2018年に長野県南箕輪村に「センタクアトリエ」を要する一軒家が誕生した。洗濯をしやすい導線を考えて作られた家で、1階が「センタクアトリエ」、2階が居住スペースとなる。この家を作ったのは、「料理を丁寧に作るように、洗濯も丁寧にしてほしい」と語る、洗濯家で洗濯王子とも呼ばれる「中村祐一」さんだ。
中村祐一さん(36)
長野県伊那市のクリーニング会社「芳洗舎」3代目。「洗濯から、セカイを変える」という信念のもと、2006年から洗濯アドバイザーとなり、現在は「洗濯家」。「衣・食・住」における「衣文化」の革新に取り組む。「洗濯王子」の愛称で、テレビ・雑誌など各種メディアにも多数出演。
野球少年が王子になるまで
我々は日々の生活の中で必ず洗濯をする。洗濯機は二層式から縦型になり、ドラム式まで現れた。そんな日々変わっていく、洗濯のための家とはどんな家なのだろうか。。
白に青という清潔感あふれる外観!
―洗濯に興味を持ち始めたのはいつなんですか?
- 中村さん:
- 高校時代までずっと野球をやっていて、進路をどうしようとなった時に、あんまりやりたいことがなくて、実家がクリーニング屋なので、クリーニングの仕事をやるかと。
―遅い洗濯への芽生え!
- 中村さん:
- 東京のクリーニング屋に働きに出て、修行というか、働かせてもらって、そこでハマってしまったんです!洗濯面白いなと。
玄関ポストも洗濯機型というこだわりよう
―実家ではなく東京でハマるんですね!
- 中村さん:
- 22歳の時に「洗濯アドバイザー」になりました。料理や掃除にはアドバイザー的な人がいるのに、洗濯にはアドバイザーがいないと思って。そして、5年ほど前から「洗濯家」になりました。
―洗濯アドバイザーと洗濯家は何が違うんですか?
- 中村さん:
- 洗濯を使って表現するのが洗濯家です。どの界面活性剤を使う?とか、どの仕上げ剤を使う?とかで「自分のスタンス」を洗濯で表現している感じです。
出迎えてくれた王子の笑顔が眩しい…!
―洗濯王子という名前はどこから?
- 中村さん:
- 当時、ハンカチ王子とか、ハニカミ王子とかが流行っていて、そこに乗っかってテレビに出た時に付けられたんです。最初は王子かよ、と思ったんですが今は慣れました!
―奥さんに王子って呼ばれたりしますか?
- 中村さん:
- それはないですが、下の子が保育園の年長なんですが、「洗濯王子、これ洗濯しておいて」と言ったりしますね(笑)
本来は王子が言うセリフなのに!
洗濯機はどれを買うより、どう使うか
―センタクアトリエには何台の洗濯機があるんですか?
―多い! 4台、多い!
- 中村さん:
- 汚れ具合や好みで使い分けています。ドイツ製の洗濯機などは好きで置いています!
右2つがドイツ製「ミーレ」の脱水機と洗濯機
―今の洗濯機ってだいたい全自動ですよね?
- 中村さん:
- そうですね、また性能としても基本的に行き着くところまで行っているので、どれも同じ感じです。
―そんな状況で洗濯の質をあげることってできるんですか?
- 中村さん:
- 何が差を生むかというと「使う人」です。
使う人…!
―全自動の向こう側に行くには使う人の力が試されるんですね!
- 中村さん:
- たとえば、簡単なことですが、水位を変えるだけでも、洗浄力は変わります。
中村さんの着る白いシャツは白の中の白!白が輝いています!
おまかせ機能を信じるな
―水位も全自動だから勝手にやってくれますよね?
- 中村さん:
- 縦型の洗濯機は水位を選べます。洗濯は汚れを水に移す作業なので、水位を一段階あげるだけで変わります。
なんだ、意外と簡単じゃん!
―おまかせを信じるな、ってことですね
- 中村さん:
- そうですね、使う人次第です。洗剤の量もそうです。規定量以上を入れたりしても洗浄力は変わりません。センタクアトリエでは、全部お湯が出るようにしてあります。そちらの方が皮脂汚れなどが落ちるんです。
洗濯王子はもちろん白と黒のタオルを別々に洗う
―ちなみに洗濯が甘い友人知人にはイラっとしますか?
―私が雑な洗濯で、もしかしてイラッとされるかも、と思って全部新品を着て来たんです(笑)
靴下が片方なくなるのは家のせい
―この家の狙いはなんなのでしょう?
- 中村さん:
- 1階部分をセンタクアトリエと呼んでいます。お風呂がこの壁の向こうにあって、2階にリビングや寝室などがあります。普通は「人の導線」を考えて家を建てると思うんですが、「服の導線」を考えて建てました。
壁の後ろがお風呂や洗面台になっている
- 中村さん:
- 洗って、アイロンをかけて、干して、しまうところまでの導線をこのあたりにまとめてあります。洗濯しやすいというのもありますし、生活しやすい家になったと思います。
―確かに洗濯機から干すところが離れている家ってありますよね
- 中村さん:
- 洗濯機が1階にあって、干すところが2階にあったりしますよね。この移動が面倒だと思うんです。
―面倒ですよね!
- 中村さん:
- 靴下が片っぽなくなるとかありますよね?あれは人がだらしないから起きるのではなく、導線がバラバラだから起きるんです。脱ぐところと、洗濯する場所が離れているとか。
なるほど…!
洗濯の優先順位が低すぎる!
「多くの家が洗濯のことをよくわからないまま、家を建てているんだと思います。そこにたいして文句を言いたくて!」と。いつになく早口になる王子。
―王子の文句、聞かせてください!
- 中村さん:
- 設計士さんに話を聞くと、洗濯の優先順位は一番最後と言っていました。衣食住で「衣」が一番に来るのに!
言われてみれば確かに…
―この家は、実際に住みやすいですか?
- 中村さん:
- 僕だけではなく、家族の総意として住みやすいです。家の隅っこの暗いところで洗濯するより、明るい場所に洗濯するスペースがある方がいいじゃないですか。
―明るい方がいいですね!
- 中村さん:
- だから、ここは南向きですし、今後はこういう家が増えたらいいなと思っています。
コンビニの飲み物コーナーのように、引き出しを面からも裏からも引き出せる仕組み
―もともとこういう家のアイデアはあったんですか?
- 中村さん:
- ありました。それを絵を描いたりして、設計する方に伝えました。こんな家を作ったことないと、驚いていましたよ!ただ面白がってくれていました。
―確かにこんな家なら洗濯が楽しくなりますよね!
- 中村さん:
- そうですね、洗濯は365日します。しないとイラッとします!
―そこはイラッとするんですね!
- 中村さん:
- したくてたまらないんですよね。旅行に行っても2泊以上なら、コインランドリーに行って洗濯します。
2泊で!?
中村さんに洗濯についてお話を聞いた。洗濯に対する愛を感じた。だって、洗濯しやすい家まで建てたのだから、その愛は真実の愛。ただおっしゃっていることはもっともで、いつも綺麗な服を着ていると身が引き締まる気がする。洗濯で生活は変わるのだ。次回は洗濯のちょっとしたテクニックなどをお聞きしたいと思う。
Photography/上原未嗣 text/地主恵亮