小島雄一郎 さん
プランナー・ディレクター。新規事業開発のコンサルティングなど幅広く活動。著書に『広告のやりかたで就活をやってみた。』(宣伝会議刊)。WEB『日経COMEMO』でのパワーポイントを駆使したウイットな記事も人気。
「自分が留守の間に、家が働いてくれたら」。そんな発想から賃貸と居住空間がひとつになった「賃貸併用」の一軒家を建てたプランナー小島雄一郎さん。新築の1階に角打ちスタイルの酒屋『いまでや』を誘致し、大家として2・3階で暮らしています。
「はじまりは、コロナ禍で自宅にいる時間が増えたこと。リモートワークが定着したのもあって、せっかくなら住む場所から変えて家での時間を充実させたいと考えはじめました」
「当時は賃貸マンションに暮らしていましたが、それ以前に分譲マンション住まいも経験済みだったので、それならまだ住んだことがない一戸建てに引っ越してみようと決めたんです。清澄白河の近隣には16年近く住んでいて行きつけ店も多いですし、土地勘もあったので、ここにしようと」
はじめは費用が抑えられる中古物件のリノベーションを検討していましたが、このエリアではそのハードルが高いことに気がついたそう。
「リノベーションは魅力的でしたが、建ぺい率(敷地面積に対する建築面積の割合)の問題が出てきました。昔建てられた家の多くは現在の法律で定められている基準をオーバーしていて、住宅ローンが組めなかったんです。残ったのは、土地を購入して新築を建てるという選択肢のみでした」
ところが、新築で建てるとなると想定していた予算がオーバー。そこで浮かんだのが「家に働いてもらう」というアイデアだったそう。
「自宅にいる時間が増えたし、自分で物件の管理ができる。それなら大家として1階を貸し出そうと考えました。さらに賃貸ではなく持ち家なら、1階以外もレンタルスペースとして活用できるので、家が稼いでくれるなと」
清澄白河駅から徒歩7分の場所に13.5坪のほどよい広さの土地を見つけ、“角打ち誘致作戦”がスタートします。
「お酒が好きなので、家のすぐ下に飲み屋があったら最高だなと思って(笑)。ここは住宅街なので、居酒屋じゃなくて“角打ち”がちょうどいい。選りすぐりのお酒がそろいますし、お酒に詳しいスタッフさんに分からないことを教えてもらえるのもいいなと」。“行きつけ”になる店だからと、仲介業者は入れずに自分で店探しをはじめたというから驚きです。
東京中の角打ちをリストアップして、一軒ずつ周って飲み歩いたという小島さん。ビビッときたのは、銀座SIXや錦糸町PARCOなどに出店していても、親しみやすい雰囲気を感じた『いまでや』でした。清澄白河は個人店が多く、ローカルな土地柄なので、その雰囲気に合うと感じたそう。
「カフェは多いんですけど、お酒を買えて、店内で軽く飲めるような店がこのあたりにはあまりなくて。お店にとっても出店するメリットがあるなと感じたんです。『いまでや』はロゴもアートみたいで、ほかの角打ちにはない雰囲気があった。この街の空気に合いそうだなと。そこですぐ、店舗の提案をまとめた企画書を会社の代表アドレスに送りました。話を聞きたいと返事が来てから、結局30パターンほどの企画を出すことになるんですが、僕の行きつけの店に専務をお誘いして、街の空気感や客層を感じてもらいながら口説き落としたんです(笑)」
およそ3ヶ月にわたる話し合いの末、出店が決定。「地元の方から『こういう感じのお店、ほしかったんだよね』とめちゃくちゃ言われるので、頑張ってよかったなと思いましたね」。こうして小島さんの大家としての暮らしがスタートしました。
『いまでや』誘致のきっかけにもなっている、小島さんの家に対するユニークな考え方は、家なのに「あまり自分のものという感覚がない」というもの。1階だけではなく、2階から屋上までの3フロアもレンタルスペースとして貸し出しをしています。
「そもそも建てるときから、一生住む家だとは考えていませんでした。僕にとって家は、生活するなかで立ち寄る場所の一つ。なのでどちらかと言えば、みんなで一緒に楽しむ空間という感覚なんです」
「自宅スペースを貸していると話したら驚かれることも多いですが、貸すと留守にしている間でも家が稼いでくれますし、『いまでや』に立ち寄ってもらうきっかけにもなるので、僕にとってはいいことしかありません。今では、不在にする予定がない日もレンタルに出していて、予約が入ったら『HafH(ハフ)』という定額のホテルサービスを使って都内でホテルステイを楽しんだり、飲みに行ったりしています(笑)」
レンタルをしている2・3階のテーマは「自分が借りたくなるような空間」。
リビング・ダイニングにはバーカウンターをつけたり、サウナや屋上テラスなどを作り、さまざまな過ごし方ができる家づくりをしたそう。中でもレンタルする人に人気が高いのは、2階に作った、小島さんこだわりのプライベートサウナ。
「最初は既製品にする予定でしたが、設計士さんと相談して、最終的に市販のサウナと同じくらいの予算で作れました。サウナパーティ会場として利用してくださる方が実は一番多いんです」
家具や家電を選ぶときの視点も、利便性より「みんなが興味を持ちそうなもの」というチョイスに。
SNSで話題の家電や、憧れのバタフライチェアなど「これ、気になっていたんだよね」と思わず使ってみたくなるアイテムを置いているそう。
各フロアに共通するもう一つのこだわりは、自身がリラックスできるのはもちろん、人が集まったときにゆとりを持って過ごせる空間にすること。
「窓際に作ったロングベンチは、数人でゆったり飲むときにぴったりです。僕にとってもここはリラックスできる場所で、寝起きにコーヒーを淹れてから窓辺で街を眺める時間が好きなんです」
2階の寝室には、仕事に集中するための作業用デスクを作りましたが、広いリビングや屋上テラスがあるおかげで、気分に合わせて好きな場所で仕事ができる、と小島さん。
「メインのデスクで作業したあとは、リビングで音楽を聴きながら仕事したり、屋上で外の空気を吸ってリフレッシュしたり。会社で仕事をしていて息抜きにカフェへ移動するのと同じ感覚で家の中を回遊しています。最近は、夕方になったら『いまでや』で一杯飲んで再び仕事……というのがルーティンです」
「自宅で過ごす時間を充実させたい」という思いつきからはじまった小島さんの家づくり。気になる収支を聞いてみたところ、プラスになってはいないものの賃料はほぼ払わずに済んでいるとか。
「賃貸や分譲マンションでは叶わなかった『誰かに貸して一緒に楽しみたい』という願いも実現できましたし、『僕がいないときも働いてくれる家』としてもしっかり稼働して、これまでにないわくわくした暮らしができています」
さまざまな条件がうまく重なったからこそ実現したようにも見えますが、小島さんは「『自宅の1階にこんなお店があれば』と思ったら、みんなトライしたほうがいい」と言います。
「土地探しから価格交渉、お店の誘致なども、業者さんを入れずにやってみましたが、意外と誰でもできるというのが率直な感想です。よく『企画書を作ってお店を誘致するなんてすごい』と言われますが、構想をまとめてメール1本送るなんて、いつでも誰でもできること。せっかく思いついたなら、行動しなきゃもったいないですよ」
「1階に『いまでや』さんが入ってくれたことで、友達未満のほどよい距離感の知り合いが前より増えました。同年代の人だけじゃなくて、あまり交流したことがなかった年齢層の方との出会いも。あと実は、飲むのは好きでも、以前はそこまでお酒に詳しくなかったんです(笑)。『いまでや』さんに通えるおかげで”おすすめの一本”ができたのも、僕の暮らしのなかでは大きな変化でしたね」
「家には住む人がお金を払うもの」という固定観念をシン解釈して「稼いでくれる家」にたどり着いた小島さんの暮らし。あなたの理想の暮らし方も、もっと柔らかい頭で考えてみても良いかもしれません。
プランナー・ディレクター。新規事業開発のコンサルティングなど幅広く活動。著書に『広告のやりかたで就活をやってみた。』(宣伝会議刊)。WEB『日経COMEMO』でのパワーポイントを駆使したウイットな記事も人気。
Photography/安川結子 Text/ 金城和子 Illustration/蔵元あかり(Roaster)
Doliveから登場した新しい家「No.00」は、住む人らしいライフスタイルを自由に味付けできる家。「家はこうでなきゃいけない」なんてことは一切なく、プレーンなベースのプランにあなたなりの暮らし方や好みのデザインをカスタムすることができます。この記事で登場するさまざまな“暮らしのシン解釈“をヒントに、あなたもあなたなりのアイデアで自由に家づくりをしてみるのはいかがですか?