街を歩いていると、外観のデザインを見ただけで入ってみたくなる魅力的な建築に出会うことがあります。「外観探訪部」は、そんな気になる建物の外観にフォーカスし、家づくりのアイデアを学ぶ企画。思わず足を止めてしまう外観デザインから、その魅力の秘密を探ります。
ヨーロッパ風の中庭がある集合住宅
高円寺にある3階建ての集合住宅「カーサ・デ・アトリオ」。日本では珍しい中庭のある造りです。設計・施工を手がけたのは「アトリエボーヌ・丸山保博建築研究所」代表の丸山さん。「30年前に初めてヨーロッパを訪れた際に感じたインスピレーションが、今でも私のつくる建築の元になっています」。今回はそんな「カーサ・デ・アトリオ」の外観から新たな家づくりのヒントを探してみましょう。
POINT1:ヨーロッパの塔のような円柱のボディデザイン
まるでヨーロッパの小さな塔のように見える「カーサ・デ・アトリオ」の外観。車庫の上にあたる部屋は円柱状に建てられ、小さな窓と相まってお城のような雰囲気。
外壁は真っ白ではなく、ナチュラルなカラーを選んでいるので、特徴的な形でも自然と周りの風景に馴染んでいます。
POINT2:自然素材を取り入れて、テクスチャーや経年変化を楽しむ
「カーサ・デ・アトリオ」は自然の素材を多く取り入れています。ざらざらとした外壁もその一つ。「外壁はすべて、漆喰に土を混ぜたものを使用しています。この土は栃木県の葛生(くずう)というところで採れるものです。セメント等の石灰岩を掘り出すときに余る土で、本来であれば捨てられる素材だったものを活用したんです。石灰岩の小石が混ざった土で、適度な粘性(ねんせい)と強度があるため、外壁に最適な素材でした」と丸山さん。
エントランスを囲む塀や石畳も自然の石のカラーを生かしたデザインに。色の異なる4種類の石を選んで使うことで、単調にならず、もとの素材がもつ温かみを活かした親しみのある外観になっています。
POINT3:中庭も外観の一部?幻想的な吹き抜けの中庭
「カーサ・デ・アトリオ」の中に入ってみると、そこには吹き抜けの中庭が! 「“カーサ”はイタリア語で『館』、“アトリオ”は『中庭』という意味なんです。それで『中庭のある館』という意味でこの名前をつけました」
建物名の由来にもなっているというこの中庭を、丸山さんは「各部屋のエントランスにも繋がっているため、外観の一部」と言います。
都心に建つ建物でありながら、まわりのビルに遮られることなく空からの光を感じられる珍しいデザインになっています。
円形にくり抜いたような天井やぐねりと曲がった階段など、中庭にも柔らかい曲線を多用。空からの光もグラデーションがかかり、幻想的な雰囲気に仕上がっています。
高円寺に建つ、ヨーロッパのお城のようなマンション「カーサ・デ・アトリオ」。建物のボディを塔のような筒状にしたり、吹き抜けで円形になった中庭を作ったりと、日本では珍しいデザインですが、国内で採れる自然素材をうまくミックスすると東京の街並みにも馴染むことがわかります。憧れの海外の外観をどう取り入れるかの参考にしてみてはいかがでしょうか。
Photography/上原未嗣 Text/赤木百、大倉詩穂(Roaster)