされたという。どこまでも瓶のために生きる。その熱量は只者ではない。次回、瓶収集以外の趣味のことや、これからの夢について掘り下げていく。