DATE 2023.11.22

時間が経っても色褪せない。素材使いと立体感で魅せる一軒家

街を歩いていると、外観のデザインを見ただけで入ってみたくなる魅力的な建築に出会うことがあります。「外観探訪部」は、そんな気になる建物の外観にフォーカスし、家づくりのアイデアを学ぶ企画。思わず足を止めてしまう外観デザインから、その魅力の秘密を探ります。

さまざまな素材が織りなす
個性と変わらない美しさを持ち合わせた家。

兵庫県・神戸市に建てられた、地上2階建ての山崎邸。「cherry」と名付けられたこの家は、摩耶山の裾野に位置する昔ながらの住宅街にあります。設計を手がけたのは、eu(ユウ)建築設計代表の村上隆行さん。「景色が楽しめること」「時間が経っても美しい外観」というリクエストを受けて、巧みな素材使いと魅せ方の工夫により、個性があるかつ経年劣化を感じさせない設計プランが完成しました。そんな外観デザインから、家づくりのヒントを探ります。

POINT1:経年劣化を感じさせない天然スレート張りの外壁

「施主の山崎さんも一級建築士の資格をお持ちなので、アイデアを出し合いながらプランを練っていきました。ちなみに『cherry』という名前は、外観が由来なんですよ」と、村上さんは振り返ります。

「はじめに『人が集まる家にしたい』というお話を聞いて、桜の幹が思い浮かんだんです。近くに桜の名所がある土地柄にくわえ、桜は人が集まる木というイメージもあって。そんなところから、素材が持つ表情を生かした有機的な外観デザインを提案しました」

外壁の大半を占めるのは、岩でつくられた天然スレート張り。赤錆のような色合いは、まさに木の幹を思わせる味わい深さがあります。

「外壁にハードウッドを張るプランも提案しましたが、最終的にBR MULTIという素材に決まりました。この素材は経年劣化が目立たず、美しさが保たれるというメリットもあるんです」

「1階部分の壁は、サイディングという外壁材。サイディングには塗装されていたり柄の付いている種類もありますが、コストを抑えるために、山崎さんが自ら無塗装のサイディングに色を塗られたんです。黒い塗装をしてから撥水剤を塗ることで墨汁のようなムラが出て、それがいい味になっていますよね」

POINT2:シンプルだけど、デザイン性のあるカタチ

左上部がななめになった台形のようなカタチも目を引きます。この形状は、高さ制限が設けられた土地のなかで高さを目いっぱい出すための策なのだそう。

「ここは密集した住宅街ですが、高いところからは摩耶山や海を一望できるとてもいい場所なんです。なので山崎さんも、『景色が眺められる家にしたい』と。そのためには建物に高さが必要でしたが、この土地には近隣同士の住環境を維持する高さ制限(北側斜線制度)があるんです。その制限のなかで高さを出すべく、建物の一部をななめに切ったようなデザインを提案しました」

横に飛び出た長方形の窓が、外観のアクセントになるとともに外壁に立体感を与えてくれています。

「窓を外壁の表面にはめ込むと平坦に見えるため、窓を差し込んだようなつくりにして、いきいきとした立体感を出しました。内側の2階部分はリビングと一体になったお子さんのスペースだったので、天井が若干低くなっても問題ないというのも大きかったです」

POINT3:さまざまな素材を駆使して、重厚で立体感のあるファサードに

外構の細かな部分は、建物が完成してから考えていきました。ガレージ部分にかけたステンレスのカーテンや玄関ポーチに敷き詰めたピンコロ石、黒皮鉄の鉄板を加工したポストとインターホンなど、多彩な素材やパーツによって、より外観にボリュームと味わいを出す工夫をしたのだとか。

「駐車スペースには、シャッターではなくステンレスのカーテンを採用しました。シャッターをつけると外観が閉鎖的な雰囲気になりますし、かといって何もないと通りから見たときに車の印象が強くなってしまうので。目隠し効果と、前の道路に車が通った際などに石が跳ねても避けてくれる役割を担ってくれています」

ぶら下げっぱなしではなく、カーテンの裾にチェーンを付けてコーナー部分に引っ張り、裾を広げているのもこだわり。ステンレスという重たい印象の素材を使いながらも外壁とよく馴染んでいるのは、こうした工夫によって下部に軽やかさを持たせているから。

「ピンコロ石を敷いて地上部分も味わいのある表情になりましたし、ポストやインターホンに鉄を取り入れたことで、経年変化を楽しめる箇所もできました。こうした素材の集まりによって、重厚かつ立体感のある外観になったと思います」

暮らしのビジョンと具体的なリクエストがカタチになった「cherry」。デザインのこだわりとともに「家」をどんな場所にしたいかという思いも、外観を考える際のヒントになるのではないでしょうか。ぜひ家づくりの参考にしてみてください。

Photography/宮前一喜 Text/金城和子

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