DATE 2024.05.07

懐かしくて、新しい。昭和レトロな佇まいで老若男女に愛される食堂

街を歩いていると、外観のデザインを見ただけで入ってみたくなる魅力的な建築に出会うことがあります。「外観探訪部」は、そんな気になる建物の外観にフォーカスし、家づくりのアイデアを学ぶ企画。思わず足を止めてしまう外観デザインから、その魅力の秘密を探ります。

あらゆる人を受け入れる、レトロな外観

小田急相模原駅から歩いて5分、商店街の路地に軒を構える『山ノ食堂』。2019年春の開店以来、「ホーロー三段弁当」を看板メニューに、老若男女問わず地元の人々に愛される食堂です。揺れる木々の隣で、昭和レトロな雰囲気を放つその外観は、何十年もそこに在ったかのよう。温かみとシャープさが共存する佇まいは、あらゆる人を受け入れてくれます。

POINT1:年季の入った元八百屋の外観を活かす

「物件ありきで、"昭和レトロ"というコンセプトが決まりました」

そう話す店主の増川さんと西本さんがこの物件と出会ったのは、一緒にお店を開くことを決意してから5年の月日が経った頃。ふたりが暮らす相模原市で、事業計画書を持って物件を探し歩く中、下りたシャッターに「貸します」と書かれた紙が一枚貼られていました。

「30年以上八百屋を営んできたご年配の方が、ちょうど引退されたタイミングだったみたいで。隣には桜と紅葉と柿の木がある。絶対にここがいい!とすぐに大家さんを訪ねました」

物件が決まってから、自分たちで手書きで図面を書いて、地元の大工さんに依頼。DIYもしながら、元八百屋を3ヶ月かけてリノベーション。

「山ノ食堂」の看板を掲げるファサード上部は、元八百屋の年季の入った雰囲気をそのまま残しました。

POINT2:R窓やタイルは昭和の美容室をイメージ

外観の参考にしたのは、赤と青のサインポールがある昭和の美容室。小窓や大きな引き戸の入り口、Rのあしらいはそのイメージから導き出しました。

「葉山で古道具を扱う桜花園さんで、手書きの図面を見ながら選びました。取り付ける位置は自分たちの目線に合わせて調整しましたね」

壁面の下部には、艶のある小口平タイルを施しています。濃淡あるブルーとブラウンの3色を不規則に並べて、“昭和っぽさ”を表現。並ぶガチャガチャや黒電話も相まって、昭和を知る世代はノスタルジーに駆り立てられます。逆に若い世代には新鮮に映るのかもしれません。

「くすっと笑える要素もほしかったので、昭和の懐かしグッズを置いたら、お客さんがうちにもこんなのがあったよってよく持ってきてくれるんです(笑)」

POINT3:温かみにシャープさを足すコンクリートの壁

外壁はコンクリートを左官仕上げ。そのまま残した上部に馴染むよう、濃淡やヒビで“古さ”を加えています。

「古道具の建具やタイルは温かみがあるので、シャープさを出したいなと外壁はコンクリートにして、昔からあった雰囲気になるようにあえて“色”を入れてもらいました。その甲斐あって、オープンして5年目なのに、10年20年やってるみたいねってよく言われます」

がらりと引き戸を開け暖簾をくぐる常連さん。小窓から渡されるお弁当。お客さんから届く昭和グッズや季節の花々。山ノ食堂では日々、そんな温度あるやりとりが交わされています。どこか懐かしい空気が漂う、温かくてフラットな地域の憩いの場。山ノ食堂が老若男女問わず愛される理由が、外観にも滲み出ていました。

text/徳瑠里香

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