街を歩いていると、外観のデザインを見ただけで入ってみたくなる魅力的な建築に出会うことがあります。「外観探訪部」は、そんな気になる建物の外観にフォーカスし、家づくりのアイデアを学ぶ企画。思わず足を止めてしまう外観デザインから、その魅力の秘密を探ります。
閉じられたファサードながらも周囲に馴染む自然素材の家
窓の無いシンプルなファサードが、スタイリッシュで洗練された印象の北白川の家。設計を担当した『プリヤデザイン一級建築士事務所』代表の高取さんは「住宅街とはいえ比較的交通量のある道路に面していたため、セキュリティ面を考慮し、閉じた印象のファサードにしました」と言います。閉じられた外観からは不思議と威圧感のようなものは感じず、むしろ周囲の環境に溶け込むような閑静な佇まいを感じます。今回はそんな北白川の家の外観デザインから家づくりのヒントを探ります。
POINT1:ファサード面に段差をつけ、奥行きを出す
正面から見ると3つの面に分割されたようなデザインの北白川の家のファサード。斜め横から見てみると、3つの面が別々のヴォリュームとして重なっているのがわかります。「ファサード面を3つのヴォリュームに分割し、ずらすことによって奥行き(陰影)を出す効果を狙っています。これによって閉じたファサードでも威圧感のない外観が生まれました」と高取さん。光や影もデザインの一部として、外観に奥行きのある表情を引き出しています。
POINT2:木はその素材ならではの特徴を活かして選ぶのがコツ
ファサードのなかでも特に印象深い大きな木格子の扉には、米杉が使われています。「北白川の家は西向きに建っているため、雨風や太陽光に強い素材として、水に強く腐りにくい米杉を選びました。また、扉だけでなく外壁面や軒天など、施工方法の異なる複数の箇所で使用したかったため、加工性に富んでいるというのも米杉を選定した理由の一つです」と高取さんは言います。見た目の印象だけでなく、その素材ならではの特徴を活かすことも家づくりのコツなのだとわかります。
POINT3:光や影が自然素材のもつ表情を引き出す
ファサードの素材は、左官材と木のシンプルな組み合わせ。なのに間延びせず、絶妙なニュアンスが表現されている秘密は外壁の塗り材にありました。「職人の左官の手仕事が、コテムラ(コテでムラを残して仕上げること)としてそのまま残されているので、光が当たると陰影にも濃淡が表現されます。時間帯によっても見え方が変わるので印象的ですよ」。力強い左官の手跡と、繊細な木格子の対比も魅力です。
窓が無く閉じたファサードながらも、段差によって生まれる奥行きや、素材の特徴をうまく活かしてデザインされた北白川の家。光や影もデザインの一部として取り入れるように工夫されているのも面白いポイントです。北白川の家の素材の選び方や活かし方を参考にしてみてはいかがでしょうか?
Photography/安川結子 Text/大倉詩穂(Roaster)